教育無償化が閣議決定。
180人と通行人が耳を傾けた、
子どもたちの率直な想いとは
すべての子ども・若者たちに寄り添う社会であってほしい
ハフポス 村尾政樹 2017年12月08日
12月8日、政府の教育無償化に関する政策パッケージが閣議決定されます。保育園では無償化の前に待機児童の解消を求める声や、私立高校と大学の高等教育では所得や成績の条件など議論が起きています。あなたは教育の無償化について、どのように感じますか?
そのような中、子どもの貧困への理解を求める「第3回あすのば全国集会」が12月3日、国立オリンピック記念青少年総合センター(東京・渋谷区)で開かれ、ひとり親や生活保護家庭、児童養護施設で育った子ども・若者が登壇。政府や各党の国会議員、各府省の担当者など参加者180人へ向けて、今まで育ってきた環境で困ったことや現在の対策への心境を打ち明けました。今回は、その全国集会と「入学・新生活応援給付金」への協力を呼びかける街頭募金の様子を一部紹介します。是非あなたも子どもたちの現状や率直な声に想いを馳せてみてください。
すべての子ども・若者たちに寄り添う社会であってほしい
定刻10時。全国集会は、中心となって企画した大学1年生の高原さんによる挨拶からスタートです。
高原さんは、メディアでも「子どもの貧困」が多く取り上げられて社会の関心が高まる一方、一部の現状が報道されることによって、ほかの子どもたちの苦しさが理解されなかったり、子どもたち自身もあきらめようとしていることに対して「こんなことで苦しいと思ってはいけないんじゃないか」と声をあげづらい現状があるからこそ、このような場をつくって現状や率直な想いを共有したいと話します。
続いて、高校生と大学生の3人からは「子どもの声」について発表です。
高校3年生の武田さんは1年間、進路選択で伴走し続けてくれた人へ感謝の思いを手紙につづり「寄り添ってくれる人がいなければ、大学に合格できた今の私はありません」と語ります。
大学1年生の花城さんは過去の経験や周りの人への感謝とともに、子どもに寄り添うことについて「政策などの形としての支援を模索するだけではなく、もっとその根本にある、一番大切なことなのでは」と話します。
大学4年生の吉田さんは学習支援ボランティアの経験から、世帯の年収だけで線引きをすると少し多いだけで支援が受けられなくなってしまうことや、親子関係が良くない場合に自分でお金を工面しなければいけないなど対策の問題点を語り、「貧困であるないにかかわらず、すべての子ども・若者に必要な対策をしてほしい」と訴えます。
時には涙も流しながら勇気を持って伝えようとしてくれる登壇者の声を、会場の参加者は静かに耳を傾けます。
次は、子ども・若者世代によるパネルディスカッション『今まで困ってきたこと、必要なもの』が始まります。
登壇者は、すばるくん、にょん、まなか、りょうたくんです。みんなは、少し緊張した様子。コーディネーターの村井さんが会場を和ませながら、話題が展開されていきます。
今の子どもたちの実生活を、私たちはどれくらい知っているか
にょん『母子家庭で育ちました。父親と遊びに行く子が多い高校にいたので、インスタのストーリーとか見ると友達の「お父さんとデート」みたいなのがうらやましかったです。』
村井さん『あすのばで副代表やっています。子どもの貧困の状況はよく語られるけど、そもそも、今の子どもたちの実生活って私たちはどれくらい知っているのでしょうか。どうですか、インスタのストーリーって知っていますか?(笑)
今の子どもや若者が友達とどんな暮らしをしていて、何にお金を使って、何の優先順位が高くてみたいなことをあまり分からないまま、善し悪しを私たちは語ってしまいがちですよね。』
にょん『ディスカッションのテーマとしては、私はそもそも自分が何に困っているのかに気づけないんです。無意識に困っていたと思うけど、後々、大事になってから色んな人に助けてもらうことがありました。
最近、困りごとっていうのに気づけたのは、一番は進学のこともそうですし、あと、いま20歳で次の1月が成人式なんですけど、振り袖の問題が結構大きくて、振り袖ってすごく高くて20~30万くらいするんです。最初に見積もりに行ったところは70万とか出されました。みんなが着ているのに私は着れないんだっていうことを、その額を見たときに感じてしまいました。』
頑張った結果だけじゃなく、頑張ろうとするプロセスも認めてほしい
りょうたくん『高校3年生です。学校ではアカンことは「あれはダメ」、「それもダメ」、「アカン」、「だからアカン」って直ぐ説教されます。けど、良いことをしても「頑張ったね」とは言われるけど、なかなか認めてもらえない。ダメなところはよく見つけるのに、なんで良いとこは見つけてもらえないのかなって思います。』
村井さん『例えば、テストで100点や90点だと「良くできた」となります。でも、70点や60点だと「何でこれできなかったの」、「できなかったとこは後でやっといてね」と言われるだけで、どこまで解けているかをなかなか見てくれませんよね。』
すばる『児童養護施設で育ち、大学は中退しました。おれは頑張ることも重要なことだと思っていて、でも、頑張るまでたどりつけない人もいます。それは、少しでも頑張ったことを周りに認めてもらえる環境があったかが大きいと思ってる。
最初は小さな頑張りで、それが積み重なって、大きな頑張りになって結果を出すことにつながります。頑張った結果だけじゃなくて、頑張ろうとしているプロセスにいる子もしっかり認めてあげることで、その子の可能性が広がると考えています。』
