雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

魂魄この世に留まりて…

2012-09-12 | 日記
 映画や、芝居、ドラマなどで四谷怪談を扱う場合、必ずお参りする神社がある。 於岩稲荷・陽運寺と、於岩稲荷・田宮神社である。 このお参りを疎かにすると、稽古中や公演中に事故が起きるという。 いわゆる「お岩さんの祟り」である。 

 ところが、四谷怪談の主人公である 田宮又左右衛門の娘、お岩と、その婿である伊右衛門は仲が良く、穏やかな生涯を送ったとの説がある。 田宮神社を勧請(かんじょう)したのはお岩さんであり、その後は生活もらくになり、田宮神社は開運の神様として信仰されたという。

 そうかと思えば、伊右衛門が一方的にお岩さんと離婚したとして、お岩さんが狂乱状態になり家出をしたという説もある。 お岩さんが家出をして行方不明になった後、田宮家ではたて続けに異変が起きたため、お岩さんの祟りではないかと考え、於岩稲荷田宮神社を建ててお岩さんを祀ったのだそうである。

 どれが真実かはどうでも良いことである。 要は「東海道四谷怪談」が真実にどうかかわっているかということだ。 

 「東海道四谷怪談」は、鶴屋南北(四代目)のフィクションである。 田宮神社の人気に乗り、実在の人物名を使って、江戸の町に起きた心中事件、殺人事件などを取り入れ、書き上げたのが「東海道四谷怪談」である。 また、田宮神社を担ぎ出し、芝居の興行の宣伝のために一役買ってもらったのだ。 

 「東海道四谷怪談」とは、ごく簡単にストーリーを追うと…。

 お岩の夫「伊右衛門」は、素行が悪いことからお岩の父左門に引き離される。 伊右衛門は復縁を迫りに左門のもとへ行くが、左門に過去の公金横領を指摘され、その場で左門を殺害する。 父の死を嘆くお岩に、伊右衛門は「仇を取ってやる」と宥め復縁する。 しかし、お岩は病気勝ちで、伊右衛門はお岩が鬱陶しくなってくる。 おりしも、伊藤喜兵衛の孫、梅が伊右衛門に恋をする。 喜兵衛は孫の梅のために策を練り、仕官の約束を餌に伊右衛門に毒薬を渡し、お岩さんに飲ませるように指示する。 薬を飲んだお岩さんは、顔が爛れ、髪の毛が抜けて、恐ろしい形相になる。 伊右衛門は按摩の宅悦を脅してお岩さんと不義密通をさせようとするが、宅悦はお岩さんの顔をみて恐ろしくなり、伊右衛門と喜兵衛の企みをお岩さんに吐露してしまう。 お岩さんは狂乱し、はずみでそこに有った刀が喉に刺さって死んでしまう。 この後は、ご存知の通り、怨霊となったお岩さんの復讐がはじまるわけだ。

  お岩さんの断末魔のセリフ 「魂魄(こんぱく)この世にとどまりて、恨み晴らさでおくべきか~」

 魂魄の魂は、たましいのことである。ここでは魂=幽霊として、成仏せずにこの世に留まり、恨みを晴らすと云う意味。

 魂魄の魄は、朽ち果てるべく肉体=白骨のことで、今生の人の目に見えない筈の幽霊が恐ろしい姿で見えるのは、魄の姿を留めているからである。とは戯作者鶴屋南北の解釈である。


  (これは、個人の感想または想像であり、お茶の伊右衛門とは関係ありません) (゜゜)

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