
記憶を移植する日
静かな研究室の片隅で、今川博士は微細な生体チップを顕微鏡で覗き込んでいた。そこには人間の記憶という貴重な情報が詰め込まれている。彼が開発した「メモリー・トランスプラント」と呼ばれる革新的な技術は、人類の未来を大きく変えようとしていた。
「これで本当にいいのだろうか」と、彼は幾度となく自問自答を繰り返していた。
人間の記憶を、まるでコンピューターのデータのように保存し、他者の脳に移植することができる。その技術は、重度の認知症患者の記憶を取り戻すことを可能にし、また事故で失われた知識や経験を復元することもできる。しかし、それは同時に人間の本質に深く関わる問題も含んでいた。
研究室の窓から差し込む夕陽が、チップの表面で揺らめいていた。
続く その2へ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます