壁際椿事の「あるくみるきく」

東京都内在住の50代男性。宜しくお願いします。

『インプレサリオ』を読んだ

2010年02月11日 | 読書
米カジュアル衣料、ギャップの日本進出を助け、スポーツ用品、ナイキの一大ブームを巻き起こし、ユニクロを上場に導き、青山フラワーマーケットの売上を4年間で7倍に増やし、三菱東京銀行(当時)の斬新な店舗をプロデュースし、シアトル系カフェとは一味違うUCCのチェーン店『上島珈琲店』を生み出した仕掛け人……。

その人物、シー・ユー・チェン氏が書かれた『成功請負人 インプレサリオ』(ダイヤモンド社)を読みました。非常にクリエイティブで、既成概念にとらわれず、活力的で、魅力的な仕事ぶりに、頭がクラクラする思いでした。

印象に残ったのは、「未来の旅先案内人」というキーワードです。(以下引用)通常の経営コンサルタントが、プロジェクトの方向付けをするのと違い、僕たちは未来のあるべき姿を明確化し、結果が出せるよう具体的な作業を手伝います。(引用終わり)

本当に、細かな点まで具体的なんです。チェン氏は、「リテール is ディテール」とも言っています。

(以下引用)僕は自分がリテール(小売)に関するブランド・コンサルタントだとは思っていません。今の会社(CIA)は、シャーロック・ホームズが、ベーカー街で待機していると事件が持ち込まれるのに似ています。いろんな会社からプロジェクトが持ち込まれてくるのです。(引用終わり)

営業に四苦八苦している身としては羨ましい限りですが、シャーロック・ホームズのたとえ話など、非常にセンスを感じます。

(以下は引用を一部改編)ブランディングにおいて洞察力ある考察をするには、どうするといいか? 短期的に消費されるFAD(ファッド)と呼ばれる流行と、ビジネス社会全体のマクロな潮流を選別し、対応策と戦略を練る。たとえば、ここに川があると仮定する。表面は流れが速いから、浮いてぼんやりしていると自分たちが流されてしまう。だから、川底にいて、ちょっと遠巻きに上の流れを眺め、あれが一番速いとか、あれは沈みそうだとか見極め、データを編集しながらも、直感を大切にしながら、流れを見るようにしている。(引用終わり)

嗅覚とかセンスとか抽象的な言葉でしか表せない、いわく言い難い「洞察力」を、具体的に表現しようとされています。僕にはセンスも嗅覚もないのですが、何となく伝わってきます。

インプレサリオとは、オペラのプロデューサーのこと。テーマを決め、役者やスタッフを配役し、舞台美術や音楽を選び、広告宣伝を考え、全体に指示を出し、最終的にオペラを成功に導くという役割です。

太平洋戦争後の幼少時、日本に移住した華僑の二世であるチェン氏は、もとは音楽家で、20代で渡ったアメリカで飲食店の空間プロデューサーに。その後、日米中を股にかけて活躍するブランド・コンサルタントになりました。関わる仕事は飲食や小売りが多く、その実績は冒頭の通りです。「インプレサリオ」とは、たぶんチェン氏の友人、野地秩嘉氏の命名だと思いますが、まさに絶妙のネーミング。面白い本でした。