二草庵摘録

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土肥恒之「ロシア・ロマノフ王朝の大地」興亡の世界史(講談社学術文庫 2016年刊 原本は2007年)を読む

2021年01月16日 | 歴史・民俗・人類学
ロシア文学には、一時期ずいぶんお世話になった。ドストエフスキーを筆頭に、トルストイ、チェーホフなどの、いわゆる“定番”と称される作品ばかり、だけれど(;^ω^)
しかし、きちんとロシア史を学んだことが、これまでなかった。文学の書を読んでいただけでは、本当のロシアは見えてこない。

とはいえ、日本人がロシア史の研究をはじめたのは、おそらく第二次世界大戦後・・・ということになるだろう。そしてソ連の崩壊が、1991年。
それによって、大幅な見直しを迫られることになった。中国とならび、すぐお隣の大国だというのに、一般的にいって、その歴史に対する人気もない。

網羅的な記述が、無知蒙昧なわたしごとき読者にはとてもありがたかった。もっとはやく読んでおかなければいけなかったが、ロシア史は一般読者向けの「良書」がないと思っていた^ωヽ*
ロシアを“わかる”ためには、ロシアのナロード(民衆≒庶民≒百姓)を理解する必要がある、とどなたかおっしゃっていたし、ナロードは、文学作品を読み込んでいくためにも、キーワードの最重要項目となる。

ん、そういえば、

■ビザンツとスラヴ (世界の歴史11巻) 中央公論社1998年刊


・・・の単行本が、探したらベッドルームの平積みの山から出てきた。未読なので、しばらくしたら、こちらも読んでみよう。

さて、BOOKデータベースは、本書をつぎのように紹介している。

《ヨーロッパとアジアの間で、皇帝たちは揺れ続けた。大改革を強行したピョートル大帝と女帝エカテリーナ二世、革命の中で銃殺されたニコライ二世一家。民衆の期待に応えて「よきツァーリ」たらんと奮闘したロマノフ家の群像と、その継承国家・ソ連邦の七四年間を含む、広大無辺を誇る多民族国家の通史。暗殺と謀略、テロと革命に彩られた権力のドラマ。》

本書はあくまで「ロシア・ロマノフ王朝の大地」がテーマ。ロマノフ王朝の研究が、著者土肥恒之(どひ・つねゆき)教授のご専門なのだ。
かくいうわたしにとっては、知らないことばかりなので、書評なんておこがましいとしかいいようがないが、学術文庫版のあとがきには、つぎのようなことばがしるされてある。

《みずからを(ピョートル)大帝の後継者と位置付けた女帝エカテリーナ二世よりも、むしろピョートルを尊崇しながらも「国民性」、つまりロシア固有の価値を追求したニコライ一世の方を重視する視点》から記述した・・・と。
これがおそらく、本書の大きな特色をなしているとかんがえられる。

ピョートル大帝だって、恥ずかしながら名のみでほとんど何一つ知らなかったといっていい。
チェーホフの「桜の園」を読む前に、ロシア史の初歩を学んでおくべきだった。どうも腑に落ちなかったところが、歴史的視野の下に俯瞰されているから「まいったなあ」である。
無知は誤読につながる。

ロシアの19世紀は、八方破れの混迷の時代。トピックがつぎからつぎ押寄せて、書く方も大変だろうが、読む側も必死でくらいついていかないと置いてきぼりを食らう。
第8章「戦争、革命、そして帝政の最期」あたりから、文体が少し変化する。記述がよそよそしくなってゆく。
ロシア史研究も、中国史同様、1990年代になってから本格的に始動したようだ。
もう一度書くが、ソ連の崩壊が1991年。ここを境に、過去の歴史的見直しと書き換えが必須のこととなったのだ。

とにかくシベリアをふくむ、広大極まりない国土。そのシベリアが、どういう経過をたどって開発されていったかまことに興味深いものがある。大多数をしめる農奴=農民に対する考察は、十分行き届いていると思われた。今後ロシア文学を読むうえで、いくつかの重要な示唆をいただくことができた。
著者土肥教授は、律儀で誠実な方なのだ・・・ということが、読んでいるとよくわかる。
事実を年代にしたがって羅列しただけではない。
ロマノフ王朝、とくにピョートル大帝やエカテリーナ二世、ニコライ一世については、著者の温かい視線がそそがれていると思える。ご自分の理念や歴史哲学を押し付けようとしていないから、かえって信頼できる。
むろん、そこが物足りないという読者もいるだろう。

「レーニンと十月革命」以降はかなりの駆け足となるが、やむをえないだろう。
レーニンが受け継いだロシア連邦は、ロシアのほか、15の民族共和国からなる多民族国家なのだ。一筋縄ではいかないのは明らか(゚ω、゚)
ほかの本もあたって、もっと子細に観察してみるつもり。全体の仕上がりは、わたしの見るところ、「ロシア通史」として、十分なレベルに達している。

ロシア史がはじめてという読者にも、文句なしにおすすめできる本である。



評価:☆☆☆☆

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