読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

別府・オトナの遠足2015 (第1回) 別府の酒場での愉快な出会いに心もポカポカ

2015-01-18 20:29:51 | 旅のお噂
生ぬるい南国住まいの身ではありますが、この冬の寒さは例年よりも身に染みるように感じられますね。冬になる前には「この冬は暖冬になる」なんて言っていた向きもあったように記憶するのですが、アレは一体なんだったのでありましょうか。
まあ、「ナントカは風邪ひかない」とのコトバ通り、わたくしのほうは寒い日々にあっても割と元気に過ごさせてもらっておりますが、こういう時期だからこそ、じっくり温泉に浸かってカラダを温めたいところであります。さらに、美味しい食べものとお酒を頂いて、ココロもポカポカに温まりたいのであります。
というわけで、10日から12日にかけて「おんせん県」こと大分県の別府市に出かけてまいりました。これから何回かにわたって、その旅のご報告をしていくことにいたします。

といいましても、別府にはおととし、昨年にも出かけているのでありまして、それらのお噂を綴った当ブログの記事をお読みになってくださっている方からは「えー、また別府なのー?」という、いささかケーベツを含んだ声が聞こえてきそうであります。いやはや、恐縮なことでございます。
ですがね、イイワケするわけでもないのですが(いえ、やはりリッパなイイワケなのでありますが•••)、別府というところは一度その魅力にハマると二度、三度•••と何度でも訪ねたくなってくるような場所なのであります。
それに、これまでの別府行きは1泊2日という、いささか時間的な余裕に欠ける中での旅でありました。もちろん、それでもいい思い出をつくることはできたのですが、やはり別府に行くのであれば、もっと時間をかけてゆっくりと過ごしてみたい、という気持ちが強くなってもいたのです。
幸いなことに、この1月に2泊3日での旅ができるメドがつきました。わたくしは年末年始も出費を抑えて旅費を確保するべく、飲みに行くのもひたすら最小限にしながら過ごしたのでありまして•••いやー、ガマンいたしました。
ですが、ガマンしたぶんだけ、楽しさはより大きくなるというもの。もうひたすら、この時が来るのを心待ちにしていたのでありましたよ。

そして、1月10日。待ちわびていた出発の日がやってまいりました。この日は朝から快晴、絶好の旅日和でありました。
といいましても、この日の午前中はお仕事。まずはそちらをつつがなくこなしたあと、列車の中でいただく弁当と缶ビールをコンビニで買い込み、出発駅へと向かいました。
ウキウキした気分で列車の到着を待っていたわたくしでありましたが、目的の列車が到着するホームが線路を挟んだ向かい側であることに気づき、すんでのところでそちらのホームに移りました。やれやれ、危ないところでした。あまり浮わつき過ぎるのもいけませんなあ。
何はともあれ、目的の大分行き特急列車が時刻通りに到着、無事に乗り込み、出発することができました。ホッと一息ついたわたくしは缶ビールをプチンと開け、外の景色を眺めつつ弁当を食べ始めました。ああ、ついに旅が始まったんだなあ•••というヨロコビが、心身にじわじわと広がるひとときであります。

特急列車でも3時間半くらいはかかる宮崎市から別府市への道のりは、ちょっとばかり長旅という感じです。なので、車窓から見える沿線風景を眺めるのも大きな楽しみでありますね。特に、さんさんと陽光が満ちている海沿いの景色は、大いに目の保養になりました。
ちょっと面白い発見があったのが、途中停車する駅のホームでした。佐伯市、佐伯駅のホームでは、ご当地の名所をあしらった漫画のパネルがいくつか掲示されていました。

なんだかどこかで見たような画風だなあ、と思ったら、かつてのテレビ番組『お笑いマンガ道場』でもおなじみだった富永一朗さんの絵ではありませんか。なんでもお父さまがご当地の出身だそうで、その縁での起用というわけなのでしょうね。
そして、みかんが特産である津久見市の津久見駅のホームにあったベンチは、ちゃんとみかん型をしていたのでありまして•••さすがですなあ。

