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三羽省吾『路地裏ビルヂング』

2011-03-07 03:14:00 | ノンジャンル
 三羽省吾さんの'10年作品『路地裏ビルヂング』を読みました。路地裏にある老朽化した雑居ビルの店子たちを点描した短編集です。
 『道祖神』は、健康食品などを扱う会社で営業を行う俺が、同期で入った5人で取った契約を分け合うことを、やはり同期の久米沢に提案され実行しますが、久米沢は同期の宇佐美の父と親戚の会社の従業員名簿と、やはり同期の沼田の取った新規契約者の名簿、計2200件の個人情報を他社に流して逃げてしまい、俺たちが騙されるという話。
 『紙飛行機』は、女手一人で夢中になって一人息子を育て上げた私が、56才になって初めて仕事の喜びを知り、これから保育士として生きていこうと決意する話。
 『サナギマン』は、塾講師の俺が、経済的な理由で受験を諦めかけている生徒に対し、自分も司法書士の試験を諦めない態度を示すことで励ます話。
 『空回り』は、不動産屋でテレフォン・アポインターをしている私が、日常の退屈さに気付くようになっていましたが、ビルへの空き巣事件を通じて、日常の中にドラマを見い出すようになる話。
 『風穴』は、零細広告代理店で営業マンをしている俺が、同級生のコネで大きな仕事を入れようとして失敗しますが、それによって、がむしゃらな自分の仕事の仕方を周囲が理解してくれていたことを知る話。
 『居残りコースケ』は、住み込みの小僧として働き始め、先々代、先代に奉公してきた私が、ビルが解体された後の今、お嬢さんの開いた飲み屋で働き、お嬢さんの行く末を見届けようと決心するまでの話です。

 今一つパンチにかける話ばかりでしたが、最後に店子の皆が仲良くなって、ビルの一階の飲食店で一緒に飲むようになり、そうした中、最後の短編『居残りコースケ』も気持ちのいいラストを迎えるなど、読後感がすがすがしい短編集でした。三羽さんの作品はどれも、このように読後感がいいのが特長のような気がします。ワイワイガヤガヤした雰囲気の好きな方には特にオススメかも。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/^m-goto)

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