今日の朝日新聞の朝刊で、モーリン・オハラさんの訃報が報じられていました。ネヴァダ州の核実験により放射線を浴びて早くガンで亡くなったジョン・ウェインを筆頭に、ここに来てついにジョン・フォード組の方々がすべてこの世を去ったことになったようです。
さて、また昨日の続きです。
旅館。ユキ「これから新橋演舞場に行きましょうか。あら、もううちに帰りたいんですか?」「ええ。東京は苦手です。銀座はなおさら刺激が強すぎます。目に見える星は6千万、望遠鏡だと10億。見えない星の方が多いのです」「銀座もそうですわ。目に見えない星こそ、取り上げてほしいですわ。ちょっと理屈っぽくなってしまいましたわね。ところで石川さん、子供はお好き?」「ええ、子供は大好きです」「では、なぜ奥さんをお持ちでないの?」「機会に恵まれなかっただけです」「機会は自分でお作りにならなけりゃ。前に結婚したことがある女はどうお思いになる?」「そういうのは全く気になりません」「本当?」。そこにショウコが来る。ユキ、ショウコと廊下に出る。ショウコ「ハルオちゃんが見えないの」ユキ「すぐ帰るわ。じゃあ、あの人と演舞場に行ってあげて。何を訊かれても知らぬ存ぜぬで通せばいいから」。部屋に戻り、石川に「私の妹のショウコです。演舞場にはこの子がご一緒します」。ユキは部屋を出る。ショウコに微笑みかける石川。恥じらうショウコ。
ユキ家に着き、師匠やその夫に会ったあと、ハルオを探しに出る。救急車の音。太鼓を叩く男に付いていく子供たち。紙芝居。ハルオがボール遊びをしていた公園はすでに無人。ラーメン屋。方々を探し回ってきたユキは帰ってきて、路地で座り込む。占いの結果を伝える師匠。そこへ「川に子供が落ちたらしいぞ!」の声。
夕方。「助かったが、よその子だった」と言った師匠の夫は「警察に届けよう。ユキさんは少し休んだら」とユキに話しかける。そこへ「ハル坊が帰ってきたぞ」の声。ハルオ「魚釣りに行っていたんだ。こんなに釣れたんだよ」。ユキ、ハルオの前にしゃがんで、「一体どこに行っていたの? 随分心配したじゃない」ハルオ「~船に乗せてもらったんだ」「何で一言言っていかないの? ほんとに悪い子ね」とハルオの体を何度もぶつ。ハルオ、泣き出す。師匠「よかったわね」とユキを慰める。ハルオが去ったあと、ユキ涙する。
旅館の部屋。石川、ギリシャ神話の星座の話をしている。星座の名前を聞いて、ショウコ「知りません。存じません」「では北斗七星は?」「それなら知っていますわ」「やっと知っていると言いましたね」「え?」「これまでは知りません、存じませんばかりでしたよ」。2人で笑う。「僕の国へ一緒に行きませんか?」「ええ、連れていってくださいな。でもダメですわ」「なぜ?」「ご迷惑になると思います」「そんなことありません。僕の方こそご迷惑なのではないかと」。ショウコ、窓に腰かけ、「あれでしょ? 北斗七星」「そうですね」。光輝く北斗七星。
戸締りをして部屋に入るユキ。割れたガラスを直してある窓。ハルオ、寝る。ユキ、裁縫。
訪ねてきたシズエとユキは歩きながら話す。「石川は今朝一番で発ったわ。それでね、若い女が上野まで送りに来たらしいわよ」。がっかりするユキ。シズエ「分かんないわね、男って」。ユキ、「夕べ、あまり眠れなかったの」と言ってシズエと別れ、お菓子を取り出して食べながら、川面を見つめる。
部屋で鼻歌を歌うショウコ。帰ってきたユキはプンプンに怒っている。「ショウコちゃん、昨夜どうしたの?」「石川さんが泊まっていけとおっしゃって」「あなたを見損なったわ」「でも泊めていただいただけよ」「信じられると思ってるの?」「石川さんはそんな人じゃない。あんなにいい方をだましてるのが辛くなって何もかもしゃべってしまったの。ごめんなさい」「私に謝ることないわ。石川さんを好きになったんじゃない? いい人ですものね」「近いうちに迎えに来てくれるって」「そう、正直なところ、驚いたわ。まじめに考えてね。私もショウコちゃんが幸せになれれば、うれしいのよ」。ショウコ、泣く。「バカね。今ごろ汽車はどこら辺でしょう」と言って、ユキはタバコを吸う。
建設現場で作業を見るハルオ。隣の大人に「おじちゃん、今何時?」。ユキの住む家。ユキは藤村に「師匠の旦那は藤村(とうそん)の詩集をあなたのものと勘違いしたのよ。商売うまくいってるの? しっかり頼みますよ。私も心を入れ替えて働くわ」藤村「私も子供が来年中学生だ。頑張るよ。ではさよなら」。
路上のハルオ。藤村近づく。「藤村のおじさん?」「坊や、(お小遣いをあげようと、胸ポケットを探り)またな」。
ハルオ「お母ちゃん、行くの?」ユキ「いい子だったら今度の日曜、動物園にね」。2人、指切り。ハルオ、『春が来た』を歌う。ユキが橋を渡り、映画は終わる。
縦の構図の多用、必要最低限のカット割りと的確なショット、カメラの巧みな動き、思い切った省略、素晴らしい演出、真横からのショットなどのハッとするような画面。これらのように『映画』の美点が多く見られました。成瀬監督の知られざる傑作の1つです。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
