「しんぶん赤旗」2025年4月9日、11日
保護者の苦しみに寄り添う 子の“ありのまま”受け止めて 一人で悩まず相談を
登校できない、進路に悩んでいる、ひきこもりの子どもの将来が心配…。保護者の相談に向き合い続けて40年、NPO法人おおさか教育相談研究所(馬場野成和理事長)の相談員(退職教員)に聞きました。
―おおさか教育相談研究所の活動は?
1985年の開設以来、4万件を超える教育相談を行ってきています。活動の柱は、対面での保護者・本人との相談、訪問・電話での相談、地域や他機関との連携です。コロナ禍以降は毎年、無料の電話相談にも取り組んでいます。
現在の相談員は30人。小・中・高・特別支援学校などの元教員を中心に、子どもが本来持っている自己回復力を引き出すことに努めています。これまでの対応と援助のあり方を理論化して出版もしています。(『登校拒否を克服する道すじ』)
教員の働き方が
子どもが学校に行けなくなったり、家にひきこもったりした時、親は「早くなんとかしないといけない」と焦りますが、私たちは「まずは子どもの“ありのまま”を受け止めることから始めましょう」と言っています。「子どもがこんな状態で苦しい」という親の気持ちは相談員が受け止めますからと。その次に、どう対応するのがいいだろうか、と話し合います。
学校も子どもや親の思いを受け止めようとしていますが、現場は「担任の先生がいない」「先生が忙しすぎる」などの深刻な状況です。学校外で支援にかかわる人たち、行政、そして学校が連携して、どの子も「明日も行きたい」と思える学校づくりを共に考えようと呼びかける「アピール」を3月に発表しました。
―文部科学省は昨年11月、2023年度の小中学校の不登校が11年連続で増加して過去最多の34万人超と公表しました。先生たちの実態は?
正規雇用の教員が急速に減って、この10年間で働き方が様変わりしています。
現場のサポートに入っている相談員もいますが、週1~2日の退職教員のボランティアが一つの学校に10人近くいる、という事例もあります。非常勤講師の割合も高く、講師が担任を持たないといけない状態です。
職員室で朝礼がない学校も増えています。雇用形態がさまざまで出勤時間が違うので、教職員全員がそろわないのです。全体で共有しないといけない情報は、グループLINEで流されます。
教員たちが顔を合わせて話し合いながら、子どもたちの様子を伝え合う姿が消えていっています。若い教員たちは、先輩教員の話や動きから学ぶことも多いのに、どうやっているのでしょう。問題を一人で抱え込む教員もいて、病気になって休む人もたくさんいます。
三つの詰めこみ
―先生が足りない深刻な問題は、教員採用試験の受験者数減少などのニュースでも。その影響は?
桜美林大学の中村雅子さんは、日本の学校は「子どもを教室に詰めこむ」「子どもに勉強を詰めこむ」「先生に仕事を詰めこむ」という「三つの詰めこみ」が問題と指摘しています。教員に仕事を詰めこむと、子ども一人ひとりに目をかける時間が持てなくなります。
全日本教職員組合の実態調査では、34都道府県11政令都市で教職員の未配置(本来必要な定数を満たしていない状態)が4739人。大阪でも、一つの学年で3人の教員が病欠、担任が1年間で4人も代わったという話があります。
中学校で、担任が病欠になったから副担任が担任になる、ということも。副担任の方が授業時間数の多い場合もあるのに、補充されずに副担任に業務が加重される。また、担任がいない間を管理職がつなぐことも多いのですが、その間に学校に行けなくなる子どももいます。担任がいないと不登校、障害のある子、貧困、ヤングケアラーなど、困難を抱えた子への支援が後回しになります。
まずは未配置の“空いた穴”を埋めて、今すぐマイナスをゼロに戻してほしいです。
5年間の検証を
―困難を抱えた子への支援。現場では?
文部科学省は、不登校支援のCOCOLOプランで「校内教育支援センターの設置を促進する」と打ち出しましたが、こうした支援室(別室)に正規の教員が配置されている学校はほとんどありません。支援の必要な子が安心して別室登校できるように、きちんと配置してほしいと思います。
低学年のうちは、学校に行きたがらない原因がはっきりしないことも多くあります。環境になじめないのか、発達に課題があるのか、学校でじっくり見極める体制と時間が必要です。コロナ禍で幼児期を過ごした子どもたちです。保育園や幼稚園で一番抱いてほしい時期に抱いてもらえず、2020年度から全面実施された学習指導要領で道徳、ICT、外国語の授業を受けています。
幼児期に必要なことは何か、小中高校の教育で何を育てるのか。この5年間の検証が必要です。
「明日も行きたい」学校に
NPO法人おおさか教育相談研究所は3月、アピール「どの子も『明日も行きたい』と思える学校づくりを!」を発表しました。副理事長の甲斐真知子さんに思いを聞きました。
不登校34万人超のニュースは、増加の予想をしていたものの衝撃的な数字でした。SNSによるいじめ、過去最多の小中高校生の自殺数など、子どもたちの心身の傷つき、生きづらさが蓄積されていると感じています。
文部科学省は2019年、「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」を出し、「不登校児童生徒への支援は、『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある」と、子どもと保護者に自己責任を負わせています。
不登校の親の会で、この通知の学習会をした時、親たちが「学校に来る努力をしなくていいよと、私たちはほったらかされた」と口々に言っていました。とても印象的で、「文科省は自らの教育政策を振り返らず、解決に予算もつけないし、責任を放置している。それが当事者を苦しめ、不登校が増加し続ける原因になっている」と思います。
アピールでは教育行政に望むこととして、▽子どもたちの願いが届く「30人以下の少人数学級」を早急に実現する▽先生の未配置をすぐになくす▽子どもたちの学ぶ権利を保障するため、教員定数削減をやめて、先生を増やし、支援の必要な子どもに支援が行き届く学校にする▽「管理と競争そして詰め込み」の学習指導要領を見直す―ことを挙げました。
教員も過酷な労働で生きづらさを抱えています。「先生たちが病気にならないように、少人数学級、定数増を」「担任の先生がいない問題を今すぐ解決して」と強く言いたいです。
子どもを支援する人たちにアピールを広げて、不登校やひきこもり、子どものことで困っている人がいれば研究所を紹介してほしいし、地域で不登校のことを考える際の材料にしてください、と呼びかけます。
(おわり)
NPO法人おおさか教育相談研究所・電話06(6762)0232、ファクス06(6762)0233
いつまでも教員が増えない。
教員の負担がますます過酷になっている。
これらのことを放置して何が「国防」か!
今年の雪融け、例年より遅れている。
畑にはまだ雪が残っている。