【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

月見

2010-09-23 18:08:57 | Weblog
昨夜は雲間の月見でした。
煎餅ではなくて団子を供えるところを見ると、古くから日本人は月が平面ではなくて球体であることを知っていた、というのはやはり強弁でしょうか。
そういえば月が球体であることを手間暇かけて証明したのは、ガリレオでしたね。彼が日本の月見団子を見たら喜んだかもしれません。

【ただいま読書中】『天空のリング』ポール・メルコ 著、 金子浩 訳、 早川書房、2010年、1000円(税別)

ほとんどの人類が「共同体」(インターフェースを介しての60億人の人間と機械知能との統合体)となったあとなぜか消滅してしまった後の地球、世界を建て直したのは2~5人で成る「ポッド(小群)」でした。各個人はそれぞれ役割を分担し、触れ合うことやフェロモン放出で情報を共有する集団です。
本書の「主人公」アポロ・パパドプロスは5人から成るポッドです。
ストロム(男)「力」担当。戦闘時には指揮官となる。
メダ(女)「交渉」担当。「アポロ」として他人と交渉をする。
クアント(女)「パイロット」担当。ニュートンの法則と数学が直感的にわかる。
マニュエル(男)「作業」担当。足でも物がつかめるように体が改変されている。
モイラ(女)「良心」担当。「アポロ」の良心。
各個人はそれぞれの担当領域ではエキスパートですが、ポッドから離れた瞬間孤独感とコミュニケーション不全からまともな行動ができにくくなってしまいます。人体から生きたまま分離された手や足がまともな行動ができないのと同じように。そしてアポロが目指すのは、外宇宙探査船の船長でした。彼らはそのために生まれてきたのです。
外宇宙探査船に乗り込めるかどうかの最終試験は、宇宙での実習でした。しかし、アポロはそこで命にかかわる陰謀に巻き込まれてしまいます。軍が彼らを始末しようとしたのです。アポロは逃げ出します。宇宙エレベーターを伝わり、降り立ったのはアマゾンの地。そこで彼らは軍の手に落ちてしまいますが何とか脱出します。ポッドであることの強みと弱みが際だつ戦闘シーンは、これまでにない新鮮さです。
また、ポッドの5人が各章で次々交代で語り手を務めるのですが、その章の中で誰か(多くは語り手)がポッドから切り離される瞬間があります。5人が一緒でなければ「不完全(アイデンティティの危機)」だと感じながら育ってきた「アポロ」は、そういった経験を重ねることによって、各個人としても、そして「アポロ」としても成長していくのです。
そしてアポロは熊たちと出会い、行動をともにします。熊たちに導かれてたどり着いた古い研究所で、アポロは「共同体」とポッドの関係に疑問を持ちます。さらに、自分たちの“出自”にも。
「個人」が融合して一つの共同体になる、というのはSFでは珍しい話ではありませんが、それを一度ローカルレベルに落としてきわめて具体的に描いて見せたのは本書の「価値」になっています。読むべき「価値」に。



コメントを投稿