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藻谷浩介氏は語るー出生率の低い首都圏の日本人は生物学的には絶滅へ

2023年07月29日 | 社会・経済

 生き残るのは職住環境が安心な“過疎自治体

AERA dot 2023/07/29/

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 現在、全国約1700自治体のうち、300近い自治体で70歳以上人口が減少している。「こうなれば福祉予算を減らして、子育て支援に予算を振り向けられるようになります。それで子育て環境が整えば、子どもが増え始める」と地域エコノミストの藻谷浩介氏は語る。同氏を取材した朝日新聞社編集委員の原真人氏の新著『アベノミクスは何を殺したか 日本の知性13人との闘論』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、人口についての観点で見たアベノミクスを紹介する。

【グラフ】日本全体の年齢別人口、総人口の推移

*  *  *

 一昔前なら日本経済が停滞する要因は、円高不況や産業競争力の衰退が理由にされることが多かった。一方、アベノミクスは、デフレが停滞の原因だとして金融緩和や財政出動が不足していることを問題視した政策だった。

 そうした視点とはまったく違う「生産年齢人口の減少」という現象に最初に光を当て、政策論として初めて採り上げたのは藻谷浩介である。今の日本の等身大の姿、自画像を描いていくうえで人口減少と超高齢化という事実を避けては通れなくなった。

 話題の著『デフレの正体』から10余年、そこで示した日本経済の診断や提言は生かされてきたのだろうか。当事者にその後の経過といまの思いを聞いてみよう。

――経済を動かすのは景気の波でなく、人口の波だという藻谷さんの発見は今では賛同者も多いですが、2010年に『デフレの正体』を発表した時には多くの批判があったそうですね。

藻谷:商業統計を調べていて、生産年齢人口の減少と消費停滞の連動に気づきました。でも当時は少なからぬ経済学者らが「人口とデフレは無関係だ」「人口減で供給力が落ちるならむしろインフレ要因になる」などと反論してきました。真の病因が特定できなければ誤った治療法に迷い込んでしまうと考えて提言したのに、古いセオリーを丸暗記していると、眼前の現実が見えなくなるのでしょうか。  

――2010年といえば、日本は中国に国内総生産(GDP)で抜かれ、半世紀近く続いた世界2位の経済大国の座を失ったタイミングです。人口減と経済大国からの転落。二つのショックがその後、日本全体に悲観的な空気を広げていったと思います。

藻谷:世の中に何となく漂っていた不安の正体を突き止め、指し示すのが狙いでしたが、結果的にショックを助長することになったのかもしれません。でも私は過度な悲観は無用だし、打つ手はあるとも訴えてきました。たとえば若者の賃上げとか、女性就労、外国人観光客の誘致などの内需底上げ策がそうです。

――その後もすぐに人口減少問題は政策の焦点にはなりませんでした。その後に発足した第2次安倍政権は、むしろ「デフレの原因は金融緩和が足りないからだ」という方に焦点をあてて、日本銀行にインフレ目標を掲げさせ、異次元金融緩和をやらせるようなことになりました。

藻谷:私が唱えた「人口原因説」に最も強く異論を唱えてきたのが、アベノミクスを支持するリフレ論者たちでした。「金融緩和で物価や株価を上げれば、消費も増える」という彼らの空論を信じ込んだ安倍元首相は鳴り物入りで異次元緩和を日銀にやらせました。その結果、株価は急騰しましたが、肝心の消費は私の本で予言した通り、ほとんど増えませんでした。

――アベノミクスの「人為的にインフレを起こす」という処方箋は見当ちがいだったということですね。

藻谷:1980年代後半のバブル経済の後の20年間の金融緩和で、10年前にはお金の量は3倍になっていましたが、それでも効果がなかったのですから、アベノミクスの結果は最初から明らかでした。本の発刊後に、小野善康・大阪大特任教授のいわば「預金フェチ(偏愛)」説を知って、いっそう理解が深まりました。現役世代は所得を消費に回しますが、高齢富裕層は欲しいものがなく、消費より貯金が快感になってしまっています。こうした預金フェチの人にため込まれてしまうので、金融緩和や財政刺激をしても需要は伸びないのです。

