読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

第20回宮崎映画祭プレイベント みやざき自主映画祭「第4回MIFF ~投げ銭映画祭~」観覧記

2014-06-15 23:20:10 | 映画のお噂
今年で節目となる第20回目を迎える宮崎映画祭(映画祭の公式サイトはこちら)。7月5日の開幕を3週間後に控えたきょう(6月15日)、そのプレイベントとして宮崎県内外の自主製作映画を集めての「みやざき自主映画祭 第4回MIFF ~投げ銭映画祭~」が、宮崎市中心部の商業施設、カリーノ宮崎にて開催されました。


今年で4回目となったこの自主映画祭。これまでは映画祭初日の前日夜に、文字通り「前夜祭」という形で短篇作品の上映をメインとして開催されておりました。今回は映画祭本体の開幕3週間前の日中に、長篇作品の上映やトークショーを交えての、6時間余りというボリュームでの開催となりました。

まず最初の上映作品は、東京藝術大学大学院映像研究科の映画専攻を修了した学生による作品2篇でした。それぞれ114分に75分という、堂々たる長篇作品です。

『バイバイ、マラーノ』 (監督=金允洙、114分)
婚約者が妊娠している最中に、勤めている会社が倒産してしまった青年。そんな現実から逃避するかのように、コンビニに停めてあった車を盗んで当てもなく走らせていく。車中で夜を明かして目を覚ますと、そこはどことも知れない広場。そこには4人の男女が共同生活を送っていた。乗れない自転車の練習に余念がない初老の男。近くに住む老人たち相手に怪しげなセミナーを開いて金を取る中年男。中学生の少女と交際している童貞の若い男。そしてワケありげな商店の女主人。かくて、それぞれ一癖ある4人と青年との、奇妙な共同生活が始まったのだった•••。
『友達』 (監督=遠藤幹大、75分)
映画出演を目指してオーディションを重ねるも、役らしい役を得られないまま時折エキストラをこなすばかりの主人公の男。ある日、先輩の役者から「俳優」としての仕事を紹介されるが、それは客の要望に合わせたシチュエーションを演じることで客に満足を与えるという「フレンドショップ」での勤務であった。男はその店での勤務を続ける中で、テロリスト気取りの女子高生の相手をすることに。最初のうちは、女子高生の突拍子もない言動に距離を置こうとしていた男であったが•••。

いずれの作品も、現代の社会と人間との関わりから覗く断面を、ちょっと変わった物語の中に描き出した作品でありました。ことに『バイバイ、マラーノ』は、独特のユーモアを交えた語り口の面白さと、役者たちのしっかりした演技に目を見張りつつ、大いに楽しませてもらいました。

次に上映されたのは、2009年から福岡県で開催されている「福岡インディペンデント映画祭」で過去に上映された作品の中から選りすぐられた、4本の短篇作品でした。

『FACE TRIP』 (監督=大野祐輝、2分45秒)
監督自身が、約1年間のアジア放浪の中で撮り貯めたセルフショットを連続して繋いでいくことで、自身が変わっていった様子を表現したセルフドキュメンタリー。
『姉と妹』 (監督=田村専一、3分38秒)
「将来の夢」についての作文を書こうと苦心している妹の前で、アイドルになるのが夢だったという姉はちょっとヘンテコなダンスを踊る。それを見ていた妹は•••。
『おっさんスケボー』 (監督=新井健市、4分20秒)
公園でスケボーに興じる若者に、新潟に住む病気の父親のところに行きたいのでスケボーを売れ、と迫るおっさん。舌戦の末スケボーを譲り受けたおっさんは、一路新潟へ向けてスケボーを走らせるのであった•••。
『ひびり』 (監督=新井哲、19分)
ある日突然、自宅へと身を寄せてきた姉を迎える妹。母親の話では、姉は夫から暴力を受けているという。眠っている間に確かめた姉の体は、至るところ傷だらけであった。初めはお互いに距離を感じていた姉妹は、共に暮らす中で少しずつ気持ちを近づけていくのだったが•••。

