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ETV特集『和僑(わきょう) ~アジアで見つけるボクらの生き方~』を観る

2014-04-06 07:59:26 | ドキュメンタリーのお噂
ETV特集『和僑(わきょう)~アジアで見つけるボクらの生き方~』
初回放送=2014年4月5日(土)午後11時00分~11時59分、NHK Eテレ
語り=堀越将伸
製作=NHK、アジアンコンプレックス


日本を飛び出し、アジアでビジネスを展開している「和僑」と呼ばれる青年たちが増えているといいます。この番組は、成長するアジアの熱気に身を置きながら、現地の人びとに溶け込み、自らの可能性に挑戦し続けている「和僑」たちの姿を追っていきます。

お客から言われるがままのヘアスタイルを仕上げるだけの仕事に疑問を持ち、提案型のヘアスタイリストを目指すべく、カンボジアのプノンペンで開業している美容師の男性。そこで、かつてのポル・ポト独裁政権時代に「長い髪は農業には向かない」と短い髪を強制された反動から、女性たちが皆ロングヘアにしていることに衝撃を受けた男性は、短い髪にプラスの価値を与えようと、あえてショートヘアを提案するのでした。

やはりカンボジアのシェムリアップで、土産物のお菓子を製造する会社を経営する女性。厳格な時間管理や、日本式の「報・連・相」の徹底を従業員に求めながらも、無料の託児所を設けるなど福利厚生にも力を入れています。働くことで一人一人が自信と居場所を得られるようのするのが、その経営姿勢。それに共鳴して、日本から新卒でやってきて就職したという女性も。

左手の先がないというハンデがありながらも、日本人があまり行かないような国々でプロサッカー選手として活躍し、現在はタイのバンコクでサッカースクールを経営する男性。本業のかたわら、ハンデのある子どもたちに無償でサッカーを教え、子どもたちから慕われていました。

プノンペンで工場を経営するかたわら、スラム地区への支援にも取り組んでいる男性。日本からやってくる学生たちのスタディツアーの受け入れも行なっていて、スラム地区の現実を知ってもらおうと、男性は学生たちをスラム地区や孤児院へと引率するのでした。

「閉塞感」と「平和ボケ」に包まれる日本を飛び出し、「あえて自分にとって一番不安定なところへ」と、プノンペンのIT企業で働く男性。学生時代に農村でのNGO活動に関わった経験を活かし、農村の人たちに就職の選択肢を増やそうと農村の若者たちに英語や日本語、パソコンなどを教えています。そして、その教え子の中から何人かを、自らの働く会社へとリクルートするのでした。

とりわけ、わたくしの印象に残ったのは、タイのバンコクで大阪風居酒屋を3店舗経営する男性の話でありました。
かつては地元の大阪で6店舗の居酒屋を経営していたその男性。気軽にお客に声をかけて会話する親しみやすさから常連客を増やし、面倒見のよい兄貴肌で従業員たちからも慕われていました。
しかし、居酒屋激戦区に出店したことから、低価格と過剰なサービスを争う消耗戦に巻き込まれることになり、男性の姿勢は変わっていきました。ひたすら細かいことをチェックしては口うるさく改善を要求する姿勢に、兄貴肌を慕っていた従業員は次々と去っていきました。
限界を感じて店舗を畳み、タイへとやってきた男性は、タイの人びとの明朗快活さに惹かれ、この地でもう一度やり直すことを決意。手持ちの資金をすべてつぎ込んでバンコクに居酒屋を開業したのです。
かつての失敗を活かし、従業員への過剰な指示は排して、共に楽しみながら働くという姿勢で臨んでいる男性。来店したすべてのお客さんとの気さくな会話にも力を入れ、現地の人びとの気持ちもしっかりと摑んでいるようでした。
タイに永住しようと思っているという男性は、こう語りました。
「日本の飲食業界は、原点からズレてきていると思う」

飲食業界に限らず、あらゆる方面が「原点からズレて」いるように思える昨今の日本。そんな中で、この番組に登場した「和僑」たちは、働くということ、そして生きるということの「原点」を、それぞれの形で模索し、実践しているように見えました。
そして、観ていてしみじみと感じたのが、生きる場所を一つの場所だけに限ってしまう必要はないのではないか、ということでした。
もちろん、外の世界に飛び出したからといって、必ずしもうまくいくとは限りません。でも、一つの凝り固まった価値観に浸りきりながら、いま生きている限られた場所、狭い世界の中で行き詰まって悶々とするくらいなら、外の世界(それは何も海外に限ったことでもありませんが)に飛び出していくという選択肢があってもいい、と思えたのです。
自分自身のこれからの生き方についても、考えるためのヒントを与えてくれたドキュメントでありました。

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