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チャールズ・チャップリン&D・ロビンソン『小説 ライムライト チャップリンの映画世界』その3

2019-06-15 06:41:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

 その午後、アパートに戻ったカルヴェロは、食料品と花束、そして自分の古いバイオリンを抱えていた。彼のいないあいだに、新しいメイドがテリーの様子を見に来ていたが、テリーは眠っていた。四時にメイドが訪ねて来たときには目を覚ましたが、まだぼんやりしていた。(中略)「ありがとう。もう私は健康よ」「いや、そうでもない。あと1日か2日はここにいたほうがいい」(中略)「でも、本当に、自分の部屋に戻れるくらい良くなったんです」彼は口ごもった。「まあ、残念ながら、それはできないんだよ」「どうして?」「ほかの人が借りてしまったから」「私の部屋を?」「そうオルソップ夫人が言っていた」(中略)「私━━わたし、どちらにしても行きますわ」と彼女はきっぱり言った。「どこに行くんだい?」「友達がいますから……」「本当に?」声を出すことができず、テリーはただ頷いた。彼女の目に涙が溢れてきた。突然、彼女は顔を両手にうずめた。「ああ、どうしようもない」と彼女はすすり泣いた。「どうして死なせてくれなかったの? けりがついたのに。こんな惨めさや苦しさはもうたくさん! 人生に意味なんてないわ!」「もちろん、ないさ。意味を持たせるのは君なんだ」と彼は答えた。(中略)「自分が面白いことはわかってる」と彼は力を込めて言った。「でもマネージャーたちは私が終わったと思っている……過去の男だ、と。畜生! あいつらを見返してやれたら素晴らしいんだけど。(中略)「電報です」。入って来たのはメイドだった。(中略)「信じられない。彼が私に会いたがってる……」「誰が?」「レッドファーン。私のエージェントだよ。」(中略)

 「こんにちは、カルヴェロ。座ってくれ」とレッドファーンは早口で言った。「(中略)君を呼んだのはほかでもない。〈ミドルセックス〉に一週間出演する話を取ってやれそうなんだよ」(中略)「私に役があろうとあるまいと、私がこんなことを許すと思ってるんですか? 雑魚どもと一緒に名を連ねるなんて……彼らに箔をつけてやるために? とんでもない! カルヴェロはまだまだ人を惹きつける名前ですよ!」(中略)オルソップ夫人のアパートに着いたとき、カルヴェロの憂鬱な思いは消えていた。なかに入ろうとすると、ちょうどテリーの診察を終えた医者がドアから出て来た。(中略)「これは心理的麻痺ですな」「(中略)どれくらい続きますか?」とカルヴェロは訊ねた。医者は少し考えてから言った。「放っておくと、一生この状態が続くかもしれません……彼女次第ですね。彼女がよくなりたいと望むかどうかです」「望みますとも」「表面上はね」と医者は言った。「しかし根本的には、彼女は生を拒んでいます。諦めてしまったんです。だから努力して、それを取り戻さないといけない。おもに彼女が頑張らないといけないんですが……あなたも助けてあげられます。彼女に生きる希望を植えつけなさい(中略)」

 その日の夕方、テリーはカルヴェロに自分の人生の話をした。(中略)「人生には可能性がある━━夢を見れば……夢が実現することもある」(中略)「もう踊れないの」と言って、彼女はすすり泣いた。「どうして?」ほとんど叫び声だった。「脚が動かないのよ!」「それこそヒステリーだ。脚が動かないって自分で思い込んでいる!」「どうしてそんなことが言えるの!」と彼女は叫んだ。「生きようと望まないからだよ! だから人生から逃れるために、脚が動かないと思うことにしたんだ!」「それは違うわ!」「違わない! そうでなければ、戦うはずだ」(中略)

 こうして歩く練習をしているとき、階下の正面玄関がノックされ、ベルが鳴った。「何かしら?」とテリーが訊ねた。「郵便配達だよ」とカルヴェロが言った。「レッドファーンかららもしれない」(中略)

 カルヴェロ様 ミドルセックスでの公演初日が23日(月曜日)夜と決まりました。ギャラは3ポンド。明日、契約をしに私のオフィスにいらしてください。
                         サム・レッドファーン

カルヴェロは弾むように階段を昇っていった。(中略)

(また明日へ続きます……)

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