二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

カフェラッテとブラックコーヒー ~ハードボイルドがおもしろい♪

2018年05月26日 | Blog & Photo
《私がはじめてテリー・レノックスに会ったとき、彼は<ダンサーズ>のテラスの前のロールスロイス“シルバー・レイス”のなかで酔いつぶれていた。駐車場から車を出してきた駐車係は、テリー・レノックスが左足を自分のものではないといったように車の外にぶらぶらさせているので、ドアを閉めることができなかった。顔は若々しく見えたが、髪はまっ白だった。眼つきで泥酔していることがわかるが酒を飲んでいるというだけで、ほかにとくに変わったところのないあたりまえの青年だった。金を使わせるために存在している店で金を使いすぎただけのことだった。》(チャンドラー「長いお別れ」冒頭。清水俊二訳)

これはハードボイルド・ファンにとっては、ハメットの「マルタの鷹」とならび、「聖典」のごとく崇められている「長いお別れ」の有名な冒頭シーン。
いまから25年ばかり前に、わたしもハードボイルド・ファンの端くれだった。
村上春樹訳の「ロング・グッドバイ」が発売されたとき、さっそく買ってきて再読のつもりで読みはじめた。

しかし、である。
10ページほど読みすすめたところで、わたしは自分が、清水俊二さんの「長いお別れ」のファンなのであって、「ロング・グッドバイ」のファンにはなれないことに気が付いた。
なにがどう違うのかを簡単にいうのはむずかしいが、たとえでいうなら、カフェラッテとブラックコーヒーの違い・・・ということになろうか。

洗練され、かゆいところに手がとどくような訳文になってはいるのだろうが、わたしのチャンドラーはもっとぶっきらぼうで、苦み走っていて、不器用な男なのである。絹ではなく、木綿の手ざわりを感じさせる。



古書店でポケミスの「長いお別れ」を手に入れたとき、この冒頭シーンと久しぶりに再会し「うん、これこれ。この味だね」と思っていたら、その数日後、友人Kさんと会食していて、話の流れがハードボイルド小説の方にいった。

「この1-2年、どういうわけかフィクション離れがひどくて、まったく小説が読めない」
とわたしがいうと、
「先日これを買ってね、あっというまに読みおえた。非常におもしろかった」といって、
1冊のハードカバーを取り出した。
それは原尞(はらりょう)が、2018年3月、14年ぶりにハヤカワから発売した「それまでの明日」であった。

https://www.hayakawabooks.com/n/ne98118a27458

ハードボイルド好きといっても、ハメット、チャンドラー、ロス・マクを合わせ10冊程度しか読んでいないから大したことはないのだが、原尞(はらりょう)さんは、その流れのなかで「うん、読まねば」とかんがえていた最右翼の作家であった。

Kさんは夢中になって読んだといって、その感想を、わたしに向かって熱心に話した。
ハードボイルドとは何かというと、「男が男のために書いた男の小説」ということになる(笑)。
これでは解説にも説明にもならないけれど、「男の世界」が書かれている。
酒、たばこ、女、金、犯罪、権力と反権力。
それらが、男の重要アイテムとしてドラマの背景をなす。

苦み走った男の欲望と孤独、哀愁、未練、諦観と断念が、ざらついた手ざわりの文体で、ややぶっきらぼうに描かれているのだ。
そんな文脈のなかに心をさまよわせながら昨日BOOK OFFを散歩していたら、折よくこんな本が200円の棚にあったのを見つけた。
原尞(はらりょう)さんの長編第3作「愚か者死すべし」。





新刊書店にいったら、第1作の「そして夜は甦る」がポケミスとして再刊されているのも眼にした(^^)/

新風を求め何となく悪あがきしているところに友人の影響がくわわり、もし、近々フィクションに復帰することができたら・・・。
この数週間、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズものを少しずつ買いなおしているが、どうもそのあたりに帰っていくように思われる。

男が男の孤独やストレスを慰めるものをどこかに求めるとしたなら、それは活字の世界ではハードボイルドになる・・・と、そんな衝動が、心の片隅でしきりにうずく(^^;)
ある意味で活字人間たるわたしの身辺に、そんな本が、しだいに溜まってきた。

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