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高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』

2013-11-02 10:07:00 | ノンジャンル
 周防正行監督・製作総指揮・構成の'11年作品『ダンシング・チャップリン』をWOWOWライブで見ました。フランスの振付家ローラン・プティ、主演ルイジ・ボニーノのバレエ作品の練習風景と、草刈民代が参加した作品の再構成された舞台を描いたものでした。
 また、ヤン・ヨンヒ監督の'11年作品『愛しきソナ』をWOWOWシネマで見ました。平壌で暮らす姪のソナとの交流を中心に、彼女がポップな文化に示す興味や、平壌に渡った長男が好きなクラッシックを禁止されて鬱病になることなどが描かれ、最後に"06年に監督が『Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』を製作したことで、平壌への渡航が禁止されたことが告げられて、映画は終わります。

 さて、高野秀行さんの'13年作品『謎の独立国家ソマリランド』を読みました。一般にソマリアと呼ばれている地域の西北地域に存在する民主主義国家ソマリランドに関するルポルタージュです。
 ソマリランドの人間は、基本的に「傲慢で、荒っぽい人」人たちです。「弱肉強食」ということばをこれほど実感させる民族は珍しいのです。しかしソマリランドは国家として相当高いレベルに達していました。まず独自の通貨を持っています。これだけで著者が今まで体験したミャンマーの「自称国家」や「国家モドキ」を軽く凌駕しています。しかも住民が当たり前にこれを使用し、インフレ率も年間十パーセントくらいで大したことはありません。治安は著者が体験したかぎりでは素晴らしいものです。首都のハルゲイサは女性や外国人も夜遅くに普通に出歩けます。地方でも治安は乱れていません。銃を持っている人間がどこにもいないのがすごいことです。政府の警官や軍の兵士すらめったに街中で見かけません。大統領がマイノリティから出ているという点も重要です。イサック氏族が8割を占めるのに、三代目の大統領ダヒル・リヤレ・カヒンは、1割に満たない少数派ガダブルシ氏族の出身です。マジョリティの中で意見が割れるため、あえて少数派から大統領を選出し、争いを抑制しているのかもしれませんが、ひじょうに成熟した政治スタンスと言えます。独立国家としての正当性はどうかというと、まず住民は、著者が訊いたかぎりは百パーセントが「独立」を支持しています。1960年の独立を「回復」したわけだし、旧イギリス領時代の国境線を維持しているから、国際社会の暗黙の了解とアフリカ連合に明記された「植民地時代の国境線の変更は許されない」という条件にも引っかかりません。もう一つ、ソマリランド人にとって独立の大義名分は、1988年にバーレ政権によって行われた「大虐殺」です。
 以上、ソマリランドにとってポジティブな面を見てきましたが、ネガティブな部分はどうでしょうか。まず、産業が何もありません。家畜の輸出以外はほぼ皆無です。ちょっとした工場すらありません。国の主な収入源はベルベラ港の関税の税収だといいますが、とても国家予算をまかなえる額とは思えません。産業が何もなく、労働者に給料を支払える組織は政府のみ。でも政府にはカネがない。公務員は管理職でも月給50ドル程度といいます。これではとても暮らしていけません。実は、欧米諸国に住む家族や親族が仕送りし、それで国民は何とか暮らしているのです。
 そして著者はソマリランド以外に、ソマリアの東北部を占める海賊国家プントランドと、戦争の絶えない南部ソマリアにも行って、そこのルポルタージュも書いています。

 ソマリランドではカートという覚醒剤の葉っぱを食べて会話することが一般的で、著者もそれをたしなむようになり、ソマリ化していくところが、いつもの高野さんの著書と同じく楽しめましたし、何しろ500ページを超える分量なので、たっぷりと読むことができました。世界にまだ知られていない平和な民主主義国家ソマリランドを知るうえで、最上の本だと思います。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

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