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松家仁之『沈むフランシス』

2014-02-28 10:14:00 | ノンジャンル
 朝日新聞の特集記事の中で苅部直さんが紹介していた、松家仁之さんの'13年作品『沈むフランシス』を読みました。
 桂子が北海道の安地内村に来て、郵便配達の仕事を始めてから半年ちかくが過ぎていた。その前の東京での会社員時代は、大会社の茶場を扱う部署で働いていて、給料も高く、居心地もよかったが、男と別れて半年が過ぎたころ、その日その日で終わる仕事をしたい、それも以前父と暮らした北海道で、と考えた。やがて桂子は一人暮らしのさわやかな青年・和彦に小包を届けた。2日後の配達でまた会った。するとあさっての日曜日に友だちが夫婦でくるので、よかったらよく聴くCDをもってきてほしいと和彦は言うのだった。
 日曜日、桂子は和彦の家を訪ねた。リビングには大きなスピーカーが据えられている。4人は雑談にふけり、桂子は夫婦がカリフォルニア留学中に知り合ったことを知った。夫妻は先に帰り、桂子は和彦と「音」を聴いた。それは自然界や街頭や様々な場所で聞こえる「音」で、現実の音よりも真に迫って聞こえた。桂子は来週もまた来てほしいと言われた。
 次の日曜日、桂子は和彦に誘われるまま彼の寝室を訪れ、体を重ねようとした時、警告音がなり、和彦は「フランシスだ」と言って、部屋を出た。帰ってきた和彦は、フランシスとは小水力発電のタービンのことで、ここは安地内の電気を発電している発電所で自分が管理人だと言った。そして作ったばかりの電気は純度が高く、美しい音を作るのに最適だとも。タービンに水だけ送るため、水を濾過する施設もあった。フランシスの見学から家に戻ると、和彦と桂子は一緒に食事をし、ホテルのフロントの音を聴いた後、さっきの続きを始め、和彦は避妊せずに中で早々と射精した。
 次の日、桂子は仕事を終えると、和彦の家に行った。玄関から二人は抱き合い、桂子は避妊を拒み、長いセックスの後、絶頂を迎えた。それ以降、桂子は毎週末を和彦の家ですごすようになった。ある日、桂子は局長から結婚する気はないかと聞かれ、いい話があればしたい、と本心から答えた。現在の状態が宙づりにされているように感じていたからだ。
 やがて待望の雪が降ってきて、局長は縁談を持ってきてくれた。和彦の家の前を通ると、和彦以外の車が先程まで停まっていた痕があった。ある日、桂子はベッドの下にマイクがあるのを発見した。マイクは現在は繋がれていないようだった。そのあとしばらく、桂子と和彦はセックスに没頭できなくなった。
 クリスマスの前夜、2人は豪華な夕食を楽しみ、クリスマスにちなんだ音を楽しむと、子供たちの声で桂子のなかにあるものが動き、桂子は和彦にセックスを誰と録音したことがあるのか尋ね、怒り出した和彦を嫌悪した桂子は、ときには過去を振り返るのもいいんじゃない?と冷静に言った。
 和彦と桂子はそれから毎日のように会い、食事をし、セックスした。局長に縁談を断ると、桂子の行動を言いふらしている者がいるらしいと教えてくれた。スタンドの店員からは和彦に別居している妻がいると知らされた。桂子は自分がどう噂されようと構わなかった。和彦には縁談を断った話をした。
 やがて春が来た。桂子は和彦が自分以外に結婚している女性と会っていることを知った。それは和彦の家を最初に訪れた時に会った長谷川夫妻の妻だった。しかし夏になると、その女性の気配はなくなった。桂子は和彦と暮らしたいと強く思うようになり、和彦の離婚を望んだ。そしてある土曜、パトカーがやって来た。橋から飛び込んだ自殺者の遺体の捜索だと言う。警官が言う自殺者の名前が「ハセガワ」と聞こえ、桂子は動転したが、濾過施設で発見された遺体の名前は瀬川だった。それ以来、和彦は桂子を乱暴に扱うようになり、そのあとはきまって不調になり、自分の不遇な親子関係などを語った。そしてしばらくして長谷川夫妻がカリフォルニアに移住し、和彦は離婚調停を始めた。そして台風がやって来た。台風は猛烈な風雨を伴い、川の水位は土嚢を越え、フランシスは川に沈み、安地内は停電した。気落ちする和彦に、桂子は台風が過ぎた後の空の満天の星を見せた。桂子はこの光があるうちは、なにも絶望することはない、と思った。

 私の苦手な“恋愛小説”で、最後の取ってつけたようなハッピーエンドも今一つでした。

 →「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/

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