『まっくろ』
高崎卓馬・作、黒井健・絵、講談社(講談社の創作絵本)、2021年
図工の時間。クラスのみんなが普通の絵を描く中で、一心不乱に画用紙全体を黒く塗りつぶしている男の子が。戸惑い、心配する周囲の大人たちをよそに、男の子は来る日も来る日も「まっくろ」な絵を描き続ける。やがてそれらが集められたとき、見えてきたのは・・・。
公共広告機構(現・ACジャパン)創立30周年CMとして製作され、2001年から翌年にかけて放映されるや大反響を呼び、内外から高く評価された秀作「IMAGINATION/WHALE」を、CMを手がけたクリエイティブ・ディレクターである高崎卓馬さんご自身が絵本化したものです。
(元となったCM自体も素晴らしい作品ですので、ぜひこちらでご覧になってみてください。→ https://youtu.be/SNv4hBbu8K4 )
絵を手がけたのは、数多くの絵本で人気のある黒井健さん。CMにおけるインパクトある表現とは異なった、どこか静謐なトーンで描かれた絵が魅力的です。
そして、子どもの想像力が世界を豊かなものにする、ということを示してくれる、 CMとはちょっと違うラストには、なんだか目頭と胸が熱くなってきました。
CMを見たときと同様に、この『まっくろ』を読んでいるときにも、わたしは主人公の男の子に激しく感情移入しておりました。子どものときから、他者に意思や感情を伝えるのがあまり得意ではなかったわたしも、自分の考えや思いが誰にも理解されないまま、もどかしさと孤独感を覚えたことが、もう何度も何度もありましたから。
しかし、それとともにある種の罪悪感のような思いも湧いてまいりました。大人の貧弱な想像力ではとてもかなわないほど、スケールの大きな想像力と豊かな個性を持っている子どもたち。なのに、それを理解できないまま(あるいはハナから理解しようともせずに)自分たちの狭い視野の考え方や常識を押しつけては、知らず知らずのうちに子どもたちの想像力と個性を押しつぶしてしまっているのではないか・・・と。
「自分の思いを好きなように出していっていいんだよ」と、子どもたちの背中を押してくれるとともに、その子どもたちのスケールの大きな想像力と豊かな個性を尊重し、それらをのびのびと伸ばしていくことの大切さを、わたしたち大人の心にも訴えかけてくる、力のある絵本です。