ウィリアム・メレル・ヴォーリズ Ⅱ

2014年09月13日 | 近江の思想

 

 

● 神の国の建設とは


ヴォーリズの来日の大目的であるユートピア構想には
『神の国の種を蒔こう』所収のメッセージ71編中に
「神の国建設」がタイトルになっているものはないが、
その内容を示唆することばは全編に行き渡っている。
たとえば、「クリスチャンの使命」(『湖畔の声』
1915年3月号)で貫かれている。以下、転記する。

          

今月をもって、私が近江八幡に到着した時から満十年
にな
ります。近江の国における生活は愉快なものでし
たし、将来も長く同じ生活を続けたいと思います。


最初から払の目的は変らず、今後払の一生をかけて成
就しようとするものと同じです。
の国を建てること
またその建てるお手伝いをすることです

 
この手紙は、神の国の歴史的方面を皆さんとともに研
究するためのものです。
有史以前には、人類は皆ばら
ばらの孤立状態にあり、万人で衣食住を営み、一人で
敵と戦
っていました。ですから、最も強い者が最も豊
かで盛んであり、弱い者は、頭がよくても心
が清くて
も殺されていったのです。

しばらくして強い者は、これまでの方法ではどのよう
にしても安心できないことを悟りま
した。なぜなら、
自分よりもっと強い者が、いつどのような方面から現
れて自分の所有物を
全部強奪してしまうかもしれませ
んから。そこで、共同して種族というものを作りまし
た。

そして、最も強い者が酋長になりました。同種族の者
が相互に助け合って、異種族の者と常
に闘争と掠奪を
繰り返しました。二、三百年前の日本がちょうどそれ
で、群雄が割拠しまし
た。ヨーロッパにおいても同じ
でした。

しかし、だんだん世の中が進んでくるにつれて人々の
視界は広くなり、思いやりや知恵も増え
てきましたし、
また古い種族のいくらかが混じり合って国家を作るよ
うになりました。そし
て殺し合いをやめて助け合うこ
とを始めました。今日の世界は、まだ帝国主義の世界
です。
けれども、すでに新しい世界主義の曙光が見え
始めました現代のヨーロッパの紛争は、帝国主義の
断末魔の苦しみのようです





家族が集まって種族をこしらえた時、家族は失われた
のではなく、また弱くなったのでもありません。むし
ろ、利益を受けて強くなり、かつ安全になったのです。
種族が国家を形づくる時に、封建の藩弱くならないで
藩が県に変わったように、種族は弱くならないで国家
の一部となってますます栄えました。同じように、万
国連合ができる時には、万国法により、また海上警察
により、人口の分布、生産物の分配、天然資源の開発
等を按配して、四海同胞連帯主義の精神が実行され、
すべての国家が強くなり、完全な領域に達するのです。

ですから私たちの国の力が弱まると心配する必要はあ
りません。キリスト教の真の目的は、世界全般にわた
り、このような連帯主義を設立することです。キリス
トが世界に来て人々に教えたことは、個人的、種族的
あるいは国家的な特別の色分けによる利己心と虚栄心
は神の聖旨に適わないということでありました。神は
万人の父であて、億兆の人々は互いに友人、隣人です。

ゆえにその人々が互いに戦い、互いを滅亡させあうこ
とは、父なる神にとって悦ぶべきことではありません。
歴史は、神の聖霊が人の心を通してどこにでも働き、
人には連帯主義を広く実行する責任があることを教え
ています。人は、国家的団結の一段階に連した時にも
う完全な連帯主義に達したと思い込みましたが、神は
イエス・キリストを遣わして、神の聖旨の中にあるさ
らに大いなる連帯主義を示してくださったのです。神
の国は霊の国であり、愛と奉仕の根本主義に立ち、個
人、家庭、国家の区別を超越して、全人類を一家族に
まとめます。全世界はこの方向に漸次進んでいくので
す。

クリスチャンの使命は、神の国がすでに実現されたも
のとして、すべての人にこの高い道
徳を果たすことで
ありまして、隣人にこの道に対する心構えと精神を吹
き込み、神の国の設
立の助けとするのです。これは偉
大な事業です。神の御心です。神のなさることですか
ら必
ず成功します。この重大な点に気がついている人
が少ないために、非常に人を必要とする事
業です。こ
の大いなるキリスト教の活躍に対して、皆さんのすべ
てが満腔の同情をもって加
盟されることを望みます。