自身で撮り貯めたセルフショットを、一人でPhotoshopを使いながら仕上げたという『FACE TRIP』は、デジタル時代の映画の一つの形を示したユニークな作品として印象に残りました。『姉と妹』と『おっさんスケボー』は、ひたすら素直に笑えて楽しめました。そして『ひびり』は、20分弱という短い時間の中で、姉妹の心が通いあっていく過程を実にしっかりと捉えていて、心を打つものがあった佳作でした。

最後のパートは、宮崎の市民作家による自主映画2作品でした。

『死んだ女2』 (監督=ギルド#10、30分)
夢の中に出てきた、戦争中に死んだという女の面影を取り憑かれたように追い求める男子学生。後輩の女子学生はそんな彼の態度にイライラさせられながらも、思いを寄せるのであった•••。
『花恋 ~最後のお願い~』 (監督=蛯原達朗、40分)
恋人とのドライブ中に事故に遭い、昏睡状態の若い女性。その命を死の世界へと連れて行こうとする黒天使から彼女を守り、最後の願いを成就させるべく、妹や友人たちの奮闘が始まる•••。

みやざき自主映画祭の常連として、毎年作品を発表しているギルド#10監督の最新作『死んだ女2』は、昨年の『死んだ女』の続篇。宮崎弁での語りとともに、ユーモアを交えながらの語り口にはこなれたものが感じられ、素直に楽しめる出来となっておりました。また、演劇畑の蛯原達朗さんが初めて監督した『花恋』は(メインの出演者も演劇人)、初めてゆえ語り口にいささか未熟な面があったのは否めませんでしたが、それなりに楽しめました。

上映の合間にはトークショーが2つ盛り込まれました。
「自主映画製作者と自主映画について考える集い」と題されたトークショーは、福岡インディペンデント映画祭会長の西谷郁さんと、『花恋』の監督である蛯原達朗さんがゲスト。西谷さんは、自主映画の裾野を拡げていくために、観る人と作り手の双方を育てることの必要性を語りました。また蛯原さんは、初めての監督経験で知ることになった、演劇とはまた違った映画づくりの大変さを振り返りました。
一方で、地元宮崎からの自主映画作品の応募がほとんどない、という現状にも話は及びました。自主映画に取り組む人の数自体が少ないからなのか、はたまた潜在的な作り手はいるものの、発掘がなされていないということなのか。
映画というものの形が変化していく中で、宮崎の映画文化、ひいては映画界全体の裾野を拡げていくための取り組みが、これからどのようになされていくべきのか。わたくしも注目していきたいと思います。

もう一つのトークショーは、宮崎映画祭20年の歴史を、記録写真とともに振り返っていくというものでした。
第1回の永瀬正敏さんを筆頭に、余貴美子さん、相米慎二監督、豊川悦司さん、押井守監督、香川照之さん、黒木和雄監督、宮崎あおいさん、原恵一監督、富野由悠季監督などなどといった、錚々たる顔ぶれのゲストに彩られた歴史から、出来れば忘れてしまいたいであろう(笑)失敗談まで。いろいろと苦労はあったことと思いますが、よくぞこれだけのことをやってきたもんだよなあ、と感慨が湧きました。
とはいっても、わたくしがこの映画祭に足を運ぶようになったのは、せいぜいここ7~8年程度に過ぎません。それでも、この映画祭がいかに地元に価値ある機会を提供してくれているのか、よく理解しているつもりです。
だからこそ、これからも自分に出来ることで、この映画祭を応援していきたいと、映画祭の歴史を振り返ってあらためて感じた次第であります。

6時間の長丁場でしたが、けっこう楽しませてもらいました。映画祭本体の開催が、より一層待ち遠しくなってきました。