二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「オスマン帝国」鈴木董(講談社現代新書 1992年刊)レビュー

2019年01月21日 | 歴史・民俗・人類学
鈴木董さんは、すずきただしさんとお読みする。東京大学名誉教授で、西アジア・イスラム史を研究、とくにオスマン帝国の専門家として、多くの著書がおありになる。
塩野七生さんの「コンスタンチノープルの陥落」「海の都の物語」「十字軍物語」等を読みながら、歯がゆい思いをたっぷりと味わったため、いずれトルコ史の本を読んでみようとは思っていた。

ヨーロッパ側からではなく、トルコの側に立って、世界史を眺めることが、とても大事だとはわかっていた。したがって何年も前に買ってあったのを、ようやく読み終えることができた(^^ゞ

オスマン帝国は、13世紀末ごろ、アナトリア高原に姿を現し、14世紀にいたって大発展、15~16世紀に最盛期を迎えて、かつての古代ローマ帝国に匹敵するような大帝国を作り上げた。コンスタンチノープルを落としたのは、1453年、第七代スルタン、メフメット二世の時代である。
それ以来、西欧にとっては、イスラムの大領土国家、オスマン帝国は最大の脅威でありつづけた。

しかも、多民族、多言語、多宗教の帝国を、およそ500年に渡って維持しつづける。その意味で、世界史上、まことに稀有な大帝国なので、いつかもう少し詳しく知りたいと思いつづけていた。
キーワードは《イスラム世界の「柔らかい専制》。
つぎに、出版社によるキャッチコピーを引用させていただこう。

《西欧人の見た「残虐な征服者」は、西欧をはるかにこえる先進国だった。羊飼いでも大臣になれる開放的な社会。キリスト教世界で迫害されたユダヤ難民を受け入れた宗教的寛容性。多民族・多宗教の超大国を支えた「柔らかい専制」の秘密に迫る。》

ということになる。

結論をいえば、たいへんバランスのとれた、読みやすい良書で、これ一冊で、オスマントルコの歴史の概略がわかる。この感想を書くためAmazonのレビューを参考までにのぞいたら、26件のレビューが置いてあり、そのうち多くの読者が五つ星をつけていた。
トルコという国は、西洋史と東洋史にはさまれ、いままで、日本人の一般読者には、親しみが持ちにくい国であったのではないだろうか?
われわれのイメージは大方、ヨーロッパ経由で外側から眺めたトルコでしかなかった。

だから、わたしの世界史の知識のうち、オスマントルコは欠落したままだった。
本書では主として政治史に力点が置かれている。
ヨーロッパ列強によるオスマン帝国の解体は、複雑怪奇な民族問題、民族紛争をあちこちで噴出させた。
オスマン帝国では、ある程度差別されながらも共存しえていたキリスト教、ユダヤ教、そして多様な民族の存在。オスマン帝国に見るかぎり、イスラムというのは、それらを巧みにまとめあげた、本来は寛容な宗教なのだ・・・ということが、本書を読むとよくわかる。

露土戦争をへて、第一次世界大戦後、この帝国が滅亡するまでを描いているのではなく、オスマン艦隊が大敗北するレパントの海戦あたりで紙幅が尽きてしまうのが、まことに惜しまれる。254ページの新書なので、やむをえないのだが・・・。
本書のほか、林佳世子さんの「興亡の世界史 オスマン帝国500年の平和 」(講談社学術文庫)もスタンバイさせてある。
まあ、いつになったら「読む気」になるか、それが問題なのだが(。・_・)


評価:☆☆☆☆


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