            「クリスチャンの使命」
           
           『湖畔の声』1915年3月号



このことは、勿論、『湖畔の声』の発刊の辞に、琵琶湖をガ
リラヤ湖に見立てて高く宣誓されていることでもある。

我は声である、湖畔に叫ぶ声である。
二千年の昔、イエスが風光明媚なガリラヤ周辺に立っ
て天
下にあげた雄大荘厳なる御声を、我はわが琵琶湖
のほとりに立って反響しようとする声である。


我はわが同胞の不安なる生涯に大いなる福音を宣伝し
ようとする者であって、愛国の熱情
にかられ、愛神愛
人の旗幟を立て、世のすべての暗黒と戦おうとするも
のである。


神の声を聞いた諸君よ、来りて我を声援せよ。

勇ましく雄々しく、荘厳なる使命を伝えることを祈り
つつ、第一声かくのごときを出し、
発刊の辞とする。    
                   

                湖声社同人  ウイリアム・メレル・ヴオーリズ
                           武田 猪   平
                           村田  幸一郎
                           吉田 悦   蔵



                 『湖畔の声』第一号発刊の辞

            1912年(明治45年)7月号

 

                  この項つづく

  【エピソード】 


● ヴォーリズ建築 大丸大阪心斎橋

 

 

ウィリアム・メレル・ヴォーリズとの個人的な接点と
して、江戸堀二丁目の
日本キリスト教団大阪教会―ウ
ィリアム・メレル・ヴォーリズ設計の赤煉瓦の教会堂
で知られる―以外に、南堀江の実家近くの大丸心斎橋
がある(いまは懐かしいが、なぜか屋上にあるゲーム
機を完全後略するまで一人で遊んでいたころの記憶が
残っている)。



1993年に完成した本館は、アールデコやネオ・ゴシッ
ク様式を織り交ぜた「大正モダン建築」。大理石を多
用し、玄関ホールの天井にはイスラム様式の幾何学模
様アラベスクもみられる。1945年の大阪大空襲で上層
階を焼失したが、その後、雰囲気を保ったまま修復・
増築されていたが老朽化が進行したため建て替えるこ
とになった。



この心斎橋店は、ネオゴシックスタイルを基本にアー
ルデコの装飾モチーフをちりばめた重厚なデパートメ
ント。当時は天井の高い1階フロアを中2階の回廊が
囲み、その中央最上階までの吹抜からガラス天井を通
して光が降り注いでいた。エレベーターホールや外観
など、当時の姿がよく守られており、美しくライトア
ップされている。「百貨店」という言葉が持っていた
華やかさを今もって感じることが出来るデパートであ
る。

 

【脚注及びリンク】
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1.ヴォーリズの思想、理系おじさんの社会学
ホウィリアム・メレル・ヴォーリズ展-信・望・愛
  -理想の居場所をつくる

3. 一粒社ヴォーリズ建築事務所 公式ホームページ
4. ヴォーリズの思想と事業 ―ヴォーリズ住宅に込め
  られたミッション 大橋二郎 2010.01.30

5. 兄弟愛社会の構築へ―賀川豊彦とヴォーリズをつな
    ぐもの― 加山久夫 
2009.11.12
6. 湖畔の声 粒社ヴォーリズ建築事務所 公式ホーム
  ページ

7. ウィリアム・メレル・ヴォーリズ INAX REPORT
8. ヴォーリズの系譜 ― 『失敗者の自叙伝』における
  系譜の検証と補正 奥村直彦

9. ヴォーリスアカデミー 近江兄弟社学園
10.ウィリアム・メレル・ヴォーリズ展in近江八幡
11.
ヴォーリズ 大丸大阪心斎橋
12.大丸心斎橋店/大阪の近代建築・洋風建築/ヴォ
    ーリズの建築

13.大丸心斎橋店、建て替えへ 築81年「大正モダン
    建築」2014.01.11 朝日デジタル

14.阪大丸百貨店(大丸心斎橋店) 一粒社ヴォー
  リズ建築事務所

15.〔大阪名所図解] 大丸心斎橋店 本館 - 140B
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