車内の前方に目をやると、我らが壇蜜さんが「決めなきゃ、ダメ?」などと言っておられます。

•••ええ、今回は大分のほうに決めさせていただきましたが、今度はまた、鹿児島のほうにも出かけてみたいと思っておりますよ、はい。

さあ、ついに別府に到着です!まことに嬉しいことに、別府も雲ひとつない快晴でありました。

別府駅の前に立つ、別府観光の基礎を作り上げた立役者である油屋熊八さんの像も、相変わらずの突拍子もないポーズで出迎えてくださいました。
雲ひとつない快晴とはいえ、吹いている風はやはり冷たかったのでありまして、わたくしは駅前で湯気を上げている足湯ならぬ「手湯」に手を浸し、しばしの暖をとったのでした。
さっそく街歩きといきたいところなのですが、時刻はもう4時になろうという頃。まずは宿泊先のホテルにチェックインしておくことにいたしました。駅のすぐ前にある、素泊まり4000円のビジネスホテル。今回は2泊とも、このホテルのお世話になります。2泊3日とはいえ、予算は潤沢というわけでもございませんので、宿泊代は安く抑えたいということで。まあ、どのみち飲み食いは外でやるわけですし、寝ることさえできりゃそれでいいのでありますよ。
チェックインをすませ、部屋に荷物を置いたあと、ホテルの2階にある大浴場で温泉に浸かることにいたしました。ビジネスホテルとはいえそこは泉都別府、ちゃんと天然温泉なのでありまして、今回の旅における温泉入り初めであります。
湯に浸かる前にカランで体を洗っていたら、そばで5~60代くらいのおとっつぁんが、お仲間と大声でダベりながらシャワーで体を洗っておりました。それはまあいいのですが、シャワーをやたら振り回すもんだから、シャワーから出てくる水、それも冷たいやつが、ちょいちょいこちらの体にかかるのでありまして•••。迷惑なのもさることながら、なんだかいいトシしてみっともないなあと思いましたよ。
あまりのことに、そのおとっつぁんを軽くニラむと、彼はその視線に気づいて「あ•••どーもスミマセン•••」と詫び、あとはおとなしくシャワーを使っておりましたが•••。やれやれ、いいトシしたおとっつぁんが、公衆の場でこういうみっともない振る舞いをなさるようでは、ちょっと困るのでありますよ。
とまあ、いささか気分を損ねはいたしましたが、大きな浴槽にたたえられた温泉にゆっくり浸かると、気分もホッとやわらいで「ああ、別府に来たんだなあ」という感慨が湧いてきたのでありました。

さあ、街に灯がともり始める時間帯になってきました。あらためて気分を直して、ちょっと懐かしい雰囲気が漂う別府の飲み屋街へと繰り出しました。
まずは、駅前の通りから伸びているアーケード街の入り口にある薬屋さんで、肝臓保護のドリンク剤を買って飲みました。「おっ、これから新年会ですか?」とわたくしに話しかけてきたこの薬屋さん、昨年の別府旅のときにも立ち寄ったお店なのですが、さすがにその時のことは覚えてはおられない様子でありました。とはいえ、気さくなお人柄に変わりはないようで、なんだか嬉しくなりました。

別府の飲み屋街は、細かい路地が縦横に交差していて、それらの路地に並ぶお店にも心惹かれるものがあるのですが、ヨソモノにはちょいと難易度が高めという感じもいたします。なので、地元の人たちにも親しまれていて、ヨソモノの一人客でも心置きなくくつろげるような大衆酒場を見つけたいと思っておりました。
実は、昨年の別府旅のときに立ち寄り、いっぺんで惚れ込んだお店がありました。開業から半世紀近く続いていた大衆食堂にして酒場でもあった「うれしや」というお店です。今回の旅でもまずは、このお店でくつろぎたかったのですが、残念なことに昨年の10月に閉店してしまっておりました。
とはいえ、決して客足が落ちての閉店ということではなく、最後の最後まで多くの人たちに惜しまれながらの閉店だったとか。わたくし、まずは「うれしや」の方向へと足を向けました。

昨年立ち寄ったときにも、満員のお客さんで賑わい活気があったお店の戸は固く閉じられ、美味しそうな料理がぎっしり入っていたガラスケースも閉められておりました。もちろん、中から明かりが漏れてくることもありませんでした。ああ、やっぱりもう営業することはないんだなあ•••と、寂しさがこみ上げてきました。
しかし、半世紀近くにわたって、たくさんの観光客、そして地元の皆さんに愛され続けた歴史は、実に立派なものだと思いますよ。本当にお疲れ様でした。そして、良き思い出をつくってくださり、ありがとうございました•••。
わたくしは「うれしや」に向かって一礼すると、提灯とネオンの明かりが輝きはじめた飲み屋街の中心へと足を向けたのでありました。

さあ、「うれしや」に替わるような居心地のいい酒場を見つけなければ、と飲み屋街を歩き回って目星をつけた中の一軒である「居酒屋のん太」に入りました。少し細長い店内は、通路を挟んでカウンター席とテーブル・座敷席に分かれております。カウンターに腰かけてメニューを見ると、割と品数がたくさんあって迷いましたが、まずは大分名物「とり天」で生ビールを飲むことにしました。外側のコロモがカラリと揚がっていて、これはビールによく合いました。

そのあと、「本日のおすすめ」が書かれたホワイトボードから関サバを選んで注文いたしました。関アジとともに高値、もとい、高嶺の花という印象がある関サバですが、ここのはいずれも980円。まだ一度も関サバを食したことのないビンボー人のわたくしにも、手が届くようなお値段でありました。食してみるとなるほど、大衆魚サバのイメージが変わるような品のある味わいでした。これは麦焼酎によく合いましたねえ。

