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プロポーズ小作戦71

2009-05-11 23:25:17 | コードギアス
プロポーズ小作戦71
2020年12月中旬
お誕生日に何か贈りたいの

天子がブリタニアの皇帝のお茶会兼狩猟会に招かれたのを星刻が知ったのは天子が帰ってきてから。
ジノが帰国して、このごろ機嫌の良い大司馬だったがそれを聞いたとたん不機嫌になった。
確かに内宮のことは、星刻の管轄ではない。しかし、だからといって天子様のことを自分に言わないとは。
このことで内宮の女官の何十人かが所属を代えられた。



公私混同、嫉妬心丸出しの大人気ない大司馬であるが、彼の内宮での評判はいい。
口うるさい老女官長を引退させ、年齢的にもとっくに引退すべきだった。
また、多すぎる女官を整理し、各自に役目を与え規律を整えた。人数が減ったのに、天子の周りのガードは以前より堅固になったので、今までいかに無駄な人員が多かったのかがよくわかる。
整理された女官達はほとんどが大宦官の息のかかった者で、星刻としては危険な存在である彼女らを天子から離す機会を待っていたのだ。今回の天子の無断外遊は、いい理由になった。


無断外遊といっても知らなかったのは星刻一人で、これは公式行事である。
女官の人員整理を終えた後は、それ以上誰かに八つ当たりするわけにもいかない。
本来の不満を持つべき対象である、天子に対してまったく不満を持たないのは、彼が星刻だからである。


この頃、ゼロ・スザクは愛機零の整備のため中華に来ていた。
このところ、星刻の指示の通りに戦いの場を選んでいる。以前は激戦地区に優先的に行き、そこを平定し、また次を平定するを繰り返していた。
しかし、あの道場同盟成立以来、スザクはまず正義の騎士ゼロとして各国を訪問し、時にはメッセージを時には脅しを伝え、反応に応じて戦場に出る形をとっている。今までは単機での行動が多かったが、鞘を持つ国を中華に変えてから、漆黒の騎士団が同行し作戦を多元的に展開できるようになった。
その一方でナナリーの傍にいる時間を減らしていないのだから、効率的に戦闘をこなせるようになったという事だ。それには漆黒の騎士団の、人前に姿を見せない謎の指揮官の存在も大きかった。


見方によっては、今のゼロはずいぶんいい待遇である。世界の3大美少女のうち2人と身近に暮らし、残る一人ともしばしば連絡を取っている。
イエローメディアがいっときそのことを叩いたが、このときばかりはピッタリと息をそろえたシュナイゼルと星刻により、会社ごとたたきつぶされた。
普段は大国の横暴に対して、辛口の扇総理もこの件だけは全面的に両国を支持した。
「どんな親を持ち、どんな血筋に生まれたかは本人の責任ではない。特別な血筋であることだけを理由にプライバシーを侵されたり、好きな相手を否定されたりむりやり押し付けられたり、そんな時代は終わった。」

常に無い、扇の強い口調には幼い娘、勇希の存在が大きかった。
イエローメディアは勇希のことも叩いていた。それに対して、扇は自分が総理の座にある間は記者も出版者も処分しないと言い切った。たとえどんな形でも権力が言葉をつぶすことはしないと保障したのである。一方で扇は自分の任期が終わり、一人の父に戻れた後は保障しないとも発言した。温厚な調整役として知られた扇だが、彼も数える事もできないほどの死を生産してきたテロリストである。マスコミは穏やかに続けられた言葉にそのことを思い出した。



星刻の指導や漆黒の騎士団の活躍、特に謎の司令官のおかげで、ゼロ・スザクにはほんの少しだが時間的に余裕ができた。それはスザクにとって楽しいことではなかった。
戦場で命を張り詰めているときは、自分がルルーシュの造った世界を守るという思いで満たされた。
時には追い詰められ、生きろギアスが発動したりした。
追い詰められたとき、間違いなくスザクの心は歓喜で満たされた。単純にたった一つの理由で。
(ルルーシュ、俺はまだ君の声を聞ける)



