カミナリと雨と停電の次の朝、ニコと散歩にでた。
このあたりの道路はゆったりと作ってあるので、車道と歩道の間に芝生が敷いてある。そして歩道と建物の間にも芝生。
全部をあわせるとかなりの幅になるので、ランナーやほかの散歩中の犬とすれ違うのも気を使わずにすむ。ゆったりと犬の散歩をさせるにはもってこいなのだ。
雨上がりの濡れた芝にビーチサンダルが沈み、指が濡れて気持ち悪い。
濡れないように慎重に歩くわたしを尻目に、いつものように、あちこちと勝手気ままに歩き回るニコ。
前方、建物側の芝生に、一羽の白サギが歩いていた。
小型でくちばしの黄色いこの鳥は、いつもこのあたりをうろちょろしている。
たいていは、2・3羽連れ立っているのだが、今日は1羽で、フェンスとその周りに植えられたハイビスカスの生垣を覗き込んでいる。
いつも人が近づくと、気配を察して遠くへ飛んでいってしまうのだが、今日はかなりの至近距離まで近づいても、そのまま歩いている。
脚が長くて、すっとした白いボディがかわいい。
こんなに近くで見ることもあまりないからラッキーだな、と観察していた。
鳥は、ゆっくりとゆっくりと、しきりにフェンスを見上げ、首をかしげ、覗き込むようなしぐさで歩みを進める。
フェンスはわたしの身長くらいだ。
あちら側に行きたいのなら、飛べばいいだけのこと。
なんだろう?
ちょっと、いつもと違う。
虫やなにか、食べるものを探しているのではないような気配だ。
ゆっくりとゆっくりと、まるで、なにか大切なものを探しているように、
すこしも見落とすことがないように、フェンスと生垣を覗き込んでいる。
わたしには、鳥が途方に暮れているように見えた。
昨日の雨で、まだ濡れた芝生に、ハイビスカスの花や街路樹の枝が落ちている。
風にあおられて折れなければ、まだまだきれいに花をつけていただろうに。
突然、ニコが道路側の芝に駆け出し、鼻を近づけた。
拾い食いでもしてはいけないと、慌ててキュッとリードを引いて、落ちているものを見た。
そこには、
ちいさなちいさな、肌色の、まだ毛も生えていない鳥のヒナが死んでいた。
「もしかして・・・」
探しているのは、この子?
鳥は、ニコの突然の激しい動きに飛び立ってしまった。
それでもほんの少し先に降り、また同じように建物側のフェンスと生垣を覗いている。
昨日のはげしい雨と風で、巣から落ちてしまったんだろうか。
わたしはあの鳥が、どこに、どんな巣を作るものなのか知らない。
ここで死んでいるちいさなヒナは、あの鳥と同じ種類なのかも知らない。
けれど、あの白い鳥の、真剣な、途方に暮れた気配。
わたしの、勝手な思い込みで作ったストーリーかもしれないけれど、
せめて、あの親鳥が、ヒナの姿を見つけてあげられたらいいな、と思った。
そして、死を受け入れて、昇華できたらいいな、と思った。
次の朝、昨日の場所を探してみた。
もう、ヒナの姿はなかった。
そして、白い鳥が何かを探す姿もない。
道路向かいの高校のグラウンドでは、芝刈りの車の周りに、たくさんの白い鳥が群れていた。振動で飛び出した虫を捕まえるのだ。
昨日の鳥もあの中にいるのだろう。
そして、いつもと同じように、虫を捕まえ、食べ、羽根を繕い、過ごすのだ。
鳥は、思い出すことはないのだろうか。
それならそれで、幸せだと思う。
今、この瞬間だけを生きているのなら、それは、とても幸せなんだと思う。
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このあたりの道路はゆったりと作ってあるので、車道と歩道の間に芝生が敷いてある。そして歩道と建物の間にも芝生。
全部をあわせるとかなりの幅になるので、ランナーやほかの散歩中の犬とすれ違うのも気を使わずにすむ。ゆったりと犬の散歩をさせるにはもってこいなのだ。
雨上がりの濡れた芝にビーチサンダルが沈み、指が濡れて気持ち悪い。
濡れないように慎重に歩くわたしを尻目に、いつものように、あちこちと勝手気ままに歩き回るニコ。
前方、建物側の芝生に、一羽の白サギが歩いていた。
小型でくちばしの黄色いこの鳥は、いつもこのあたりをうろちょろしている。
たいていは、2・3羽連れ立っているのだが、今日は1羽で、フェンスとその周りに植えられたハイビスカスの生垣を覗き込んでいる。
いつも人が近づくと、気配を察して遠くへ飛んでいってしまうのだが、今日はかなりの至近距離まで近づいても、そのまま歩いている。
脚が長くて、すっとした白いボディがかわいい。
こんなに近くで見ることもあまりないからラッキーだな、と観察していた。
鳥は、ゆっくりとゆっくりと、しきりにフェンスを見上げ、首をかしげ、覗き込むようなしぐさで歩みを進める。
フェンスはわたしの身長くらいだ。
あちら側に行きたいのなら、飛べばいいだけのこと。
なんだろう?
ちょっと、いつもと違う。
虫やなにか、食べるものを探しているのではないような気配だ。
ゆっくりとゆっくりと、まるで、なにか大切なものを探しているように、
すこしも見落とすことがないように、フェンスと生垣を覗き込んでいる。
わたしには、鳥が途方に暮れているように見えた。
昨日の雨で、まだ濡れた芝生に、ハイビスカスの花や街路樹の枝が落ちている。
風にあおられて折れなければ、まだまだきれいに花をつけていただろうに。
突然、ニコが道路側の芝に駆け出し、鼻を近づけた。
拾い食いでもしてはいけないと、慌ててキュッとリードを引いて、落ちているものを見た。
そこには、
ちいさなちいさな、肌色の、まだ毛も生えていない鳥のヒナが死んでいた。
「もしかして・・・」
探しているのは、この子?
鳥は、ニコの突然の激しい動きに飛び立ってしまった。
それでもほんの少し先に降り、また同じように建物側のフェンスと生垣を覗いている。
昨日のはげしい雨と風で、巣から落ちてしまったんだろうか。
わたしはあの鳥が、どこに、どんな巣を作るものなのか知らない。
ここで死んでいるちいさなヒナは、あの鳥と同じ種類なのかも知らない。
けれど、あの白い鳥の、真剣な、途方に暮れた気配。
わたしの、勝手な思い込みで作ったストーリーかもしれないけれど、
せめて、あの親鳥が、ヒナの姿を見つけてあげられたらいいな、と思った。
そして、死を受け入れて、昇華できたらいいな、と思った。
次の朝、昨日の場所を探してみた。
もう、ヒナの姿はなかった。
そして、白い鳥が何かを探す姿もない。
道路向かいの高校のグラウンドでは、芝刈りの車の周りに、たくさんの白い鳥が群れていた。振動で飛び出した虫を捕まえるのだ。
昨日の鳥もあの中にいるのだろう。
そして、いつもと同じように、虫を捕まえ、食べ、羽根を繕い、過ごすのだ。
鳥は、思い出すことはないのだろうか。
それならそれで、幸せだと思う。
今、この瞬間だけを生きているのなら、それは、とても幸せなんだと思う。
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