入ったときにはまだ余裕のあった店内は、いつの間にか多くのお客さんで賑わっておりました。その中で一人、ゆっくりとくつろいでいたのですが、同じカウンターでお店の方を相手に温泉談義に興じておられたご夫妻と幾度か目が合い、それをキッカケにご夫妻といろいろお話いたしました。
愛媛県から来られたというそのご夫妻、あちこちの温泉を訪ねて回るのを趣味にしておられるそうで、それもけっこうマニアックなところに行くのがお好きなんだとか。ここ別府でも、あまり観光客が立ち寄らないような、地元の日常に溶け込んだ共同浴場に入ってこられた、とおっしゃいます。
「宮崎の温泉にも何回か行ってるよ~。一度、カーナビに表示されてた温泉に行ってみたらすっごい山の中で、こんなとこに温泉なんてあるのかなー、って心配になっちゃった」と妻君がおっしゃいました。確かにわが宮崎は「山県」と言ってもいいくらい山の多い県なのですが•••うーむ、一体どこにある温泉だったのか、気になりますなあ。
夫君は、「ここ大分と愛媛は同じ海に面しているから獲れる魚には同じものも多いんだけど、愛媛のも新鮮ですごく美味しいよ。良かったら愛媛にも来てくださいよ、接待しますから」とおっしゃり、連絡先を記した紙を渡してくださったのであります。いやー、これはなんだか嬉しいお誘いでございました。まだ四国には一度も行ったことのないわたくしなのですが、考えてみれば大分からは海を跨いですぐの場所だったりいたしますからね。今度の旅先は四国、それも愛媛あたりはいいかもですねえ。
陽気だけれども大人のカッコよさが感じられる夫君と、美人で愛嬌のある(そしてナイスバディな)妻君のお二人、本当に素敵な方々でした。温泉で暖まったあとのご夫妻との出会いは、心の中もポカポカに暖めてくれました。こういう嬉しい出会いもまた、ひとり旅の楽しみなのであります。

「のん太」を出たあと、しばし夜の街を散策いたしました。観光名所としても有名な歴史ある共同浴場「竹瓦温泉」の向かいにある、現存する最古のアーケード街「竹瓦小路」は昼間の光景にも風情を感じる場所なのですが、夜の光景はさらに路地裏風情が増して、実にいいですねえ。

とはいえ、このあたりはフーゾク店が集中しているエリアでもありますので、夜の一人歩きにはちょいと注意が必要だったりもするのですが•••。

夜の街を散策したあと、別府ではお気に入りのお店である本格派バー「ミルクホール」に立ち寄りました。大人がゆっくりじっくりとくつろげる良質の隠れ家的空間と、お酒に対する深い知識とこだわりを持った穏やかな雰囲気のマスターさんが、今回もわたくしを迎えてくださいました。
外が寒かったので、まずはラムとミルクを合わせて温めたホットカクテルで一息ついたあと、オススメというダントハイボールを飲んでみました。マスターさんお気に入りというバーボンウイスキーでつくられたハイボールは、爽快な飲み口の中から鼻腔をくすぐるいい香りが漂ってきて、まことに美味でありました。

この夜は土曜ということで、マスターさんのほかに二人のバーテンダーさんがカウンターに入っておられました。一人は福岡市から来られたという男性で、もう一人は北九州市から来られたという、立命館アジア太平洋大学(APU)の学生さんでありました。
行こうとしていた「うれしや」が閉店したことを話題にすると、福岡市出身のバーテンダーさんはこうおっしゃいました。
「閉店が決まってからは、最後の営業日までずーっと予約で埋まって、イチゲンのお客はとても入れない状態でしたよ。あそこは、別府の人たちにとって特別な場所でしたからね」
ああ、やはりそういうかけがえのない場所だったんですね、あのお店は。そのことは、イチゲンで入っただけだったヨソモノのわたくしにも、それなりに感じ取れるものがありました。あらためて、閉店が惜しまれるところであります。
福岡市出身のバーテンダーさんは、学業のためにやって来た別府があまりにも住み心地が良かったので、そのまま居着いてしまったのだとか。そして、現在学業に励んでいる北九州市出身の男の子のほうも、別府での生活に満足しきっている様子でした。
わかるなあ、その気持ち。豊富な湧出量の温泉に支えられている賑やかな街でありながら、風光明媚な自然の風景にも恵まれているこの街は、幅広い世代を惹きつけてやまない魅力があるように思うのです。
•••オレももう少しトシとったら、別府に移住しようかなあ。

久しぶりとなった別府の夜を満喫したわたくしは、これまた久しく途絶えていた「飲んだあとのシメのラーメン」を解禁し、お腹もココロも大満足となって、宿泊先のホテルへと戻ったのでありました。

(次回につづく)