失なわれゆく風景

多摩地区周辺の失われた風景。定点撮影。愚問愚答。

夢で見たことのある温泉街、キツネにばかされたような話

2010年09月26日 | 記憶の中、夢の中
  
  四郎がおどろいて尋ねました。
  「そいじゃきつねが人をだますなんて偽(うそ)かしら」
  紺三郎が熱心に言いました。
  「偽ですとも。けだし最もひどい偽です。だまされたという人はたいていお酒に酔ったり、
  臆病でくるくるしたりした人です。・・・ 

                               宮沢賢治『雪渡り』より
 

 昨年は、9月21日に岩手県花巻市の賢治祭に出かけ、
夜の寒さに震えた話を書きました。
 今年も賢治祭に行ってきました。
今年は用心して防寒具を用意して行きましたが、
例年より暖かだったようで、
寒さに震え防寒着を着るようなことはありませんでした。
 寒さには震えなかったのですが、
前日にちょっと奇妙な体験しました。
 後で状況がわかってみれば実にしょーもないことだったのですが、
その時は「あり得ない。一体どうなっているんだ」という感じでした。
 以下で当日の再現風に写真をならべてみます。
(そのときはもう薄暗かったし写真を撮るほどの余裕もなかったので
 翌日撮った写真を加工したもの含まれています)

 今年は賢治祭の前日に花巻市の台温泉に一泊しました。
 宿には18時前に着く予定で花巻駅から自転車で向かいました。
 花巻駅から花巻温泉までは7.6kmのサイクリングロードがあります。
 台温泉は花巻温泉から台川に沿って約2km上流になります。
 この道は1本なので迷うことはないと思っていたのですが・・・。

<駅前のサイクリングロード起点>

 
実は使っていた地図がずいぶん昔のものだったことが大きな問題だったのでした。

<国土地理院1:50000地形図「花巻」昭和55年発行>

花巻温泉には17時20分ころに着いたので、あと少しと一安心したのです。

花巻温泉を過ぎると途中、岩手医科大学附属花巻温泉病院があります。


さらに進むと台温泉の案内板が出てきます。(このあたりが台温泉のバス停でした)
この案内図を見て、
私の予約した宿は温泉街の比較的奥にあることと、
道がずいぶん曲がっていることなどを確認しました。



<台温泉バス停付近>

案内板をすぎると道が登り坂になります。
温泉街がなかなか出てこないなと思っていると、トンネルになってしまいました。

トンネルを出ると下り坂になって、やっと温泉街が現れました。

このとき、この場所は一度夢で見たことがあるなと感じました。
(私は夢に印象的な場所が出てくると、書き止めておくことがあるので、
帰宅してこの夢の日付を調べてみると、2005年7月23日だった)
私の場合は夢の情景をそれほど写実的に覚えているわけではないです。
ですが、「あ、この場所だ」と思い当たる場所に出くわすことがまれにあります。
そういうときは文字通り「夢が実現した」ような気分です。


話を続けますと、台温泉についたときはもう薄暗く、
温泉街の明かりが印象的に見える時間になっていました。
先ほどの案内図で、宿は進行方向に対して道の左側だったので
左に注意して進みましたが、宿の名前は見あたらず、やがてT字路に出ました。
ここには、もう営業していないと思われるホテルがありました。

「予約先の住所が、このホテルの位置だったらこわいな」などと
『小僧の神様』みたいなことを一瞬思いました。

ともかく、道を時計回りに進んでいると思い込んでいたので、
このT字路でも時計回り、つまり右折しました。
ここを過ぎると温泉街が途絶えてしまい、予約した宿は依然としてみつかりません。
花巻温泉からもう2kmは来ているはずだし、変だなと思い始めると、
先方に温泉病院が見えます。
台温泉にも温泉病院があるのか、と無理矢理思いつつも、
案内板には花巻温泉病院と書かれています。

「え!さっき通ってきた場所にもどった?」といやな予感が・・・。
そんなはずはあるまいと言い聞かせて、先に進むと、
さっき通ったので見覚えのある花巻温泉のホテルの建物が目に入ります。

それでもまだ信じられなくて、とうとう花巻温泉までもどってしまいました。
そこで茫然です。
一本道を真っ直ぐに進んでいるのに何で元の場所に戻ってしまうのか?
キツネにばかされたのかと思いたくなったわけです。
しかしこんなことで茫然として足を止めてしまってはサイクル・ツーリスト失格です。
(あまりに古い地図を使った時点ですでに失格なのですが)
すぐに、逆方向つまり台温泉の方向に引き返しました。
このままぐるぐるまわり続けるのか?などと思いつつ、
さっきの案内図の前に来ました。そこで今度は図をよく見ると、
なんのことはない道路は一本道ではなく環状になっています。
これでやっと状況が理解できました。
さっきの私は温泉街への入口(時計回り)
を見落として反時計回りに道を進み、ぐるっと一周して出発点にもどっていたのでした。

<ここを奥に進んで行けばよかったのでした>
そしてこの出発点を途中のT字路と思い込んで右折し、花巻温泉まで戻っていたのです。
「あり得ない状況」を作り出した原因は、一本道だという思い込みでした。
それに、もう一つ、夕暮れの薄暗さで周囲の状況がよくつかめなかったことです。



<ともかく状況がわかって安心したので写真をとる余裕が・・・ぶれましたが>

 多摩の昔がたりでも、たとえば『落合名所図絵』(峰岸松三著)には
「三角さんぜいの迷い道」(多摩市落合)として、
狐や狸にばかされたように山道でぐるぐる同じ道を回ってしまう話が載っています。
この話では道が三角形ですが、道が一周している点は同じです。
それに昼間はなんでもないが夜では迷うと書かれています。
こんなところが、私の今回の経験と共通しています。
人間は同じような状況で同じように錯覚するのかもしれません。
これでめでたく私も狐にだまされた人間に仲間入りさせてもらいました。

 いや、やっぱりキツネやタヌキは濡れ衣をきせられていますね。
「ばかされる」のではありません。
思い込みと不注意によって自分の頭が勝手に現実を書き変えてしまうのですから。
キツネやタヌキはきっと人間が勝手に混乱している場にたまたま居合わせて、
ちらっと目があったりしただけではないですか。

 以上ちょっと長話してしまいました。

 台温泉でキツネにばかされることはありませんので、
安心してこの情感ある温泉宿を訪れてみて下さい。










10/1 冒頭に引用追加
10/18追記
携帯や情報端末で現在位置や軌跡がわかるような時代になって、
キツネにばかされたなどということはもとより、道に迷うことすら
(山道ではどうかわかりませんが)もう昔話になりつつあるのかもしれません。

逆に言うと、より原始的な状態にたちもどれば
不思議な感覚を体験できるチャンスがつかめるのかもしれません。

 
10/18写真2枚差し替え
10/20写真7枚差し替え

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