二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「東インド会社とアジアの海」羽田正(講談社文庫 2017年刊)レビュー

2018年05月17日 | 歴史・民俗・人類学
本書は5点満点の評価にはおさまりきらない名著であると思われる。まず何より、わたし自身にとって、エキサイティングな知的メニューがぎっしりつまっている。
はじめは、講談社“興亡の世界史”のシリーズ21巻の一冊として、2007年に、ハードカバーとして刊行された。

☆興亡の世界史全21巻リストはこちら
http://www.bibliostyle.com/bnavi/kobo.html

「東インド会社とアジアの海」がおもしろいことに気づき、ほかに
・アレクサンドロスの征服と神話
・スキタイと匈奴 遊牧の文明
・シルクロードと唐文明
・オスマン帝国500年の平和
・ロシア・ロマノフ王朝の大地
・大英帝国という経験
・大日本・満州帝国の遺産

この7冊をすでに手に入れてある。
「東インド会社とアジアの海」と出会っていなければ、このシリーズの真価に気づかなかったかもしれない。

羽田正(はねだまさし)さんは、1953年生まれ、現在東京大学東洋研究所教授である。
「羽田正研究室」
http://haneda.ioc.u-tokyo.ac.jp/

21世紀、いろいろな専門分野で、世界史の見直しがすすんでいる。わたし自身が教わった1970年前後の「世界史B」の常識では、もはや通用しないことは明らか。
新資料の発掘や、地道なフィールドワーク、情報技術の進歩とグローバル化の波、ソ連邦の解体と東西冷戦構造の終焉。こういった変化がたてつづけに起こっており、世界を見る眼のフレームが変わってしまったのだ。

それにくわえ、ウォーラーステイン等の「世界システム論」のめざましい成果が、近代史における“ヨーロッパ中心史観”を大きくゆさぶった。
わたしも「いま世界史がおもしろい!」と、声を大にしていいたい一人である。水野和夫さんらのエコノミスト・経済史家が主張する“資本主義の終焉”という観点からの世界史論も見落とすことができない。

本書はそういった枠組みの変動に対する観点から論じられている。
文体も編集も、卓越した力量と洞察の成果であることは疑いようがない。そいう意味で“眼から鱗”本の一冊。

本書のデータベースにはつぎのように簡潔に紹介されている。
《一七世紀、さかんな交易活動で「世界の中心」となっていた喜望峰からインド、中国、長崎にいたる海域に、英、蘭、仏の東インド会社が進出した。茶や胡椒など多彩な商品でヨーロッパの市場を刺激し、近代の扉を開いてグローバル化の先駆けとなったのである。「史上初の株式会社」の興亡と、その二〇〇年間の世界の変貌を描く、シリーズ屈指の異色作!》

近代の黎明期、成熟期に、オランダ、イギリスに東インド会社なるものが存在した。
そこにフランスなどもくわわり、アジアの海を通した東西貿易が驚くべき繁栄をヨーロッパにもたらした。17世紀、18世紀、富はまさにアジアにこそあったのである。
《アメリカの銀とアジアの物産が「近代ヨーロッパ」の経済的基盤を生み出したのである》(本書367ページ)と羽田さんは書いている。

さらに《近代ヨーロッパ諸国による植民地化の動きが十九世紀を通じて着実に進んでいく。「東インド会社」が終わりを迎えたとき、世界は近代ヨーロッパの論理に従って大きく変化していくのである》(374ページ)
では「東インド会社」とは、世界史にとって何であったのか?
それが本書のメインテーマである。テーマを絞りこんだため、趣旨は明晰・明快。わたしは「学ぶことばかり」で、この一冊に圧倒された。インドというものが、ヨーロッパ、中でもイギリスによって“発見”され、世界史の表舞台に登場するのもこの時期。

「国民国家」がどのように形成され、発展していくのかを論じた部分も読み応えがある。
最新の研究成果を取り入れた本書の378ページにわたる内容を、2000文字程度に卒なくまとめるのは、わたしの力量ではムリである(^^;) 本書を手に取り、お読みいただくしかない。
じつは本書は曽村保信さんの「地政学入門」よりさきに読みはじめていた。惜しみおしみ読んでいたから・・・というより、本書から受ける知的刺激があまりに鮮烈であったため、数ページ読んでは休憩し、他の本に手をのばしたりしていたからである(^^)/
今年になって読んだ世界史に分類される本のNO.1! あなたの世界にそそぐまなざしがさらに深化するはず。
そういった豊かな内容を備えているので、もう一冊買っておこうとかんがえている。書き込み、傍線や括弧が多すぎて、本が傷んでしまったからである。
興亡の世界史には、福井憲彦さんの「近代ヨーロッパの覇権」と井野瀬 久美惠さんの「大英帝国という経験」がある。
昨夜から井野瀬さんの方を読みはじめた(-_-)

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