二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

起承転転 ~すばら式つげ義春

2015年09月13日 | 座談会・対談集・マンガその他
このあいだから、わたしはつげ義春さんの短編マンガに入り浸っている。
これまで食べた経験のない不思議な果実の食感と味わい、暗鬱な景色の輝き。絶望しているかと思うと、どっこい全然そんなことはない。
いまはトンネルの中にいるけれど、いつかそこを抜け出して、明るい世界へ到達しよう♪
そういう気概やブラックなユーモアがたっぷりつまっている。

つげさんは、いろいろなマンガを描いているから、その世界の特異な魅力を、ひとくち、ふたくちでいい尽くすことなんて、できはしない。
このあいだ日記=blogを書いたばかりだけれど、まだいい足りないことが山ほどある。

「男組」や「美味しんぼ」などの原作者、雁屋哲さんは、ネットにつぎのように書いている。

《1960年代最後から、1970年代にかけて、つげ義春という漫画家は漫画を本気になって読む人間にとって、自分自身の生き方を問われるような奥深い意味を持つ漫画を次々に発表する、目がくらむような人間だった》

その魅力はいま読んでも、少しも衰えていない。それどころか、ますます増しているのではないかしら?
よく知られた代表作のいくつかは、たいへん上質な文学と較べても負けてはいない。
名品「李さん一家」のラストシーンは、はじめ「ふーん」と読み過ごしてしまったが、どうして、どうして。つげさんにしか書けない、ちょっととぼけた味わいが、この種のマンガとしては、最高の形で表現されている。「蟹」という続編もすばらしい*(^-^*)

雁屋哲さんは、また、
《この、「芸術新潮」の1月号(2014年1月号の特集号)を見て、いまだにつげ義春をまともに、評価してくれる人たちが、これだけ多くいると言うことを知って、私は、泣きたくなるほど嬉しかった》と書いている。
これはファンの言なので、多少の誇張はある。しかし、いまのわたしには、雁屋さんのおっしゃることが、十分納得できる。

旅マンガと私マンガ。
つげさんのマンガのおもしろさは、この二つの軸を中心に回っている。
昨夜ベッドの中で「長八の宿」「二岐渓谷」(ちくま文庫「紅い花/やなぎや主人」所収)の二編を読みながら眠ったのだが、いやはや、そのストーリー展開の冴えに、すっかりイカレてしまった'`,、('∀`) こういういわば古典的ともいえる「お話」も書ける人なのである。



ちくま文庫「紅い花/やなぎや主人」には旅マンガの秀作12編が収められている。
「紅い花」
「西部田村事件」
「長八の宿」
「二岐渓谷」
「オンドル小屋」
「ほんやら堂のべんさん」
「もっきり屋の少女」
「やなぎ屋主人」
「リアリズムの宿」
「枯野の宿」
「庶民御宿」
「会津の釣り宿」

「二岐渓谷」までで、そこからさきを読んではいない。あっというまに読みきってしまうのが、もったいないからである。







つげさんのマンガには、60年代70年代の日本の原風景が描かれている。高度成長によって消滅してしまった、なつかしい「あのころの風景」。
しかも、そこに登場するのは、大方高度成長の波に乗り遅れたか、落ちこぼれた人間である。
貧しさのみじめさが、貧しさの輝きと隣り合っている。
つげさんはまた、想像力で描くのではなく、好きな写真を撮って、それを元に描いたり、現実にあったことを下敷きにして描く。
「ぼくはリアリズムなんですね。だから、意味なんてあってもなくてもいいのです。現実とはこういうものだろうということがつたわれば」
インタビューに答えて、そういう発言をしている。こういうところに、つげマンガの核心がある・・・とわたしはかんがえる。

「つげ義春 聖地巡礼行」というような記事が、ネット上にかなり置いてある。
http://blogs.yahoo.co.jp/autumn_snake_1995/63570749.html

こちらは、「長八の宿」のモデルとなった旅館のページ。
「長八の宿」山光荘
http://www.sankousou.com/tsugesan.html

起承転結から起承転転へ。
つげさんのマンガに浸り込み、つぎつぎ読んでいくと、「起承転結から起承転転へ」とでも形容したい、ある気分が生まれてくる。
つげさんが描く女性は皆リアルだなあ・・・手塚さんが、女性を美化し、理想化せずにはいられなかったのとは大違いだと、わたしはつい沈思黙考してしまう/_・)/_・)

ちくま文庫に「つげ義春コレクション」全9巻があって、ほんとうによかった。
昨日は「腹話術師/ねずみ」という貸本時代の初期作品を買ってきた。



このほかに、初期作品のアンソロジーが二冊ある。
「四つの犯罪/七つの墓場」
「鬼面石/一刀両断」


あっちへいったり、こっちへいったり。
そして辿り着いたら、そこにつげ義春がいた♪
つげ義春のすばら式世界。
わたしはいま、どうもそんな気分の中にいる。
「つげさんをお読みなさい。あなたが60年代70年代を知っていてもいなくても。ただし、一回だけ読むのではなく、くり返しお読みなさい。あっ、あれれ~」
一回読んだだけでは見逃してしまっているものが、やがてクッキリと姿をあらわす。

その瞬間のスリルといったら。
・・・背中がぞくぞくしてくるんです。

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