二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

遠藤慶太「六国史 ―日本書紀に始まる古代の『正史』」(中公新書 2016年刊)レビュー

2019年09月30日 | 歴史・民俗・人類学
うん、これはおもしろかった! 文句なしにおもしろい。
古代史に興味がある人には、必読の書。通史ではなく、古代の六冊の正史に、ピタリと照準を合わせてある。
超有名な「日本書紀」について書かれた一般向けの本なら、いくらだって存在する。「ああ、またか!」といいたくなるくらいに。
ところが「続日本紀」となると、専門家向けならともかく、一般向けとなると、グッとへってしまう(=_=)

1.日本書紀 養老4年(720)
2.続日本紀 延暦16年(797)
3.日本後紀 承和7年
4.続日本後紀 貞観11年(869)
5.日本文徳天皇実録 元慶3年(879)
6.日本三代実録 延喜元年(901)

この6種の史書を指して、六国史(りっこくし)という。
日本史、とくに古代史に関心がある方なら、知らない人はいないだろう、書名だけなら。
近年になり木簡だとか、それに類する同時代の歴史史料が発見されたからといって、いずれも断片的なものに過ぎない。
歴史の闇の点と点をむすび、この時代を解明しようとかんがえたら、研究者には必読の書。

だけどそれらをわかりやすく、順序立てて解明し、解説した本が見あたらなかった。
いやもしかしたら、わたしが知らないだけかもしれないが・・・。
手に入れてから気が付いたが、本書は第4回古代歴史文化賞を受賞している。
こちらでこれまでの受賞作を確認できる。
http://kodaibunkasho.jp/archive.html
ちなみに都出比呂志(つでひろし)さんの「古代国家はいつ成立したか」(岩波新書)はこれから読みたいと思っている著作の一つ。
第6回受賞の河内春人(こうちはるひと)さんの「倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア」(中公新書)はすでに手許にある。

こんな賞が設けられていたなんて、知らなかったぞ! 島根県ほか4県の共同主催、きっと力量のあるスタッフがいるのだろう。
若狭 徹「東国から読み解く古墳時代」(吉川弘文館)も受賞していたのか。
こちらは手に入れてはいないが、わたしがつい先日出かけた保渡田古墳群を中心に叙述してある。いずれ読むことになるだろう、日本古代史マニアになりかけているわたしとしては(^○^)/ハハ

さて、遠藤慶太「六国史 ―日本書紀に始まる古代の『正史』」に戻ろう。
本書は読みおえるのが惜しいような、すばらしい出来映えであった。
「そう、そこそこ」と痒いところに手がとどくといったら、わたし的にぴったりくる。ストライクゾーンへの剛速球だが、それをあまり感じさせない。文章がうまいからだろう、すらすらと読みおえてしまった。

本書は「六国史」についての単なる概説書ではない。

《奈良時代から平安時代にかけて編纂された歴史書「六国史」。七二〇年に完成した日本書紀から、続日本紀、日本後紀、続日本後紀、日本文徳天皇実録、日本三代実録までを指す。天地の始まりから平安中期の八八七年八月まで、国家の動向を連続して記録した「正史」であり、古代史の根本史料である。本書は、各書を解説しつつ、その真偽や魅力を紹介。また、その後の紛失、改竄、読み継がれ方など、中世から現代に至る歴史をも描く。》(amazonにあるBOOKデータベースより引用)

最近の出来事では「昭和天皇実録」が刊行されたのをご存じの方もおられるだろう。わたしも第1巻のみ買ったが、これを全巻読むのは何だか“悪夢”のようなもの。「六国史」だって、同じ。だって、すべて漢文で書かれている。全種類現代語訳があったとしても並大抵の苦労ではあるまい(゚ペ)

だからこそ、価値がある。
「続日本紀」は評判が高いので、現代語訳(講談社学術文庫)を読みかけたが、2-30ページで挫折した。そういったいきさつを経て出会ったのが、本書。
じつに明快で見事な要約、解説、それはだれもが感心すると思うけれど、遠藤慶太さんはそれだけに終らせていない。

第4章の「国史を継ぐもの ―中世、近世、近代のなかで」の記述はまことに興味深いものがある。
この章は、
1.六国史後 ―「私撰国史」、日記による代替
2.卜部氏 ―いかに書き伝えられてきたか
3.出版文化による隆盛 ―江戸期から太平洋戦争まで

に分けられ、六国史が、現代までどのように伝えられてきたかを跡づけている。
バイオグラフィといったらいいのか、書誌といったらいいのか? 
出版文化は近世17世紀に入ってからなので、それまでは写本として伝えられてきたことになる。徳川家康がこれら六国史を三部ずつ筆写させ、一部を皇室に、残り二部を江戸と駿府に置くことを命じたという。
その命をうけて動いたのが、僧崇伝と儒者林羅山。これが保存状態のよい慶長写本として現代に伝わる。

さらに秘伝として特定の家系(卜部氏など)に伝えられてきたものを、“公開”に踏み切らせ、出版させたのは後陽成天皇であるというから驚く。「日本書紀」の神代の巻は長らく秘本とされていたらしい。
これらの典籍がおよそ1200年もの長きに渡って日本で伝本されてきたことに対し、しばしことばを失う。敬意を抱くなんてレベルの話ではないからである(~o~)イヤハヤ
おしまいに本書を読みのがしている読者のためにいっておこう。「読め、読め!」と。

たとえ現代語訳であっても、六国史を通読するのは専門家ではないわれわれには不可能だが、本書は4-5時間もあれば読め、たいへん貴重な情報を手に入れることができるのですぞ。





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