スザクは豪華な宮殿の狭い1室でトレーニングに明け暮れていた。
身体を鍛えて鍛え抜いて、心を空っぽにできるまで。



ところがそんなスザクをじゃまする存在がいた。
中華大司馬である。
すでにゼロの中身もゼロ・レクイエムの裏表も知り尽くしたこの男は、時折スザクの部屋にやってくる。
そして、一方的に話し続けてまた勝手に帰っていく。話の内容が世界情勢のときはスザクも理解が及ぶかどうかはともかく熱心に聴く。元来スザクは成績こそ悪いが頭はいい。ただし、頭の回転より、心の反応に体が常人にありえないほどの速さで反応するだけで。スザクの優秀さは星刻も認めた。ただしスザクの場合頭が考えに至る前に、直勘で正解にいたるのだ。
星刻は時々スザクの意見を訊いた。反射的に返る言葉が自分の思考と一致する。星刻は100パーセントの自信を持って、スザクを戦場に送れる。


ところで、星刻は時々世界情勢とは何の関係も無い事でスザクに話をしにくる。例えば今回のように。
天子が外遊するのは別に不思議は無い。行き先がナナリーのところでも不思議は無い。
しかし、星刻は不満を訴える。いやはっきり言わないが不満を抱えている。
(そんなこと僕に言われても困るよ)
そのうちにスザクは気が付いた。要するに自分は星刻のストレス解消に使われているらしい。



そんなある日星刻は言った。
世間はクリスマス。よければナナリー陛下といとこ姫に何か贈られてはと。
季節の事など忘れていたスザクはこの申し出にしばらく返答できなかった。


世間はクリスマス。各国がさまざまな行事でにぎやかになる。まだ、イベントどころではない国も多いがとにかくブリタニアと日本、そして中華の洛陽はクリスマスカラーに染まった。
天が祝意を伝えるかのように、純白の雪を降らせた。
庭ではしゃぐ天子。愛らしい光景だが、一方では、大司馬公館では牧畜民の耐寒対策に追われていた。
天子を楽しませたホワイトクリスマスを演出した雪は、それに続いて寒波をもたらした。猛暑の後は厳寒ということわざの通りに季節は巡る。多くの遊牧民が雪盲や凍傷の被害を受けた。政府は早い時期から厳冬や大雪の情報を流していたがそれを受け止める民には、取れる対策が無い。本来なら地方長官が動くべきだが、いまだに大宦官時代の体質のままの地方は、ただひたすらに己の利益を守るだけである。


星刻自身は全体の指揮を執るため洛陽を動けない。洛陽に戻しておいた漆黒の騎士団を使おうにも、外国人である彼らでは遊牧民は受け入れない。
備蓄した食糧が盗賊に奪われ、餓死者凍死死者が出ても地方の遊牧民は救援に差し出された食料を受け取ろうとしない。外国人というより、部族以外の人間を信用しない。まるで死を待ち望んでいるかのような遊牧民達に、救援に行った漆黒の騎士団の青年達は戸惑い恐れた。中には軍を離れるものも出た。


スザクも一人でも多く助けられればと、愛機で飛んだ。積雪で道路が寸断され、凍結で鉄道が止まる。
星刻は各地の軍に除雪のために出勤せよと命じた。物流ルートを確保せねば被害は広がるばかりである。
しかし、地方長官たちは平然と大司馬の命令を無視した。
これが星刻の決断を早めた。

いまだ、自国の被害を知らず、穏やかな年末を迎えようとしている天子。
その天子が星刻を呼んで訊いた。

「本で読んだの。お誕生日は贈り物をする日だと。星刻、私は最初の贈り物をあなたに贈りたいの」
望むものはありますかと天子は問う。
それに対して大司馬が答える。

わたしの軍籍を抹消してください。
2020年12月29日である。

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