――コロナ禍のもとでもモノが足りなくなる供給ショックは、マスクなど一部を除けば起きませんでしたね。

藻谷:経済学の祖アダム・スミスの生きた18世紀なら、感染拡大下で働き手が足りなくなり、供給力が落ちたかもしれません。でも今はこんな事態になってもモノ不足にはならない。ロボットなどの進化によって生産力は補完され大きくなりました。太陽光エネルギーのような技術革新もあって資源制約も受けにくくなりました。人類は巨大な供給力を手に入れたのです。一方で消費が盛んな生産年齢人口が減っているうえに、お年寄りはお金を使わないから消費数量は減ってしまうのです。

――問題は生産力ではなく、需要をどう増やすか、ですか。

藻谷:需要なき生産拡大は値崩れを起こすだけです。(現在主流の)生産に重きを置く経済学の枠組みは時代遅れです。人口成熟のもとでの成長の条件は、現役世代の所得が増え、人口当たりの消費額、時間当たりの消費額が増えることです。

――消費が増えない背景に、政府の財政悪化の影響はありませんか。人々が将来の増税を予想し、将来の生活を心配してしまうからです。

藻谷:影響はあるでしょう。政府が返済計画の立たない借金を積み重ねる姿には、社会の病理を感じます。だから当然ながら財政規模は肥大化してきましたが、内需はほとんど増えていません。さらなる財政拡大を提唱している、最近はやりのMMT(現代貨幣理論)論者たちはその事実を見ていません。

――このまま財政を維持していけるとはとても思えません。

藻谷:日本の経常収支の黒字の規模はコロナ禍が起きた2020年も世界3位でした。これが続いて財政赤字を国内資金で賄えるうちはいいのですが、戦争や天災など何らかの理由で金利が急騰したら、巨大な借金を抱えた政府機能は即刻止まってしまいます。そうでなくとも南海トラフ地震は近未来の発生が想定されていますし、豪雨災害も続くでしょう。いざ本当に財源が必要な時のための備えがどうしても必要です。

■世界に先駆け超高齢化、でも子どもは増える

――いま備えるべきことは何ですか。

藻谷:やれることはたくさんあります。たとえば自然エネルギーや、国内産の食料・飼料の生産を増やして自給率を上げて、輸入額を抑えることです。日本の農業がまだ試していない技術革新の材料はいっぱいあります。世界には降水量、日照量、土地などの好条件がそろわない国が多いなかで、実は日本にはそのすべてがあります。現在4割ほどの自給率を6~7割にすることは十分可能です。それに生産年齢人口が減ったとしても、AI(人工知能)とロボットによる省力化でこれも乗り越えられるはずです。

――本来、長寿大国は誇るべきことなのですが、最近は先々の生活資金面から長生きに不安を抱く人が増えています。これも消費を控える要因ではないですか。

藻谷:高齢者の多くが金銭面の不安を抱えているのは確かですが、一方で高齢の富裕層が膨大な金融資産を抱え込んでいる現実もあります。持てる高齢者が生涯使わない貯蓄の一部を、持たざる高齢者の生活資金に回す。それだけで若者に負担をかけずに事態は改善できるはずです。年金は、現役世代の保険料で今の高齢者の年金原資を賄う「賦課方式」になっています。これを制度通り運用して支給額を減らし、貯金のある間は取り崩して生活してもらうようにする。他方で、生活保護制度の運用を改め、貯金の尽きた高齢者がすぐに生活費を受給できるようにする。そうすれば、受取額が年金より多くなる人も増えます。全体でみれば財政負担は減り、消費は増えるでしょう。

――人口減で過疎化がより進めば、地方が滅びてしまいませんか。

藻谷:人口減の理由は少子化です。だから、むしろ過疎自治体の方が生き残る確率は高いと思います。こんなデータがあります。2020年までの5年間に0~4歳の乳幼児人口が増えた過疎自治体は100以上ありました。逆に首都圏1都3県は、地方から親世代となる若者を集め続けたにもかかわらず5%減です。出生率の低い大都市圏の日本人は、生物集団として見ればすでに絶滅に向かう状態です。3人以上産んでも普通に暮らせる職住環境がないと、人口は維持できません。東京ではとても無理です。でも人口が数百人規模の過疎集落なら可能かもしれない。それにコロナ禍のような状況下では、密集度が低い田舎の方が感染リスクが低く、安全・安心な場所でした。

――藻谷さんが提唱していた訪日観光客の誘致は、コロナ禍がなければ年間4千万人が見込まれるほど順調でした。でもそれは円安のおかげであって、見方を変えれば一種の「日本の安売り」だったのではないですか。

藻谷:必ずしもそうとは言えません。16年から為替は円高方向に戻りましたが、訪日観光客数はむしろその後、急増しました。日本には国際観光地としての絶対的な優位性があるのです。地図アプリの衛星から見た世界地図をご覧いただくと、よく分かります。日本と同じ緯度、同じ経度をぐるっと1周してみてください。緑の山と青い海に恵まれた日本がいかに例外的な場所かわかるでしょう。世界から見た日本の自然や環境は、四季折々に訪れたい庭園のような場所なのです。しかも、とびきりおいしい食事までできる場所なのです。 

 問題は日本の観光政策が、客数だけを目標に安売りに走ってしまったことです。コロナが収束すれば外国人観光客は黙っていても再び増えるでしょう。それはデータからも予想できます。19年には豪州人の39人に1人、台湾人の5人に1人が日本を訪れました。米国(187人に1人)や中国(143人に1人)からも豪州や台湾並みに訪れるようになったら、とても対応できないほどです。東南アジアや欧州からの訪日客だってもっと増えるでしょう。だから客数を増やす目標はもうやめた方がいいです。日本経済の付加価値を効率よく高めるためには、中長期の滞在客に地場産品をより消費してもらう。そういう戦略に転換すべきです。   

――中国も2014年に生産年齢人口が減少に転じました。22年には総人口が減少に転じる見込みです。いまは驚異的な成長を見せる中国ですが、近い将来、日本と同様に停滞の道をたどるのでしょうか。

藻谷:中国では高齢者が爆発的に増加しており、少子化も止まりません。20年遅れで日本を後追いしている感じです。日本や世界が中国の消費に依存して成長するのは早晩難しくなっていくでしょう。日本はかつて労働力不足の穴埋めに日系ブラジル人を呼び集めました。中国も同じように東南アジアに広がっている華僑を呼び集めざるを得なくなると見ています。

――そのころ日本はどうなっていますか。

藻谷:主要国で最初に65歳以上人口が増えない時代を迎えるはずです。すでに全国約1700自治体のうち、過疎地を中心に300近い自治体で70歳以上人口が減り始めました。こうなれば福祉予算を減らして、子育て支援に予算を振り向けられるようになります。それで子育て環境が整えば、子どもが増え始めるでしょう。私はそう予測しています。

(インタビューは2021年7月に朝日新聞に掲載)

原 真人(はら・まこと)

1961年長野県生まれ。早稲田大卒。日本経済新聞社を経て88年に朝日新聞社に入社。経済記者として財務省や経産省、日本銀行などの政策取材のほか、金融、エネルギーなどの民間取材も多数経験。経済社説を担当する論説委員を経て、現在は編集委員。著書に『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)、『日本「一発屋」論─バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)がある。


園のようす。
鬼百合とヤブカンゾウ。



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