道新 08/20
2014年以来、毎年8月にジュネーブ軍縮会議で核兵器廃絶を世界に訴えてきた日本の高校生平和大使の演説が、今年は見送られた。道内の高校生平和大使経験者や被爆者からは「被爆国の若者がスピーチする数少ない機会なのに」と失望や不満の声が上がる。
道内の2人を含む22人の高校生平和大使が21~22日にジュネーブの国連欧州本部などを訪れ、22日に軍縮会議を傍聴する予定だが、過去3年連続で行われた演説の予定はない。ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部は「今年は軍縮会議の議事上、適当でないと判断した」と説明。関係者は「日本政府が署名しないと明言した核兵器禁止条約について演説で言及されることを懸念したのでは」と指摘する。
「非常にショック」と明治大1年の下町舞さん(18)は言う。立命館慶祥高(江別市)3年だった昨年、平和大使に参加。軍縮会議では長崎県の平和大使が代表で演説し、「核兵器のない世界への、皆の思いを語ってくれた」と振り返る。
軍縮会議後には日本政府代表部を訪れ、核廃絶の思いを訴えた。だが帰国直後に流れたのは、日本政府が核兵器禁止条約の交渉開始を決める採決を棄権したとのニュース。「私たちが訴えた意味は何だったの」と苦しんだ。「早く、核抑止力という発想から脱してほしい」と下町さん。「今年の大使は演説以外でも思いを伝えられるよう頑張ってほしい」とエールを送る。
下町さんと一緒に平和大使としてジュネーブを訪れた札幌光星高2年の和泉砂絵さん(17)も「高校生が国際的な場で、核廃絶について発言できる機会はなかなかない」と悔しがる。今も核廃絶を求める署名活動を続けているが、若者の関心は低い。「国内の若者に関心を持ってもらうためにも、大切な場だったのに」
長崎市の田上富久市長は9日の平和宣言で、同条約に参加しない政府の姿勢を「到底理解できない」と厳しく批判した。広島で被爆した北海道被爆者協会会長の真田保さん(79)=室蘭市=は「政府は弱腰な姿勢を注目されたくなかったんじゃないか」と指摘。「被爆者は高齢化し、若者の訴えは非常に重要だ。その機会が政治的背景で奪われるべきではない」と話した。