雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のミリ・フィクション「幽霊粒子」

2014-02-27 | ミリ・フィクション
 質量ゼロである素粒子が、質量を持つ矛盾を解き明かすために、ヒッグス博士がそれまでに発見・分類された16の素粒子の他に、もう一つそれらの素粒子に質量をもたせる素粒子がある筈だと仮説を立てた。 それを2012年の12月に実験により証明し、「ヒッグス粒子」と名付けられた。 質量ゼロの素粒子が質量を持つ仕組みは、素粒子はヒッグス粒子がびっしり詰まった中に存在して、ヒッグス粒子に押さえ付けられているからだ。 即ち、宇宙空間の何も無いと思われていたスペースも、ヒッグス粒子で埋められていたのだ。

 ヒッグス粒子が証明されてから約10年後に、日系のアメリカ人であるティーズウォーター博士が、ヒッグス粒子の中にちょっと変わった粒子が存在することを発見した。 後に博士はこのヒッグス粒子を「幽霊粒子」と名付けた。 「幽霊なんかないサ」、「お化けなんかないサ」 と思われていた霊は、ヒッグス粒子であったのだ。 例え、「幽霊は存在する」と信じていた人が居たとしても、それは昔からの言い伝えを盲信していたに過ぎない。 しかし、幽霊粒子の発見により、幽霊の存在は揺ぎ無いものになった。

 その仕組みはこうである。 記憶は、すべて脳細胞に蓄積されているように思われていたが、脳細胞だけでは一人の膨大なデータを記憶しきれない。 実は、脳細胞の他に外部記憶装置(外付けHDDみたいなもの)が必要で、それを担っていたのが体内にビッしりと詰まったヒッグス粒子の中の幽霊粒子であったのだ。

 人が亡くなると、霊がスーッと屍から離れて行くイメージがあったが、それは違っていた。 霊はその場に留まり、屍の方が棺などに納められ霊から離れていくものなのだ。 霊即ち幽霊粒子は、亡くなった人の形でその場に留まり、その幽霊粒子たちはそれぞれ記憶を持っている。 ティーズウォーター博士が、ちょっと変わった粒子と思ったのは、この記憶を持ったヒッグス粒子だったのだ。

 幽霊粒子は、やがて時間と共に記憶を無くして、普通のヒッグス粒子に戻る。 人間、特に仏教の信者は、霊は西方10万億土彼方の極楽浄土へ行くと思わされているようだが、そもそも西方というのがおかしい。 今朝、信心深い仏教の信者が西方の極楽浄土に向いて手を合わせたとしよう。 この信者、夕方にも西方に向いて合掌した。 朝、極楽浄土に向かい合掌したのが正しいとすれば、夕方は極楽浄土にケツを向けて合掌したことになる。 なぜなら、その間地球は180度回転したのだから。

 極楽浄土など元から無かったもので、死者の霊も極楽浄土へ向かう筈がない。 では、どこに向かうか? ここでしょう。  地球上で死んだものの霊は、暫くは地球の周辺に存在し続ける。 やがて幽霊粒子はただのヒッグス粒子に戻って、霊は消えてしまうのだ。
 博士は、まだ屍から引き離されたばかりの幽霊粒子を、これから生まれて来る胎児に入れようと企んでいた。 新婚旅行で日本へ来ていた大阪育ちの新郎新婦が乗ったタクシーが事故に巻き込まれ、新婦は新郎が咄嗟に庇ったために無傷であったが、新郎は意識不明の重体でアメリカへ帰国し、病院のべツドで息を引き取った。 新郎が偶々博士の甥っ子だったことから、甥っ子の魂をその実子である胎児に生まれ変わらせたいと新婦に話をしたところ、「愛しい夫が生まれ変わってくるなら」と、快く承諾してくれた。

 新郎が息を引き取ったベッドから、遺体は棺に納められ、博士はその空いたベッドに新婦を寝かせた。 これで24時間、博士が発見した電磁波μ線を照射し続けると、幽霊粒子が母親の体内に入り込み、やがて胎児の体内に入るというのが博士の推論である。 その間に通夜が行われ、新婦がベッドから解放されるころには葬儀が始まっていた。
 博士の思惑が的中して、約3ヶ月後、新婦の妊娠が判明した。 さらにそれから2ヶ月後の検診で、病院の産科医が超音波診断装置のモニターを覗きながら言った。 「元気な男の子です。ほら御覧なさい。ここにおちんちんが見えるでしょ」 と、ボールペンでそのあたりを指した。

  胎児は順調に育ち、臨月を迎えていた。 少々長いお産だったが、助産師が臍の緒を切って赤子を抱き上げ、お尻をペンペンとぶったところ、元来なら大声で泣く筈の赤子が、可愛い声で「あー、ビールが飲みてえ」 と、言った。 助産師は、あまりにも驚いたので、赤子を落としそうになると、「落さんといてや」 と、赤子は関西弁で言ったのであった。  (添作再投稿) (原稿用紙6枚)


最新の画像もっと見る