ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

「83歳のやさしいスパイ」

2023-09-06 20:40:22 | 映画

アマプラで面白い映画を見ました。

「83歳のやさしいスパイ」(マイテ・アルベルディ監督 チリ、アメリカ、ドイツ、オランダ、スペイン合作 2019年)

これ第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた作品だそうです。

造りはフィクション風なのだけど、実際のところ、チリの老人ホームに許可を得て撮影したドキュメンタリー作品だそうです。

フィクション風、というのは最初の設定が面白いからです。

ある探偵事務所に、老人ホームに入居している母親が十分な介護を受けられていないようなので調べてほしい、という依頼が舞い込んできます。

そこで、探偵事務所は、老人ホームに潜入スパイを送り込むべく、80歳~90歳の老人を募集する、というところから始まります。

老人たちが大挙してやってくるのですが、スマホやカメラなどのデバイスを使いこなすのが難しく、なかなか条件にあう人がいない。

その中から選ばれたのが、83歳のセルヒオという老人。

彼は役者ではなく、一般人だそうです。

このセルヒオ爺さんがすごくいい味だしている。

セルヒオは老人ホームに潜入スパイとして送りこまれるのですが、彼はたちまちホームの人気者になります。

老人ホームには圧倒的に女性が多い上、セルヒオのような穏やかでハンサムな紳士が来たとなれば、80歳~90歳の老女といえども少女のように胸をときめかせるのは必至。中には彼に告白する老女まで現れ・・

この辺も実際の入居者たちの取材によるもので、作り物めいたところは全くありません。

入居者たちの表情も自然だし、中には盗難癖のある女性なんかもいて、彼女がターゲットの女性のものを盗んだ犯人かと思われるのですが、彼女には認知症があり、盗癖があるという自覚は全くない。

三か月のスパイ活動の中で、セルヒオは大事なことに気づきます。

「ホームに犯罪など一切なかった。ターゲットは手厚く介護されている。彼女に本当に必要なのは家族の愛情なのだ」

入居者たちのほとんどが、誰も面会に来てくれない孤独な老人たちです。

子どもたちにはそれぞれ家族があって忙しいからだと彼らは言いますが、彼らの孤独が見ている私たちにも伝わってきます。

「このような調査は依頼人が自ら行うべきだ。そうすれば、母親にもっと寄り添えるだろう」

長い人生の旅路の果てに、このような老人ホームに入れられ、面会に来る家族もなく、孤独に死んでいくのですね。

あんな夫のせいで私は人生を棒に振った、と振り返る老女もいます。

「ママが迎えにくるから」とママを待っている老女もいます。

それぞれの長い旅路の果てには、このような最期を待つばかりの日々もあるのだ、ということを私たちに教えてくれます。

でも、全体的に暗くない。くすりと笑える場面もあり、人間というのは幾つになってもその人らしさを失わないものなのだなあ、と実感します。

100歳近くなり、しわくちゃで美とはかけ離れた存在になったとしても、なおそこには命の炎が燃えており、人間というのは、最後の最後まで、一生懸命生きていく生き物なのだ、ということを実感させられます。

老人ホームを後にするとき、セルヒオは自らの境遇を噛みしめます。

愛する家族のもとに帰ることのできる自分は何て幸せだろうと。

老人もこれから老人になる人も、老人なんてまだまだ遠い未来の話だと思っている人も、

ぜひこのドキュメンタリーを見てみてほしいと思います。

人間てすごいなあ、面白いなあ、と実感すること請け合いです。

同時に、この歳になると、とても他人事とは思えない、身につまされる現実でもあります。

 

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