ベルナルド・ベルトルッチ監督・原案・共同脚本の'72年作品『ラストタンゴ・イン・パリ』をスカパーのBSイマジカで再見しました。妻に自殺された中年男性をマーロン・ブランド、その男とお互い名無しの存在としてアパートの一室でセックスを重ねる若い女性をマリア・シュナイダー、その若い女性の許嫁で映画狂の青年をジャン=ピエール・レオーが演じていて、昼間でも夕方のような画面であるヴィットリオ・ストラーロの撮影と、初期のゴダール作品を想起させる、台詞の合間に流れる音楽の使い方、ジャン=ピエール・レオーの清清しい存在感などが心に残る映画でした。
さて、'08年にリトルモアから刊行された『季刊 真夜中 No.3 2008 Early Winter』に収められた、宮崎誉子さんの短篇『真夜中』を読みました。
同級生の五味由実に、冬休みの間、アパレルの倉庫で入力だけのバイトを一緒にしようと誘われた。携帯で昼休みに一緒に応募しようと言う由実に、昼休みはちょっと用事があると言うと、由実は「大知君、今日は無理なんじゃないかな。‥‥なんとなく不吉な予感がする」と答えた。
それ以来、大知は行方不明になった。大知の行方不明に由実が関係している気がしたので、入力のバイトを一緒にする事に決めた。
昼休み食堂で、由実は「ふふふ、真夜中にわたしとお揃いの体にしてあげるね」と言う。「頼むから食事中に気持ち悪い事、言わないでよね」と言うと、由実は「波野ちゃん、わたしに優しくしないと‥‥後で後悔するよ」と言われ、両手で頬を挟まれた。由実と一緒に帰りたくなかったので、ダッシュで駅まで走った。電車に乗ると携帯が鳴った。届いたメールは由実からで、心底うんざりした。件名は「真夜中」で内容は「死ぬまで一緒だよ」ですぐ削除した。
翌朝目が覚めると寝汗でパジャマがぐっしょり湿っていた。気持ち悪くて、急いでボタンを外すと‥‥由実と同じ位置の膨らみぐあいまでそっくりなホクロができていてゾッとした。ゾッとしていると携帯が鳴り、由実から昨日と同じメールが何度も届いた。
「すみません波野ですけど‥‥ちょっと熱が下がらないので今日は休ませて欲しいのですが」携帯から聞こえる軽い嫌みより膨らんだホクロで頭が一杯だ。
自転車を全速力でこぎ近所の整形外科に向かう。待合室のソファーに座っていると、「ちょっと、あんた病院で足を出して座るなんて何を考えているの?年寄りが躓いたらどう責任とるんだい」と突然、車椅子の老婆に怒鳴られ動揺した。「すっ、すいませんでした」急いで足をひっこめながら泣きたくなる。「次から気をつけな」「はいっ」老婆は振り向きざま、由実と同じ声で言った。「次から命に気をつけな」驚いて声も出せずにいると看護師に呼ばれ、気のせいだと自分に言いきかせ、カーテンを開いて中に入る。「あのっ、ホクロを取ってほしいんですけど」「明日は会議があるから無理だけど、水曜日から金曜日までで都合のいい日ある?」今日は取れない現実に絶望する。「‥‥金曜日にお願いします」「メス使うけど傷は残さないようにするから」‥‥。
この作品では、一人称の単語が巧妙に避けられていること、また「!」や「?」の後、通常であれば1文字分空くところを空けないで書かれていること、場面転換を説明する文を省いていることなどに気づき、これらのことが、ここでの文章の息せき切った感じを醸し出していることが分かりました。この作品は宮崎さんの初めてのホラー小説ですが、大成功を収めていると思います。短篇ですが雑誌を買って読む価値は充分ある作品です。なお、上記以降のあらすじについては、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「宮崎誉子」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。
→「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
さて、'08年にリトルモアから刊行された『季刊 真夜中 No.3 2008 Early Winter』に収められた、宮崎誉子さんの短篇『真夜中』を読みました。
同級生の五味由実に、冬休みの間、アパレルの倉庫で入力だけのバイトを一緒にしようと誘われた。携帯で昼休みに一緒に応募しようと言う由実に、昼休みはちょっと用事があると言うと、由実は「大知君、今日は無理なんじゃないかな。‥‥なんとなく不吉な予感がする」と答えた。
それ以来、大知は行方不明になった。大知の行方不明に由実が関係している気がしたので、入力のバイトを一緒にする事に決めた。
昼休み食堂で、由実は「ふふふ、真夜中にわたしとお揃いの体にしてあげるね」と言う。「頼むから食事中に気持ち悪い事、言わないでよね」と言うと、由実は「波野ちゃん、わたしに優しくしないと‥‥後で後悔するよ」と言われ、両手で頬を挟まれた。由実と一緒に帰りたくなかったので、ダッシュで駅まで走った。電車に乗ると携帯が鳴った。届いたメールは由実からで、心底うんざりした。件名は「真夜中」で内容は「死ぬまで一緒だよ」ですぐ削除した。
翌朝目が覚めると寝汗でパジャマがぐっしょり湿っていた。気持ち悪くて、急いでボタンを外すと‥‥由実と同じ位置の膨らみぐあいまでそっくりなホクロができていてゾッとした。ゾッとしていると携帯が鳴り、由実から昨日と同じメールが何度も届いた。
「すみません波野ですけど‥‥ちょっと熱が下がらないので今日は休ませて欲しいのですが」携帯から聞こえる軽い嫌みより膨らんだホクロで頭が一杯だ。
自転車を全速力でこぎ近所の整形外科に向かう。待合室のソファーに座っていると、「ちょっと、あんた病院で足を出して座るなんて何を考えているの?年寄りが躓いたらどう責任とるんだい」と突然、車椅子の老婆に怒鳴られ動揺した。「すっ、すいませんでした」急いで足をひっこめながら泣きたくなる。「次から気をつけな」「はいっ」老婆は振り向きざま、由実と同じ声で言った。「次から命に気をつけな」驚いて声も出せずにいると看護師に呼ばれ、気のせいだと自分に言いきかせ、カーテンを開いて中に入る。「あのっ、ホクロを取ってほしいんですけど」「明日は会議があるから無理だけど、水曜日から金曜日までで都合のいい日ある?」今日は取れない現実に絶望する。「‥‥金曜日にお願いします」「メス使うけど傷は残さないようにするから」‥‥。
この作品では、一人称の単語が巧妙に避けられていること、また「!」や「?」の後、通常であれば1文字分空くところを空けないで書かれていること、場面転換を説明する文を省いていることなどに気づき、これらのことが、ここでの文章の息せき切った感じを醸し出していることが分かりました。この作品は宮崎さんの初めてのホラー小説ですが、大成功を収めていると思います。短篇ですが雑誌を買って読む価値は充分ある作品です。なお、上記以降のあらすじについては、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「宮崎誉子」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。
→「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます