ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

オリーヴ・キタリッジ

2019-10-07 22:01:06 | 映画

 

amazonプライムで「オリーヴ・キタリッジ」というアメリカのミニドラマを見ました。
全四話の短いドラマですが、人間ドラマとして非常によく出来ています。

原作がエリザベス・ストラウトの小説「オリーヴ・キタリッジの生活」。原作もぜひ読んでみたいと思っています。

(以下ネタバレです)
オリーヴ・キタリッジというのは女性の名前。初老の女性です。
冒頭で、彼女は森の中で、地面に布を広げ、その上に座って、抜けるように青い空、美しい木々、それらを眺めながら、今にも拳銃自殺しようとしている・・
そこからストーリーは始まります。

時間を遡ること25年。

この物語は、25年にわたるオリーヴを中心とした、小さな町(アメリカのメーン州にある)の人たちが織りなす人生模様です。

25年前、彼女はまだ現役の数学の教師で、息子のクリストファーも中学生。

オリーヴの家族は、彼女と夫のヘンリー、息子のクリストファーの三人。
夫のヘンリーは薬局を経営しています。

ある日、薬局で働いていた女性が突然死します。 かわりに薬局にやってきたのがデニースという若い女性。
地味だった薬局は若いデニースのおかげで明るくなり、ヘンリーもデニースに好意的ですが、オリーヴはそれが気に入らない。

オリーヴは、とにかく偏屈で気難し屋で、人に優しくない。長年先生をしてきたせいか、人を見下し批判的で人を傷つけるようなことを平気で言います。
それでいて本人はとても傷つきやすい。
一方で、人をしっかり観察し、真実をダイレクトに言います。それで救われた生徒もいます。根は優しいのです。

でも、もう少しやわらかな物言いをしたらどうなの?

と見ている側は何度も思います。特に第一話の冒頭でのオリーヴのヘンリーに対する邪険な扱いはあまりに酷い。一体彼らに何があったのだろうと思わせますが、それがわかるのは最終話の第四話になってから。

第一話が25年前、第二話がそれから10年後くらい、第3話が息子のクリストファーの結婚式、そして最終話の第4話がそれから5年くらい後かな。

オリーヴに限らず、この町の人たちはどこか病んでいる、それがじわじわとわかってきます。
たとえばオリーヴの教え子のケヴィンの母親はうつ病で家にこもりきり。第二話で大人になったケヴィンがやはりうつ病の傾向があり、自殺するために町に戻ってくるのですが、オリーヴに見透かされて自殺を思いとどまります。

あるいは薬局を明るくしてくれた若いデニースの夫が狩猟中に誤射にあい、あえなく死んでしまう。再婚した相手は薬局の手伝いをしていたジェリーですが、彼はデニースと結婚後ろくでもない夫になる。かわいそうなデニース。夫が生きていればこんな目に合わずに済んだのに。

という具合に、小さな町なのに、思わぬ事故や出来事が次々起こり、人々の人生は翻弄されます。
オリーヴが病院で検査を受けようとしていたら、いきなり銃を持った強盗が押し入ってきて看護師とたまたまそこにいたオリーヴとヘンリーを縛りあげて脅すといった事件も起きます。

でも、オリーヴの夫ヘンリーはいつも変わらぬ愛情でオリーヴを愛し続けます。たとえ邪険にされても、酷い言葉を浴びせられても、ヘンリーだけは常に穏やかで優しい人なのですね。

これほど妻を愛してくれる夫はいないだろうと思うのだけど、彼女はそれが気に入らない。できれば、同僚のオケーシーと駆け落ちしたいと思っています(実際はしないけど彼に惹かれている。だからヘンリーを邪険にする。しかもオケーシーは事故で死んでしまう)。

息子のクリストファーの結婚式でも、オリーヴは相手の家族と折り合いが悪く、クリストファーの新妻にひどい仕打ちをしたりします。

とにかく、オリーヴ・キタリッジという女性は、頑固で偏屈で自己中心的で人の粗探しばかりして酷いことを平気でいう人なのですね。

でも、彼女がなぜそうなのか、ということが最終話でようやく少しだけ見えてきます。

彼女の父親は拳銃自殺したのでした。
彼女自身そこからまだ立ち直れないでいる。そして、立ち直れないまま偏屈な女性になったのでした。ヘンリーだけがそんな彼女を受け止め、支えてきたのですが、彼女はそれを拒み、彼を邪険に扱った。

でも、そんなヘンリーは突然倒れてしまいます。そしてまた、大人になったクリストファーも母親にリベンジします。

オリーヴがどんなに酷い親だったか、クリストファーは突き付けます。どんなに彼が傷つき、どんなに苦しんだか。オリーヴは想像すらしなかった事実を突き付けられるのです。

クリストファーにとって、オリーヴは「毒親」そのものだったのですね。その「毒親」からどうやって自分を守ればいいか、長い間苦しんできたのです。それがようやく最終話になって見えてきます。

つまり、この物語で語られるのは、小さな町の人々の心温まる物語、などではなく、人は傷ついた心をどのように癒し、あるいは癒すことが出来ず、またそこからどのように立ち直り、あるいは立ち直れないのか、そして、それは世代間でどのように連鎖され、あるいは連鎖されずにすむのか、ということを語っているのだと思います。

ヘンリーだけが、どこまでも妻を愛し続けるのですが、彼の愛は妻にきちんと届かない。ヘンリーがいなくなって初めてオリーヴは彼の愛に気付くのです。

そういう物語。
そして、そういう物語であるのだと理解して見ると、全く別の風景が見えてくることでしょう。

オリーヴを演じているのが「スリービルボード」の主演フランシス・マクドーマンドです。また後半でビル・マーレイも出てきます。
とにかく秀逸な人間ドラマなので、お勧めです。


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