トランプに握られた日本人の胃袋
安い米国牛肉と「ホルモン依存性がん」急増の因果関係は?
日刊ゲンダイDIGITAL 2019/12/20
奥野修司ノンフィクション作家
▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「怖い中国食品、不気味なアメリカ食品」(講談社文庫)がある。
日本のスーパーに並ぶ米国牛肉。
安いのはありがたいが、その代わり、残留エストロゲン(女性ホルモン)の濃度がむちゃくちゃ高いという話をしてきた。
「国産和牛に比べて、赤身で600倍、脂肪で140倍もあった」との北海道大学遺伝子病制御研究所客員研究員の半田康医師らによる論文を紹介したが、それでは、その牛肉を食べていると、体はどうなるのか。
あるがん研究者はかつてこう指摘した。
「同じ日本人でも、米国に移住すると卵巣がんとか乳がんとか子宮体がん(子宮内膜がん)のような女性ホルモンに起因するがんが増えるのです。どこに違いがあるのか、これまで謎とされてきましたが、考えられるとしたら食事くらいしかないのです」
つまり、アメリカ人と同じような食事を続けていると、日本人は乳がんなど“ホルモン依存性がん”になりやすいとの疑いがあるというのだ。
かつて、乳がんの発症率を日本人が「1」とすれば、アメリカ在住白人は「2・5」もあったが、最近は「1・3」に近づいているといわれる。同じ日本人でもハワイに移住した日本人は、白人の発症率に近づくというデータもある。これは明らかに食事を中心とした環境が関係していることをうかがわせる。
2005年、ハーバード・メディカルスクールの研究者が、9万人の女性を対象にした調査結果を発表した。それは、牛肉に代表される赤肉をたくさん食べると乳がんのリスクを大きく増加させ、その原因は牛に与えられるホルモン剤の残留ではないかとの内容だった。
日本では、1960年代に比べると、牛肉の消費量は5倍に達している。そのうち25%は米国牛肉だ。そして、ホルモン依存性がんも5倍以上に増加している。
ズバリの因果関係は証明されていないにしても、こうした数々の研究結果があるから、EUは肥育ホルモン使用の米国牛肉の輸入を禁止しているのだ。もちろん米国内でも問題視され、健康志向の人たちは安い牛肉を避け始めている。その点はおいおい書いていくが、日本だけがありがたがってホルモン大量投与の安い米国牛肉を引き受けようとしている現状を知っておいて欲しい。
牛乳についても同様である。さらに、あの日に「ステーキが食べたい」とおっしゃった方がおいでで、「CO2と牛肉」の関係も広く知ることとなった。