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▽もの磐氏 父は長柄(ながら)の 人柱▽
余計なことを喋るなと戒めるときに引き合いに出す狂歌の上の句である。
これは大阪の淀川に橋を渡す工事にまつわる物語であるが、工事が思うように捗(はかど)らない。橋杭を打ち込んでも、すぐに流されてしまうのだ。近隣の村の長が集まって対策を相談した。
ああだ、こうだと話し合った結果、漸く結論に辿り着いた。
「竜神様の怒りではないか」
神の怒りを鎮めるには、人身を捧げるのが良い。人柱を立てようとではないかと話が落ち着いたが、これは人を生きたまま橋杭の脇に沈めることである。人命にかかわることであるから、そんなに簡単に決まる訳がない。
そこへ工事が捗らないことに腹を立てた近隣の磐氏(いわじ)」というケチな長者が怒鳴り込んで来た。
「いつになったら淀川に橋が架かるのや、さっさと工事を進めんかい!」
そこで、村の長たちは「人柱」の候補が決まらなくて悩んでいること話した。
「そんなことなら、簡単じゃないか、おまはん達の誰か一人が名乗り出れば良い」
磐氏はそう言ってのけたが、名乗り出る者は居なかった。
「それでは仕方がないから、くじ引きで決めてはどうや?」
人ひとりの命にかかわること、一同は黙りこんでしまった。
「へん、意気地なしばかり揃いよって」
磐氏は考え込んだが、妙案が浮かんだ。
「この中から、継ぎの当たった袴(はかま)をはいているケチなヤツを選んで人柱にすればええ」
磐氏はそう提案した。一同は互いを見回したが、継の当たった袴を履いている男は居なかった。
その時、磐氏の後ろに居た男が声を上げた。
「一人居たぞ」
男は磐氏を指した。
「継ぎのあたった袴をはいているケチなヤツは、磐氏だ」
磐氏は即座に捕えられた。
「待て、儂は工事が鈍いことに文句をつけに立ち寄っただけや」
金を出し合って橋を架けようと決めても、大金持ちながら一文も出そうとせずに、工事が捗らないことに文句をつける磐氏を面白く思っていない面々は、磐氏の提案を一も二もなく受け入れた。
磐氏は、生きたまま橋杭と共に沈められたのであった。
磐氏の妻はこれを嘆いて、
「余計なことは、決して喋ってはいけない」
そう娘を躾たのであった。
娘は口数が少ない女に育った。やがて娘は嫁ぐが、度が過ぎるほどの無口であった為、離縁されて実家に戻される。婿に送られて実家に戻る途中に、人の足音に驚いた雉が一声「ケーン」と鳴いてしまう。婿は護身用の弓矢を構え、雉を仕留める。妻(磐氏の娘)は、雉が憐れで、思わず泣いてしまう。
「なぜ泣く」
婿が問うと、妻は父の話を語って聞かせた。
「そうだったのか」
男は妻が不憫になり、取って返して両親に妻が無口な訳を話した。許されて夫婦は末永く仲よく暮らす。
▽もの言わじ 父は長柄の 人柱 雉も鳴かずば 射たれざらまし▽
(以前にエッセイとして投稿したものを書き直す) (原稿用紙4枚)
余計なことを喋るなと戒めるときに引き合いに出す狂歌の上の句である。
これは大阪の淀川に橋を渡す工事にまつわる物語であるが、工事が思うように捗(はかど)らない。橋杭を打ち込んでも、すぐに流されてしまうのだ。近隣の村の長が集まって対策を相談した。
ああだ、こうだと話し合った結果、漸く結論に辿り着いた。
「竜神様の怒りではないか」
神の怒りを鎮めるには、人身を捧げるのが良い。人柱を立てようとではないかと話が落ち着いたが、これは人を生きたまま橋杭の脇に沈めることである。人命にかかわることであるから、そんなに簡単に決まる訳がない。
そこへ工事が捗らないことに腹を立てた近隣の磐氏(いわじ)」というケチな長者が怒鳴り込んで来た。
「いつになったら淀川に橋が架かるのや、さっさと工事を進めんかい!」
そこで、村の長たちは「人柱」の候補が決まらなくて悩んでいること話した。
「そんなことなら、簡単じゃないか、おまはん達の誰か一人が名乗り出れば良い」
磐氏はそう言ってのけたが、名乗り出る者は居なかった。
「それでは仕方がないから、くじ引きで決めてはどうや?」
人ひとりの命にかかわること、一同は黙りこんでしまった。
「へん、意気地なしばかり揃いよって」
磐氏は考え込んだが、妙案が浮かんだ。
「この中から、継ぎの当たった袴(はかま)をはいているケチなヤツを選んで人柱にすればええ」
磐氏はそう提案した。一同は互いを見回したが、継の当たった袴を履いている男は居なかった。
その時、磐氏の後ろに居た男が声を上げた。
「一人居たぞ」
男は磐氏を指した。
「継ぎのあたった袴をはいているケチなヤツは、磐氏だ」
磐氏は即座に捕えられた。
「待て、儂は工事が鈍いことに文句をつけに立ち寄っただけや」
金を出し合って橋を架けようと決めても、大金持ちながら一文も出そうとせずに、工事が捗らないことに文句をつける磐氏を面白く思っていない面々は、磐氏の提案を一も二もなく受け入れた。
磐氏は、生きたまま橋杭と共に沈められたのであった。
磐氏の妻はこれを嘆いて、
「余計なことは、決して喋ってはいけない」
そう娘を躾たのであった。
娘は口数が少ない女に育った。やがて娘は嫁ぐが、度が過ぎるほどの無口であった為、離縁されて実家に戻される。婿に送られて実家に戻る途中に、人の足音に驚いた雉が一声「ケーン」と鳴いてしまう。婿は護身用の弓矢を構え、雉を仕留める。妻(磐氏の娘)は、雉が憐れで、思わず泣いてしまう。
「なぜ泣く」
婿が問うと、妻は父の話を語って聞かせた。
「そうだったのか」
男は妻が不憫になり、取って返して両親に妻が無口な訳を話した。許されて夫婦は末永く仲よく暮らす。
▽もの言わじ 父は長柄の 人柱 雉も鳴かずば 射たれざらまし▽
(以前にエッセイとして投稿したものを書き直す) (原稿用紙4枚)