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法橋和彦『古典として読む「イワンの馬鹿」』その2

2012-12-27 08:46:00 | ノンジャンル
 ルネ・クレール監督・脚本の'52年作品『夜ごとの美女』をWOWOWシネマで再見しました。さえない音楽教師ジェラール・フィリップが、夢の中でオペラの作曲家、アルジェリア戦争のラッパ兵、革命家などになり、現実での自動車修理工の娘マデリーヌ・キャロル、レストランの女主人ジーナ・ロロブリジーダが貴族の娘やアルジェリアの姫らに扮し、最後、自動車で大昔から現在までを遡るという荒唐無稽なコメディでした。

 さて、昨日の続きです。
 本篇の後、著者による訳注、解説、参考資料1「トルストイと悪魔について」、参考資料2「トルストイのキリスト教的無抵抗主義(非戦・非暴力の思想)と現代」が収録されています。
 それらの中で、著者は、社会的不平等は生産手段(土地を含む)の私的所有から生まれるというプルードンの思想にトルストイが若くして影響されていたこと、マルクスは「自然は労働と同程度に使用価値の源泉である」と考えていたこと、トルストイはまた「都市と農村間の分業が消滅する」ことに期待をよせていたこと、トルストイは驚くべきことに、今から150年も昔にこの作品において、空飛ぶ独身女性部隊を登場させていること、トルストイはガンディーと書簡のやりとりをしていて、大衆的非暴力抵抗運動について共闘関係にあったこと、ライト兄弟の飛行理論の完成はペノーの模型飛行機から生まれていて、その関係については、ロバート・オルドリッチ監督の『飛べ!フェニックス』が言及していること、パイロットたちは今も昔も不時着に備えて、できるだけ海岸線に沿ったり、砂漠を利用するフライトを心がけていること、マルクスは人間独自の知力(創造力)をも人間の労働力からけっして除外してはいないこと、トルストイは晩年の日記で「人間社会の最高の物質的富は平和である。個人の最高の物質的富が健康であるように」と書いていること、トルストイは『イワンの馬鹿』を書いた9年後に、原典からの老子『道徳経』の翻訳を思い立っていること、ヴラジオストークの『極東新聞』が1908年3月1日に「トルストイが高齢であるにもかかわらず、訪日するのではないか。また日本以外では韓国をも訪問するのではないか、韓国は今回の訪問先としてもっともふさわしい国である。そこでは悪にたいする無抵抗という伯の高尚な学説がもっとも役立つにふさわしい土壌を提供することになろう」と報じたことをトルストイが知り、感激していたこと、日本でもっとも早くトルストイを師匠として学び、特にその思想活動に深く共鳴するところがあった徳冨盧花が、大逆事件にふれ、いまは亡きトルストイにかわって一高講堂壇上で熱涙あふれる講演「謀叛論」をなし、日本近代史上、反権力的な最初の思想闘争として大きな社会的反響をよびおこしたこと、水上勉は大逆事件に連座して享年27歳に充たずして絞殺死させられた同郷、若狭小浜出身の『古河力作の生涯』を書いていること、その古河が獄中で書き込みをしていた聖書を水上は入手していたこと、トルストイは「キリスト教は、もしそれが真剣に受け入れられさえすれば、すべての古いものを粉砕し、新しい無限の地平線を啓示するダイナマイトのような強力な作用をするものである」と書いていること、啄木は死の直前、大逆事件の資料の整理に没頭し、「平民新聞」に掲載された『トルストイ翁の日露戦争論』の筆写を行なっていたこと、夏目漱石も『吾輩は猫である』執筆中に内田魯庵訳の『イワンの馬鹿』を贈られ、いたく感激していたこと、そして『猫』の中の“馬鹿竹”の一挿話で『イワン』を取り上げていること、ユダヤの律法とその解説であるタルムードの中に「すべての肉体労働は人間を高貴にする。子供に肉体労働を教えないのは――子供を将来掠奪者にする準備をしているようなものである」という文があること、などなどを教えてくれています。
 私は途中までこの本を読んで、この本は常に手許に置いておきたい本の一冊であることを確信しました。また、私の住む厚木市、それに隣の愛川町に配布されている“市民かわら版”という地域情報誌に、“野良の芸術”というコラムがあり、これを執筆されれいる小嶋冨五郎さんが、最新号において地域の芸術文化の意義について力説されていて、その考え方も、トルストイと共通するものだと感じました。この本、皆さんも是非一読されることをお勧めします。

 →Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

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