さて、また昨日の続きです。
旅館。ユキ「これから新橋演舞場に行きましょうか。あら、もううちに帰りたいんですか?」「ええ。東京は苦手です。銀座はなおさら刺激が強すぎます。目に見える星は6千万、望遠鏡だと10億。見えない星の方が多いのです」「銀座もそうですわ。目に見えない星こそ、取り上げてほしいですわ。ちょっと理屈っぽくなってしまいましたわね。ところで石川さん、子供はお好き?」「ええ、子供は大好きです」「では、なぜ奥さんをお持ちでないの?」「機会に恵まれなかっただけです」「機会は自分でお作りにならなけりゃ。前に結婚したことがある女はどうお思いになる?」「そういうのは全く気になりません」「本当?」。そこにショウコが来る。ユキ、ショウコと廊下に出る。ショウコ「ハルオちゃんが見えないの」ユキ「すぐ帰るわ。じゃあ、あの人と演舞場に行ってあげて。何を訊かれても知らぬ存ぜぬで通せばいいから」。部屋に戻り、石川に「私の妹のショウコです。演舞場にはこの子がご一緒します」。ユキは部屋を出る。ショウコに微笑みかける石川。恥じらうショウコ。
ユキ家に着き、師匠やその夫に会ったあと、ハルオを探しに出る。救急車の音。太鼓を叩く男に付いていく子供たち。紙芝居。ハルオがボール遊びをしていた公園はすでに無人。ラーメン屋。方々を探し回ってきたユキは帰ってきて、路地で座り込む。占いの結果を伝える師匠。そこへ「川に子供が落ちたらしいぞ!」の声。
夕方。「助かったが、よその子だった」と言った師匠の夫は「警察に届けよう。ユキさんは少し休んだら」とユキに話しかける。そこへ「ハル坊が帰ってきたぞ」の声。ハルオ「魚釣りに行っていたんだ。こんなに釣れたんだよ」。ユキ、ハルオの前にしゃがんで、「一体どこに行っていたの? 随分心配したじゃない」ハルオ「~船に乗せてもらったんだ」「何で一言言っていかないの? ほんとに悪い子ね」とハルオの体を何度もぶつ。ハルオ、泣き出す。師匠「よかったわね」とユキを慰める。ハルオが去ったあと、ユキ涙する。
旅館の部屋。石川、ギリシャ神話の星座の話をしている。星座の名前を聞いて、ショウコ「知りません。存じません」「では北斗七星は?」「それなら知っていますわ」「やっと知っていると言いましたね」「え?」「これまでは知りません、存じませんばかりでしたよ」。2人で笑う。「僕の国へ一緒に行きませんか?」「ええ、連れていってくださいな。でもダメですわ」「なぜ?」「ご迷惑になると思います」「そんなことありません。僕の方こそご迷惑なのではないかと」。ショウコ、窓に腰かけ、「あれでしょ? 北斗七星」「そうですね」。光輝く北斗七星。
戸締りをして部屋に入るユキ。割れたガラスを直してある窓。ハルオ、寝る。ユキ、裁縫。
訪ねてきたシズエとユキは歩きながら話す。「石川は今朝一番で発ったわ。それでね、若い女が上野まで送りに来たらしいわよ」。がっかりするユキ。シズエ「分かんないわね、男って」。ユキ、「夕べ、あまり眠れなかったの」と言ってシズエと別れ、お菓子を取り出して食べながら、川面を見つめる。
部屋で鼻歌を歌うショウコ。帰ってきたユキはプンプンに怒っている。「ショウコちゃん、昨夜どうしたの?」「石川さんが泊まっていけとおっしゃって」「あなたを見損なったわ」「でも泊めていただいただけよ」「信じられると思ってるの?」「石川さんはそんな人じゃない。あんなにいい方をだましてるのが辛くなって何もかもしゃべってしまったの。ごめんなさい」「私に謝ることないわ。石川さんを好きになったんじゃない? いい人ですものね」「近いうちに迎えに来てくれるって」「そう、正直なところ、驚いたわ。まじめに考えてね。私もショウコちゃんが幸せになれれば、うれしいのよ」。ショウコ、泣く。「バカね。今ごろ汽車はどこら辺でしょう」と言って、ユキはタバコを吸う。
建設現場で作業を見るハルオ。隣の大人に「おじちゃん、今何時?」。ユキの住む家。ユキは藤村に「師匠の旦那は藤村(とうそん)の詩集をあなたのものと勘違いしたのよ。商売うまくいってるの? しっかり頼みますよ。私も心を入れ替えて働くわ」藤村「私も子供が来年中学生だ。頑張るよ。ではさよなら」。
路上のハルオ。藤村近づく。「藤村のおじさん?」「坊や、(お小遣いをあげようと、胸ポケットを探り)またな」。
ハルオ「お母ちゃん、行くの?」ユキ「いい子だったら今度の日曜、動物園にね」。2人、指切り。ハルオ、『春が来た』を歌う。ユキが橋を渡り、映画は終わる。
縦の構図の多用、必要最低限のカット割りと的確なショット、カメラの巧みな動き、思い切った省略、素晴らしい演出、真横からのショットなどのハッとするような画面。これらのように『映画』の美点が多く見られました。成瀬監督の知られざる傑作の1つです。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
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