『2016年4月 熊本地震の現場から あのとき、そこに きみがいた。』
やじま ますみ著、ポプラ社(ポプラ社の絵本)、2018年
2度にわたる震度7の激震をもたらした熊本地震。今月、あれからちょうど2年となりましたが、いまもなお少なくない数の方々が仮設住宅での暮らしを余儀なくされています。完全な形での復興と生活再建には、まだもう少し時間がかかりそうです。
広告代理店での勤務を経てフリーとなった、イラストレーターのやじま ますみ(矢島眞澄)さんは、妻の故郷である熊本市に転居して、わずか18日後に地震に見舞われることになりました。やじまさんが、地震発生から10日間にわたって実際に目にしたことを、絵本というかたちでまとめたのが、本書『あのとき、そこに きみがいた。』です。
2016年4月16日の午前1時25分。2日前の14日に続いて2度目となる震度7の激震が、真夜中の熊本を襲いました(のちにこれが「本震」とされることになります)。そのときのようすを、本書はこのように記します。
「地鳴りとともにおおきなゆれ。
すべてがはげしく
たてによこにゆれる。
妻とふたり、犬と猫。
真夜中の街へころげるようにとびだす。
市電の停留所に人びとがあつまってくる。
地震でまきあがったほこりのせいか
空気は粉っぽく
すべてが黄土色にかすんでいる。」
やじまさんとその家族は小学校に避難します。集まってきた多くの人びとは、くりかえし襲ってくる地鳴りと余震のなかで、不安と疲労にさいなまれます。
あたりまえの暮らしを奪われ、絶望にうちひしがれていた避難者たちのもとに駆けつけたのは、揃いの黄色いビブを身につけたボランティアの中学生たちでした。彼らは明るく元気なふるまいで、食事や水を運ぶなどして活躍します。そんな彼らの姿は、避難した人びとに希望を与えました。
しかし、元気いっぱいの中学生たちもまた、被災した当事者のひとり。「ゆううつなきもちといかり」を抱いていた彼らは、こんなことばで自分を励ましていました。
「地震でつらいのは、気のせい!!」
それは、彼ら自身を支えることばであるとともに、「自分と被災者をつなぐ応援のことば」「明日をみつける勇気のことば」ともなったのでした・・・。
こまかく描き込まれた絵と、一貫して現在形で記された文章は臨場感にあふれていて、あのとき熊本の人びとが体験した不安と絶望、そしてその先に見いだした希望が、読んでいるわたしにリアルに伝わってきました。
自らも被災しながら、避難してきた人びとを助け、希望を与えた中学生たち。それは熊本の人たちが持っているであろう、困難に負けない前向きさと、他者への優しさの象徴なのではないかと、わたしには思われました。
本書の帯には、地震発生直後からさまざまなかたちで復興支援に取り組んでおられる熊本出身の俳優、高良健吾さんのことばが記されています。
「きいろいビブ」の想いは今も胸にある。
色褪せることなく熊本にある。
「きいろいビブ」の想いが生き続ける熊本であれば、その未来はきっと明るさに満ちたものになると、わたしは信じます。
完全なかたちでの復興と生活再建はまだ先になりそうだとはいえ、熊本は一歩一歩、着実に前へと進んでいるようです。
きょう4月28日、熊本城の大天守に据えつけられていたしゃちほこが復活しました。地震で落下したしゃちほこでしたが、今月7日に1体設置され、きょうの午後にもう1体の設置が完了したことで、2年ぶりに2体のしゃちほこが揃うことになったのです。ゴールデンウィークのあいだ、それを記念してイベントが開催されるのだとか。
わたくしごとですが、5月の連休後半、2年ぶりに熊本へ出かけます。熊本の素敵な風景と人びととの再会、そして復活した熊本城のしゃちほこを目にするのを楽しみにしております。
【関連オススメ本】
『ひさいめし 〜熊本より〜』
ウオズミアミ著、マッグガーデン、2016年
熊本在住の漫画家・ウオズミアミさんが、熊本地震後の「食」にまつわる体験をコミックエッセイとしてまとめた一冊。平穏な日常以上に重く、大きな意味を持つことになった「食」のエピソードひとつひとつが気持ちに沁みてきます。当ブログの紹介記事はこちら。
『素顔の動物園 The real zoological garden』
熊本日日新聞社編著、熊本日日新聞社、2016年
地震により大きな被害を受け、現在も部分的な開園にとどまっている熊本市動植物園の動物たちを紹介した写真集。地震の少し前に地元紙に連載された企画を、地震の直後に一冊にまとめたものです。完全な再開の日が一日でも早くくることを願わずにはいられません。当ブログの紹介記事はこちら。
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