読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

子どもはもちろん、大人にも役に立つ知識と情報が満載の『本屋さんのすべてがわかる本』全4巻(後半)

2014-04-16 23:15:32 | 書店と出版業界のお噂

『本屋さんのすべてがわかる本』
3「見てみよう!本屋さんの仕事」
4「もっと知りたい!本屋さんの秘密」
秋田喜代美・監修、稲葉茂勝・文、ミネルヴァ書房、2014年

主に子どもたちに向けて、本屋の歴史や活用のしかたなどを解説した全4巻のシリーズ『本屋さんのすべてがわかる本』。
世界や日本の本屋の歴史や概説などが、興味深い写真とともに記された前半2冊に続き、後半の2冊は本屋の仕事や活用法が詳しく具体的に解説されていきます。

第3巻は「見てみよう!本屋さんの仕事」。前半ではまず、本屋の店内でどのように雑誌や書籍が分類され、陳列されているのかが、実際の書店の店内風景とともに解説されていきます。
本の陳列法のところでは、「平積み」「面出し」「たな差し」のそれぞれにどのような意味と効果があるのかが説明されます。またディスプレイのところでは、ビニールハウスをイメージした飾りつけがなされた「農業・園芸書フェア」などのユニークな工夫も紹介されています。
現在の本屋の店頭ではすっかりお馴染みとなっているのが、本の内容のポイントやキャッチコピーを記したPOP(ポップ)。POPについて取り上げているページでは、2001年に『白い犬とワルツを』(テリー・ケイ著、新潮文庫)が書店員による手書きPOPがきっかけとなってベストセラーとなり、そのことで書店員の手書きPOPが広がっていったことが紹介されています。
さらに、東京都町田市で開かれた、地元中学校の生徒たちが自分の好きな小説を手書きのPOPで紹介するというフェアのことも取り上げられています。若い世代に読書に興味を持ってもらうべく、地元の本屋と協力してPOPづくりを行っている学校は、全国的に増えているのだとか。こういうのはなかなか、面白い試みだなあと思いますね。
本屋に並んでいる本や雑誌は、もちろんそれら自体が情報なのですが、陳列やディスプレイにもさまざまな情報が含まれています。それを踏まえて本屋の店頭を見れば、さらに世の中についての幅広い情報を得ることができる、ということが、解説を読んでいくことで理解されていくことでしょう。

後半は、開店前の荷開け作業からバックヤードでの仕事まで、本屋の仕事がけっこう具体的に紹介されていきます。
ちょっと驚かされたのは、本につけるブックカバーの折りかたや、付録を挟み込んだ雑誌を紐でしばる方法が、写真や図とともに順を追って説明されていたことでした。また、本の裏表紙に記されているISBNコードが、本屋の仕事においてどのように活用されているのかについても、かなり詳細に解説されています。
もし本屋で働きたいという方がいたら、迷わずこれを読むように勧めたくなるくらい、第3巻は本屋の仕事が具体的、かつわかりやすくまとめられた巻となっておりました。

このシリーズの大きなコンセプトは、本屋を読書推進のみならず、キャリア教育や国際理解教育、メディアリテラシーなどにも活用していこうという点にあります。最終巻となる第4巻「もっと知りたい!本屋さんの秘密」は、それらのコンセプトをよりしっかりと伝えていきます。
新聞・テレビの情報と本の情報との違いについて述べたページでは、「フロー型」(毎日あらたに伝えられてすぐに消えていく)の情報である新聞やテレビに対し、本の情報は「ストック型」(保存して、いつでも参照できる)であるという説明がなされます。
速報性では新聞やテレビ、ネットには劣るものの、じっくりと参照できる本だからこそ、社会の仕組みや世界のこと、メディアリテラシーなどについて、しっかりと考え、理解することができるというわけなのです。
キャリア教育についてのページでは、愛知県岡崎市の中学生による職場体験のようすが詳しく紹介されます。本の補充やお客さんへの対応、子どもたちへの絵本の読み聞かせなどを体験した中学生たちは、「本の移動など、お客さんの迷惑にならないように仕事をすることのたいせつさがわかった」などの感想をもったとか。

後半では、全国各地のユニークで個性的な本屋さんが20軒ほど紹介されます。
屋上に観覧車がある「宮脇書店総本店」(香川県)や、まるで絵本に出てくるような洋館の中にある「こどもの本の店・童話館」(長崎県)、鉄道の本はなんでも揃うという「書泉グランデ」(東京都)などなど、どの本屋さんも面白そうです。やはり、本屋というのは一様ではなく、それぞれに面白さを持った存在なんだなあということを、あらためて感じさせられました。
「本でまちづくりをする本屋さん」というページでは、小さいながらも独自の視点の棚づくりで定評のある、東京都文京区の「往来堂書店」と、東日本大震災による津波で本屋がなくなってしまった岩手県大槌町で、本屋経験がないご夫婦により開業された「一頁堂書店」が紹介されています。

ネットや電子書籍が台頭する中で、しきりに退潮がささやかれている本屋という業界ですが、その役割と意義はまだまだ健在であることを、このシリーズはしっかりと伝えてくれています。
実のところ、社会の仕組みや国際情勢をじっくりと理解したり、メディアリテラシーで情報を読み解き、その真偽を判断するということは、ネットの海を泳いでいく上でもとても必要なことであったりします。それらを身につけるためにも、本を読むことの重要性というものはいまだ有効なのだと思うのです。
そのためにも、どうかこのシリーズを道しるべにしながら、本屋を使い倒していただけたら、と願います。
わたくしたち本屋の人間(といっても、わたくしの勤務先は店舗のない外商専業のところなのですが)も、皆さまのよき情報源となれるように頑張っていかないとな。

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