ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

アメリカン・ガールズ・ストーリー/メロディ1963

2019-08-07 09:54:22 | 映画

 

(これは2018年4月5日の記事です)

黒人差別を扱ったドラマをもう一つ紹介します。
(2019年4月16日の「ドリーム」に続く記事です)

「アメリカン・ガールズ・ストーリー/メロディ1963」

amazonプライムで配信中の子ども向けドラマで、これも1960年代のアメリカの黒人差別問題を扱っています。

メロディは10歳の黒人の女の子。白人の子どもたちが圧倒的多数を占める小学校に通っています。黒人の子はクラスでたった二人。しかも一人は差別がひどいのでやめていきます。メロディも酷い差別をうけ転校したいとママに訴えますが、いい教育が受けられるのは白人の学校しかないといってメロディを説得します。

このメロディ、実に屈託のない純真な10歳の女の子でとてもかわいい。しかもとても優秀で担任の先生も彼女に一目置いている。
ママはピアニストで、本来ならホールでコンサートが開けるほどの力量があるのに黒人であるがゆえに教会のピアノを弾くしか演奏の機会がない。

ある日、アラバマで黒人の教会が爆破され四人の子どもたちが亡くなるというニュースが流れます。これにショックを受けたメロディは、教室で「忠誠の誓い」の最中に、これは嘘だ、なぜ黒人は差別されるのか、と先生を問い詰めます。
忠誠の誓いというのはこれ。

忠誠の誓い
「私はアメリカ合衆国国旗と、それが象徴する、万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる一国家である共和国に、忠誠を誓います」

メロディは停学処分になり、おじいちゃんがメロディを迎えにやってきます。おじいちゃんはメロディにいいます。

「お前のパパは奴隷制が廃止されてから100年たっても黒人を認めない国のために戦って死んだ。この国が自由を制限しようとも、決して制限できないのはお前の想像力だ」

そしてママもいいます。
「戦死したパパは何ていってた?」
メロディは答えます。
「恐怖は人間を小さくし、愛は大きな力を引き出す」

前回書いた「ドリーム」でもそうでしたが、このいわれのない差別は、これまでも度々描かれていますが、本当に酷い。

でもこれは黒人差別だけではありません。
日本人だって、アジアで相当ひどいことをしてきました。
身近なところでも、様々な差別はあります。

差別をなくすには、まずは意識することが大事。
これは差別ではない、区別だ、と差別する側はよく言いますが、それは本当なのか、
知らないうちに誰かを傷つけてはいないか、
改めて自問する必要があるでしょう。

それでも、差別に立ち向かい、たくましく生きていく人たちの姿は、私たちに勇気と元気を与えてくれます。
人間には底知れぬ力があるのだと教えてくれます。

短いストーリーですが心に響くお話です。
最後にメロディに厳しく当たっていた担任の先生、そしてクラスの子どもたちもメロディを理解し、メロディのママの演奏する教会にやってくるというハッピーエンドもぐっときます。

子ども向けのドラマですが、本当にきちんと作られているなあと感心します。

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「エレノア・オリファントは今日も元気です」・・追記

2019-08-04 11:23:41 | 

 

昨日の記事、

「エレノア・オリファントは今日も元気です」
についての追記です。

私が読み間違えていたかもしれないので、それを検証したいと思います。

残念ながら、ネタバレしないと説明できない内容なので、未読の方はそれぞれのご判断でお願いします。

以下、ネタバレ。

最後のどんでん返しというのは、
エレノアが10歳の時に、母が自宅に放火して、4歳の妹と母が死に、エレノアだけが辛くも生き延びた、という事実が明かされることです。

つまり、物語を通して長々と語られた母からの電話、虐待ともとれる母の発言はすべてエレノアの妄想だったというわけ。

このどんでん返しが短いのよ。だから何度か読まないと一体何が起きたのかよくわからない。

エレノアの母(当時29歳)は10歳と4歳の子どもがいる自宅に放火し、逃げる途中で煙を吸い込んで死んだ、という記事が最後の方に載っています。

それまで、些細な日常を細々と延々と描写してきた作者が、一番肝心なところの説明を端折り、読者に放りだしているのです。

ミステリーなら、こういうのもありかもしれないけれど、これはミステリーとして書かれた小説ではない。したがって、読者は混乱します。

物語を通して(425ページ!)こまごまと語られてきた母とのやりとりが全て妄想だった・・
それが明かされるのが、最後のたった数ページ。
衝撃が大きいわりに、エレノアが置かれている状況が今一つ判然としない、というか、読者は置いてけぼりを食らった気分になります。

え、そうなの?
それってどゆこと? 

だって、長々とひどい母親に付き合わされてきて、最後の最後に全て妄想だったなんて、受け入れるのは難しい。

これはやはり作者の落ち度と言えるでしょう。

だからこそ、読者評の中で「母との決別が簡単すぎる」といった批評も出てくるのでしょう。

母はとっくの昔に死んでるんだから、その事実をエレノアが受け入れた途端、母が消えるのは当然、なのだけど、それがすごくわかりにくい。

そして、そうであるなら、エレノアのトラウマはカウンセリングによって回復可能かもしれません。
10歳の頃に受けたトラウマがどれだけ激しいものであったにせよ、30歳のエレノアが乗り越えられないはずはない、あるいはエレノアなら乗り越えられるだろう。

だとするなら、昨日書いた「こんなの、嘘じゃん!」は訂正しなくてはいけなくなります。嘘じゃない、あり得ることだよと。

でも、これほど鮮明な妄想がたった数回のカウンセリングで消えるだろうか、という疑問も残ります。

だって、エレノアと母親とのやりとりは、本当に些細なことまで実に詳しく書かれているのだから、それがすべて妄想だとしたら、彼女は精神疾患を患っていてもおかしくない。

だとするなら、エレノアが自分を取り戻すことはそう簡単ではない、と思うのです。

一見、自分を取り戻したかに見えて、またいつか妄想が始まるかもしれない・・

あるいは、ごく単純に考えて、
すべてが上向きになってきたエレノアの人生の中で、彼女の足を引っ張るのが唯一母の存在。
母は死んではいても、彼女の中で生き続けており、母からの電話は、いってみれば彼女自身の自己規制である、という風に解釈すればいいのかもしれません。

そう考えれば、エレノアが母の死を受け入れ前に進んで行くことは十分可能かと思います。

ごちゃごちゃ言わずにさらっと読み流すのがいいのかもしれません。

できれば、私のような理解力の足りない読者にも、わかりやすく書いてほしかったなあ。

 

ああ、やっぱり暑さのせいで脳味噌が液状化してるようです。こりゃ、ヤバイわ。
皆さんもどうかお気をつけください。

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「エレノア・オリファントは今日も元気です」

2019-08-03 14:57:36 | 

いやあ、毎日暑いですねえ。
もう脳味噌がゆだってスプーンですくって食べられそうなくらいの暑さですね。

今日は映画じゃなくて本を紹介します。

「エレノア・オリファントは今日も元気です」
(ゲイル・ハニーマン著 ハーパーコリンズジャパン)

発売後たちまちベストセラー入りし、35か国で翻訳。ブック・オブ・ザ・イヤー2017受賞。リース・ウェザースプーンが映画化に名乗りをあげたという本です。

しかも、これがデビュー作というから驚きます。

イギリスのグラスゴーに住んでいる30歳のエレノア・オリファントの物語。
彼女はごくありふれた会社の事務職員ですが、少々変わり者。
周囲の空気が読めず、会社でも浮いている。それでも仕事はきちんとこなすし、上司に認められ、昇進もする。

いわゆる発達障害、あるいはアスペルガー症候群の女性の話か、と思い読み進めていくうちに、
彼女の生い立ちが深く関係していることがわかってきます。

これ、ミステリーのジャンルには入っていないのだけど、けっこう謎が多く、

(たとえば、彼女は顔にやけどを負っているのだけど、いつどこで火事があった?
「私たち」とは誰のこと? 彼女の母はどこに住んでいる? 等々・・)

それらの謎が明かされるのが、ようやく、最後の数ページ。
大きなどんでん返しが来ます。

ここに来るまでが長い(全体で425ページ)。
途中で何度放り出しそうになったことか。どうでもいい日常が細々と描写されていて、こういうのが好きな人にはいいんだろうけれど、せっかちな私はかなり飛ばし読みしました。

大丈夫、飛ばし読みしてもストーリーはわかるから。

そして、最後に、
おお、そうだったのか!

おお、かわいそうなエレノア!

となるのですよ。

物語は、彼女自身の(空気読めない)目線で語られるので、その描写がユニークで面白い。所々笑える。

でも、エレノアの育った環境は決して生易しいものではありません。
彼女の母親の毒親ぶりは、とにかく凄まじい。
彼女は精神的にとことん追い詰められます。その虐待ぶりはハンパない。

彼女がまともに社会生活が出来ていることは、ほとんど奇跡に近いと思います。

これはフィクションだから語れる物語であって、現実はこうではありえないだろう、とも思います。

物語の中で、生き残り、サバイバルしたエレノアは、多くの若い女性たちに勇気を与えるだろうけれど、現実にそうした虐待を受けた人たちにとっては、

こんなの、嘘じゃん!

というストーリーでもあると思います。

実際に虐待を受けた人、今もなおそこからサバイバルするために苦悩している人たちにとって、これがどのような印象を与え、どのように受け止められるかは、私にはよくわかりません。

でも、現実に苦しんでいる人たちを確かに救える物語かというと、少々疑問に感じるところもあります。
特に、最後のどんでん返しはなかなかのもので、これを乗り越えたエレノアは凄いとしか言いようがない。

そういう本であることをあらかじめ知っておいてから読むのがいいかと思います。

それでも、一読の価値はあるし、多くの(普通の)女性たちに勇気を与える物語であるのは確かでしょう。

 

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