にょん『私は、頑張り方があんまり分からないんです。何というか、がむしゃらにがんばってしまう。それを続けてきたら、今度は休むことが分からなくなっちゃって。休まないと頑張れないのに、その休むことすらできない。結局、自分がどうしたいのかが分からなくなっちゃいました。』
村井さん『相対的貧困という「あたりまえ」の暮らしに届くか届かないか。その「あたりまえ」に届かせるために、がむしゃらに頑張って、乗り越えた先に見える世界ってどうなんでしょう。
そのままがむしゃらにいけるのかなとか、休みのない人生って豊かなのかなって思いますよね。問題を取り除くことは大事なことだけど、その先にどのような私たちの社会であってほしいのかも考えながら対策を進める必要があります。』
新しいあきらめを生まない、実感を持てる柔軟な制度や対策の推進を
まなか『生活保護家庭で育ち、現在は一人暮らしをしながら大学に通っています。私は「頑張る機会を奪われてきた」とも思っています。頑張っても報われなかった過去があったときに「どうせ頑張っても無理なんだろう」って思うし、ようやく頑張ろうと思えても、そのときには機会を奪われてしまっています。』
りょうたくん『来年の4月から奨学金で進学します。給付型奨学金は、所得など基準が厳しくて、僕の学校ではほとんどもらえる人がいませんでした。だからといって裕福な訳ではないんです。「なんやこの制度、結局おれらあんまり利用できへんから意味ないやん」って友達が言ってたことが印象的で。給付型奨学金を広く使えるようになったらいいな。』
村井さん『制度をつくって、新しいあきらめを生んでしまったら意味がないですよね。色々と議論や制度設計などありますが、徐々にでも子どもたちが実感の持てるものにしていくことができれば。』
まなか『私も入学時に制度を活用しようとしましたが、対象だったのにケースワーカーに断られてしまいました。主観を押しつけられるのも困るし、役所はきっちりしすぎなところもあると感じています。柔軟な制度や対応が必要だと考えています。』
他にも登壇者からさまざまな意見が交わされ、あっという間の1時間が経ちました。
想いを代弁。みんなと同じ日常を送るためにどれだけの神経をつかっているか
最後の提言では、大学3年生の今井さんが登壇。彼女は、あすのばの給付金を届けた子どもと保護者約1000人のアンケート自由記述欄に向き合い続け、想いを代弁する文を作成してきました。
『給付金を支給していただき、ありがたい気持ちと対象になるという現実の厳しさにも触れました。何とか子どもの進みたい進路に「いいよ!」と言ってあげられるように気を引き締めて生活し、いざとなれば頭を下げて回る覚悟をしています。
親のプライドで子どもには最低限、困らないように食べさせ、着せ、学校にも通わせてきたので、子ども自身は深く、真剣に現状はわかってないかもしれません。私自身も口に出してしまうと心までくずれ落ちそうです』
『給付金をいただいて、新生活にむけての順調な計画を立てて動くことができました。ありがと ございます。ただ新生活が始まってから貯金はいくらかしていたのですが、やはり助けてくれる人がいないことからの精神的、金銭的な不安はたくさんあります。頑張って就労している人は僕を含む新社会人の中にはたくさんいると思うので、もっと制度がしっかりしたら良いなと思います』
今井さんは、子どもや家庭の声を紹介しながら「子どもたちは日常生活の中で、何らかのサインを出しているはずです。もちろん、なんてことないふりを完璧にできる子もいると思いますが、みんなと同じ日常を送るためにどれだけ神経をつかっていることでしょうか。少しでも寄り添える人が増えることを願っています。」と伝えました。
広く社会に呼びかけて、これからも理解の輪を広げていきたい
全国集会終了後、学生たちは新宿駅に向かいました。給付金への協力を呼びかける街頭募金をするためです。この街頭募金には、お金を集めるだけでなく子どもの貧困について理解してくれる人を増やしたい願いもあります。
2年前、はじめてこの街頭募金を企画した大学2年生の工藤さんは『今まで、募金だけじゃなく差し入れまでくれる人もいました。私たちのことをそこまで知らないのに、わざわざ。今日も街頭に立って、子どもの貧困に関心のある人が増えた気がして、ここ2年でだいぶ変わってきたと思います。』と話します。
全国集会とともに、今回の街頭募金を企画した高原さんの声を紹介します。
「集会やSNSだと限られた人にしか情報が届かないけど、街頭だと色んな人に情報や想いを届けることができると思って今回は企画しました。集会に登壇した人だけでなく、街頭に立ったみんなの想いを呼びかけることができました。
今日、私が街頭で伝えたかったことは、入学・新生活って嬉しいというのか、期待が大きい方が良いと思っていて、それでも、何かが足りないことで子どもたちは不安になってしまうことです。私は母子家庭で不自由なく暮らしているように感じても、働き詰めの母親がいました。母親が辞めたいって話していても、辞めさせてあげられない自分がいて。
そういった気持ちを理解してくれる人がいてくれるだけでも違うと思います。お金やモノだけでなく、理解者が必要です。募金だけじゃなくて、子どもたちが困っていることや、応援してくれている人のメッセージも集めて、理解の輪が広がることを願っています。』
彼ら彼女らの声に、私たちはどのように応えていくか。今回の教育無償化の議論も、どのような方向にすすんでも子どもたちを裏切らない、温かい社会からのメッセージとして子どもたちに届く日のことを夢見ています。