先日、テレビで、万葉集の歌のことを、放映していました。
有名な防人の歌が出て来て、懐かしさで一杯でした。
「父母が頭掻き撫で幸くあれて言いし言葉ぜわすれかねつる」
中学生の頃だったでしょうか、私は、この歌を読んだ時、泣く
のを押さえるのに、精一杯だった様に、記憶しています。
我が子を、最果ての地を守る為の防人として、見送る父母が
愛しい不憫な我が子の頭を掻き撫で(ここで、胸が絞られます)
どうか幸せであります様にと、心を込めて言ってくれた言葉を、
私は決して忘れることができない、と歌っています。
悲しい切ない父母と子供の別れです。
子供の私は、この父と母の気持ちに胸が張り裂けそうになり、
そして、親と別れる子供に、心から同情しました。
防人(さきもり)とは、辺土を守る人、古代、多くは東国から
徴兵されて、筑紫、壱岐、対馬など北九州の守備に当った兵士
です。
生きて再び戻って来られるか、又相見る日があるのか分らない、
そんな時代の別れです。
しかし、頭を掻き撫でて言ってくれたこの父母の優しい言葉は、
いついつまでも、忘れること無く、この子供の心の支えとなり、
生きる力になったはずであることを思い、私は涙を堪えました。
そして、父母の言葉は、その子にとって素晴らしい宝となった
ことを思えば、この子は、ある意味、幸せと思うべきだと感じ、
子供の私は、せめてもの、安堵を得たものでした。
中国からの引揚家族で、貧しい戦後を幼少時代とした私でした
が、親の羽根の下で過ごせた私達は、本当に幸せでした。
それを、感謝しない日は、たった一日としてありませんでした。
多くの戦争犠牲者や、その昔の、多くの戦や、餓えや、飢饉や、
疫病、そして、寒さ、風雨、洪水、多くの犠牲の歴史の上に今
の幸せがあることを知り、子供心に深く深く感謝していました。
もちろん、それは、今でも変わりません。
久し振りに防人の歌を聞き、懐かしさと共に、今の幸せな時代
に生ある自分に、感謝の思いを新たに致しました。