読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

これも雑誌だ! ~マイナー雑誌大探検~ 第2回 『舗装』の巻

2014-01-26 17:10:42 | 雑誌のお噂

『舗装』
発行=建設図書 B5版 月刊 定価861円(ブログ掲載時)


毎年年度末あたりになると、あちこちの道路で工事が始まる。まあ、それぞれが必要な工事であろうことはひとまず理解するものの、なんでこうわざわざあちらこちらで一斉にやらなきゃならんのか、といつも疑問に思う。
クルマでの外回りを仕事にしている身としては、特に忙しいときにそこここで出くわす、工事にともなう交通規制による時間のロスはアタマの痛いところであり、これからまたそういう時期を迎えるのかあと思うと、ちとユーウツになってくるのである。
とはいえ、暑い日であれ寒い日であれ、交通規制による渋滞に苛立つドライバーからの「ったくこっちが急いでるというのにこんなコージなんぞやりおって。こんなのに税金使うくらいならもう税金なんて払ってやんないからなブツブツブツブツ」という憎悪のこもったマナザシに晒されつつ、せっせと仕事に励む工事関係の人たちには、ひたすらアタマの下がる思いがするのである。
そんな道路工事に携わる人たちの必読誌といえる雑誌(たぶん)なのが、今回紹介する『舗装』という月刊誌である。前回(つっても昨年の2月末、ほぼ1年近く前のハナシなのだが•••)取り上げた『月刊公民館』同様、何をテーマにした雑誌なのかが一目瞭然、まず絶対間違えようがないという、シンプルにして力強い誌名が実にいいではないか。

手元にあるのは2013年12月号。その巻頭言ともいえる「舗装考」のページに掲載されているエッセイのタイトルは、なんと「過度な自動車依存からの脱却」という、一見舗装を専門としている雑誌とは思えないような意外なもの。
鹿島道路の執行役員でもあるという筆者の方は、近年日本の大都市圏で自転車と歩行者との事故が多発していることや、ヨーロッパでは自転車や歩行者にも配慮した道路づくりがなされていることに言及。その上で「東京やその周辺の都市では、自動車の利用が不便になるようにすればよい」と主張するのだ。そのことで空気がきれいになり、皆が体を動かすことで医療費の負担が抑えられ、自分の街の魅力も再認識できる、と。
もちろん、自動車文化を否定するものではない、という前提はあるものの、道路にかかわる企業人がこのような問題意識をきちんと持っている、ということに、なんだかすごく唸らされるものがあり、個人的には拍手パチパチものであった。

この12月号の特集は「質疑応答特集」。創刊号より半世紀近く継続しているという恒例の企画だそうで、舗装技術に関する読者からの質問にQ&A方式で答えていくものだ。
空港舗装と一般道路舗装の構造設計の違いや、アスファルトの種類や使い方、施工における注意点などについての質疑応答が並んでいるのだが、これらの多くは「弾性係数」や「マーシャル安定度」、「ポーラアスファルト舗装」などなどの用語も頻出するかなり専門性の高い内容ばかり(専門誌なのだから当たり前なのだが)。ズブズブズブのもひとつズブの素人であるオレの貧弱アタマではなかなか理解できない項目が多く、中には読みこなすことすら困難な項目もあった。
その中でもちょっと興味を惹かれたのは、最近各種の道路資材で取り入れられているという「再帰性反射」という反射のメカニズムについての項目だった。光が入ってきた方向とは違う方向に反射する通常の反射とは異なり、入ってきた方向と同じ方向へ光が反射していくというのが「再帰性反射」。このメカニズムを活かして、ドライバーへの注意喚起を目的とした道路標識や路面表示、ガードレールなどに再帰性反射材が使用されているんだとか。
また、居眠り運転や脇見運転などによる車線逸脱への抑制効果がある工法は?という質問には、「ランブルストリップス」という工法が紹介されている。路面に凹状の溝を刻みつけるというこの工法、冬期の正面衝突事故が多い北海道から施工が始まり、施工された路線における正面衝突事故が約54%、それによる死亡者も68%減少したとか。しかも材料が不要などのメリットにより費用対効果も高いそうで、近年急速に普及しているそうだ。
公共インフラの老朽化を踏まえ、舗装の維持や修繕についても、いろいろと関心が向けられているようであった。質疑応答とは別のページであったが、舗装内部の空洞などを探査するための、電磁波レーダや赤外線サーモグラフィについての解説記事もあった。

2002年から約10年間にわたって実施されたという、日本の舗装技術をモンゴルの生活道路整備に移転する事業についての報告もなかなか興味深かった。近年経済発展が著しいモンゴルも、地方の生活道路はまだまだ土ばかりのものが多いとのことで、日本からの技術移転とその現地での基準化の意義は大きいようだ。しかも、現場に従事する作業員には地元の失業者を雇用する、という仕組みにも、戦後の日本における失業対策が活かされているんだとか。ふーん、そうだったのかあ。

広告ページはけっこう多めで、舗装用資材をはじめ、寒冷地での凍結抑制舗装、路面を探査するための測定システムや点検用のハンマーなんてものの広告もあったりした。
雑誌の発行元である建設図書の出版物の広告もいくつかあった。中でもちょっと興味をそそられたのは、全3巻の『漫画で学ぶ舗装工学』シリーズ。舗装の歴史から基礎、舗装の種類などを、「すべての人に分かるよう、易しく解説」したものだそうな。これなら、オレにでも舗装の基礎から勉強できそうである。が、やはり専門的な内容からなのか、定価が約3~4000円近くするのであるが•••。

「読者の声」という、読者からの投書を載せるページもちゃんとあった。そこに、建設会社勤務という方からの投書が出ていた。それにはこうあった。

「私の周りでは、道路工事や土木の仕事というと、『年度末に同じ道路を掘り返している』とか、『税金を無駄に使っている』といった言葉がよく聞こえてきます。特に、土木業界にかかわりが薄い人たちがそのようなイメージを持っているように見えますが、ほとんどが新聞などの見出しをそのまま口にしているだけに思えてしまいます。専門分野だからなのか、一般の社会資本ユーザーとのギャップを感じてしまいます。」

うーむ。外回りであちこち走り回ったりしている身としては、年度末の道路工事の多さは必ずしも「新聞などの見出し」を口にするだけではない実感があるのだが•••。とはいえ、現場で頑張っている中で、自分のやっていることと一般人とのギャップに悩んでいる人がいるのだなあ、ということには、ちょっと考えさせられるものがあった。
一般的なイメージだけではつかみきれない、それぞれの世界で生きる人たちの考えや思いに触れることがあるのも、専門誌をはじめとしたマイナー雑誌の良さ、ではないかと思う。

まあ、ズブズブズブのもひとつズブの素人にとってはいささか難しいところもあった『舗装』であったが、舗装技術が高度な理論や計算のもとに成り立っていて、その技術や工法の革新にも目覚ましいものがある、ということは、おぼろげながらわかったような気がした。
これで、年度末の道路工事に出くわしてもイライラすることが減る、かなあ。

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