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海の日に考える 食卓から異変が見える

2024年07月15日 | 自然・農業・環境問題

「東京新聞」社説 2024年7月15日

 愛知県知多半島中央部の伊勢湾に開かれた常滑市の鬼崎漁港。木曽、長良、揖斐の木曽三川が山からもたらす豊富な栄養に恵まれ、全国有数のノリの養殖漁場として知られています。

 ノリ養殖=写真(省略)=は、9月中旬の「種付け」作業から本格化。主に陸上で直径2メートルの水車に幅1・2メートル、長さ18メートルの網を巻き付け、水車を回転させながら胞子の入った水槽に浸します。種付けをした網は、いったん冷凍庫に保管し、水温が下がる10月下旬、沖合100メートルから2・5キロの漁場に立てた支柱に張り込みます。

 ひと月ほどかけて、長さ20センチ程度の葉っぱ状に育ったところで、摘み取り。加工場で重ねて、すいて、乾燥させ、板状の「干しノリ」にした状態で出荷します。摘み跡から伸びる葉っぱを繰り返し摘み取りながら、水温が上がる翌年4月上旬まで作業は続きます。

◆ニッポンの海水が熱い

 でも、困ったことが起きています。伊勢湾のノリは、海水温が23度以下にならないと葉っぱ状に育ってくれないのですが、近年、地球温暖化の影響で海水温が下がりにくくなっているのです。

 鬼崎漁業協同組合の記録では、1989年には、10月3日から張り込み作業を始めることができたのに、2019年には同月21日、昨年は22日と、この30年で19日も後にずれ、養殖期間が短くなって収穫減につながっています。

 張り込み後も、水温が十分に下がらないため、ノリが網に根を張れず荒波に流される被害が出ることも。鬼崎では、過去の経験で、張り込みから17日目までに水温が20度を下回らないと、生育に悪影響が出ることが分かっています。

 さらに、暖かい海を好むクロダイの活動期間が長くなり、食害も増加。黒潮蛇行で伊勢湾の水位が上昇、作業がしづらくなったとも言います。気候変動はこれでもかとばかりに漁師を苛(さいな)んでいます。

 89年に120軒あった鬼崎のノリ漁師は、今や3分の1ほどに。「温暖化に歯止めがかからなければ、後継者不足と相まって、ノリ養殖はさらに縮小するかもしれません。機械化にも限界はあるし…」。鬼崎漁協の平野正樹参事は危機感を募らせます。

 太陽光などで発生した熱の9割は海が吸収すると推定されています。米海洋大気局(NOAA)の分析によると、昨年8月、日本近海を含む、世界の海面の約半分が「海洋熱波」と呼ばれる異常高温に覆われました。温暖化による大陸内陸部の気温上昇の影響で、日本近海の海面温度は、この100年で平均1・28度上昇。世界平均の2倍を超えるハイペースで温暖化が進んでいます。

 これに伴い、海中の異変もエスカレートしています。

 サンマやイカ、秋サケの不漁だけではありません。サワラ、タチウオ、ブリなどが瀬戸内海や九州などから“涼”を求めて北上中。北関東が北限とされていた伊勢エビが、津軽海峡を渡って北海道に達する一方で、冷たい水を好む知床半島名産の「羅臼コンブ」は激減しています。

 京都府の舞鶴湾の岩場には、毒のあるウニの仲間のガンガゼや、食用には向かないフジナマコのような熱帯性の生き物たちがへばりつき、東京湾ではサンゴ礁が急速に広がって、沖縄の海と見まごうような光景が、ダイバーの目を見張らせます。

 海辺を歩けば、海を痛めつけているのは温暖化だけではないと、分かります。ペットボトル、レジ袋、空き缶、空き瓶、廃家電、廃自転車…。陸で森が消えれば目に付きますが、魚や貝の餌場で「海のゆりかご」と呼ばれる藻場が消失しても見過ごしがちです。

 <浜はまつりの/ようだけど/海のなかでは/何万の/鰮(いわし)のとむらい/するだろう。>

 今読むと、この金子みすゞ『大漁』の詩句が痛撃しているのは、海の豊かさに強く依存しながら、十分に<海のなか>の状況に思いを致せない<浜>の浅はかさ、のように思えてなりません。

◆海の恵みを守るために

 でも、手掛かりは暮らしの中にあると、鬼崎漁協の平野さんは言います。「今、食卓に当たり前に上っている海産物が、いつまでもそこにあるとは限りません。海の異変は毎日の食卓にも表れるのです。例えば、海水温の微妙な変化に影響される、ノリの不思議な一生を知ることで、海の異変に関心を持っていただきたい」

 まずは食卓から、何ができるか考えてみたいものです。今日は海の日-。


 ノリの生産量が落ち込んでいる中でインバウンドによる「和食」需要が増えています。🍙や寿司、そしてそばやラーメンにも使われています。値段もかなり上がっているようです。