二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

万骨枯る ~半藤一利「ノモンハンの夏」の凄み

2022年02月07日 | 歴史・民俗・人類学
   (単行本と文庫本) 徴兵制が敷かれ憲法で人権が保証されていなかった時代、庶民男子は一銭五厘のハガキでいくらでも“調達”できた。そのことをまず念頭に置かないと、この時代は理解できない。兵士が死んだら、部品のように捨ててつぎを補充すればすむのである。 非情な上官の下では、部下は命令によって使い潰され、反抗あるいは逃亡すれば投獄され、最悪は死刑が待っていた。 本編は「昭和史」「日本のいちばん . . . 本文を読む
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本郷和人「北条氏の時代」(文春新書2021年刊)レビュー

2022年01月07日 | 歴史・民俗・人類学
このところ連続して吉村昭ワールドに入り浸り。 吉村さんの文庫本が全巻そろったわけじゃないけど、現行版の9割ほどは手に入れた。 吉村ワールドは密度が濃く、つづけて読んでいると頭が疲れる。そこで中休みの意味で新刊コーナーにあったこの新書を手に取った。 書評はパスしようとはじめは思ったが、簡単に書いておくことにしよう♪ 本郷和人さんは気鋭の中世史家である。以前、「承久の乱」を読んだが、とてもおもしろ . . . 本文を読む
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原彬久編「岸信介証言録」中公文庫(2014年刊)レビュー

2021年08月03日 | 歴史・民俗・人類学
原本は2003年、毎日新聞社から刊行。それに対し、若干の修正をくわえたものが、この中公文庫版になる。この“改訂版”が上梓されてからも、すでに7年が経過している。 原彬久さんの本は、これまで岩波新書で「吉田茂」「岸信介」を読んだが、政治学者がお書きになったものとしては出色の出来映えであった。 明治期の政治家ならともかく、戦後政治といえば、歴史学的な枠組みには収まりきらない生臭さを備えているので、書 . . . 本文を読む
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森安孝夫「シルクロード世界史」講談社選書メチエ2020年刊レビュー

2021年07月29日 | 歴史・民俗・人類学
このタイトルにひかれて読みはじめた。海外の小説を20冊ばかり買いこんで、「さて、読まなくちゃ」とかんがえてはいるのだが、どーゆーわけか、フィクションにはこの1-2年、手がなかなかのびない。 中央アジアの世界史。 何冊かはこれまで読んでいる。しかし、この地域の歴史はわかっていることより、わかっていないことの方がはるかに多いのである。 ラクダを眺めるのに、針の穴(孔)を通してみるようなもの(´Д` . . . 本文を読む
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石川真澄・山口二郎「戦後政治史 第三版」(岩波新書 2010年刊) レビュー

2021年07月27日 | 歴史・民俗・人類学
ひと口に評してしまえば、戦後政治史入門編、読む年表である。 よいとか悪いとかいっても仕方がない。政権交代がどのようになされたのか、大づかみに素描してある。それだけではなく、最初に歴代首相の一覧、巻末に国会議員選挙の結果のデータがある。 年表的なので、超特急である。佐藤栄作さんも田中角栄さんも、3~4ページで片づけられている。 しかも、本書の刊行年月日が2010年ということなので、2011年以後の . . . 本文を読む
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原彬久「岸信介 ̶権勢の政治家̶」岩波新書(1995年刊)を読む

2021年07月23日 | 歴史・民俗・人類学
吉田茂以後、日本の政治はどのように変質し、高度成長時代に突入していくのか。 それを知りたくてこの「岸信介 ̶権勢の政治家̶」を手に取った。 あの「吉田茂」を書いた原彬久さんの著作である。 吉田茂と岸信介を抜きにしては、日本の“戦後政治”は語れないと、いつごろからかかんがえていた。 妖怪とも巨魁ともいわれて恐れられ、批判され、現在につながる日米安全保障条約を成立させた政治家である。 あとからかん . . . 本文を読む
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シュテファン・ツワイク「ジョゼフ・フーシェ ある政治的人間の肖像」(高橋禎二・秋山英夫訳)岩波文庫(1979年刊)のおもしろさ

2021年07月21日 | 歴史・民俗・人類学
結論からさきにいうと、非常におもしろいのだが、その反面読みにくく、いささか手こずった本である。表現が昨今の日本語としてこなれていないからだ。 本書は最初、岩波新書の一冊として昭和26年に刊行されたのだそうである。難読漢字、めったに使われない表現がしばしば出てきて、悩まされる。 一つ例をあげると「九仞の功を一簣に虧いた(きゅうじんのこうをいっきにかいた)」(367ページ)ということばがある。文脈か . . . 本文を読む
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秀村欣二「ネロ 暴君誕生の条件」(中公新書1967年刊)を読む

2021年07月04日 | 歴史・民俗・人類学
予想した以上に濃密な内容を持った、すぐれた一冊である。 刊行は1967年とかなり古いが、古代ローマに関心のある方なら、読み逃すべきではないだろう。 中公新書は“歴史もの”に定評がある・・・ということを、以前にも書いた。 ネロは日本では「暴君といえばネロ」といわれつづけてきた。その評判通りそれほどの巨悪なのかどうか、それを検証したくて読みはじめた。 本書はよく調べて書いた、ネロの評伝といっていい。 . . . 本文を読む
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コルネリウス・タキトゥス「ゲルマーニア」泉井久之助訳(岩波文庫 1979年刊)レビュー

2021年04月20日 | 歴史・民俗・人類学
文章自体が古めかしいとは思わないけれど、いかにも学者・研究者らしいお固い文章なので、現代文学しか読んだことがない人には、かなり読みにくいだろう。途中で投げ出すか、あまりの注釈の多さにげっそりし、読む気になれないかもしれない。 「訳者序」に、本書は最初は1932年、つづいて1953年に刊行されているものが元になっていると書かれている。 「なるほど」と納得した次第である(笑)。1979年は改版され、新 . . . 本文を読む
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大木毅「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」岩波新書(2019年刊)を読む

2021年02月02日 | 歴史・民俗・人類学
期待を込めて読みはじめはしたものの、さきに結論を書いておくと、あまりおもしろくはなかった。 最新情報によってブラッシュアップはされているが、昔からある戦記物、第二次大戦ものとそう大きくは違わない。 本書は「新書大賞2020」の第一位に選ばれた本である。 だからというわけではないが、付せられた帯に呉座勇一さんの推薦文があり、 《冷戦期のプロパガンダによって歪められた独ソ戦像がいまだに日本では根強く残 . . . 本文を読む
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