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宮田珠己『無脊椎水族館』その1

2020-01-19 22:52:00 | ノンジャンル
 宮田珠己さんの2018年作品『無脊椎水族館』を読みました。
 冒頭の「無脊椎水族館のすすめ」の文章を引用しますと、

「水族館に行くとほっとする。
 なぜほっとするのか。何か理由があるにちがいない。

 つらいときや疲れたとき、そのほかとくに問題ないときも、水族館に行って、じっと水槽を眺める。すると、あっという間に夢中になる。
 どの水槽もいいが、なかでもおすすめは無脊椎動物の水槽である。クラゲや、イカ、イソギンチャクやウミウシなどの無脊椎動物は、よくよく考えると理解に苦しむ姿で暮らしている。なぜそんな変なカタチなのか。どうしてそんな奇妙な動きなのか。
 思わずじっと見入ってしまい、いつまでも水槽の前から離れられない。
 わたしの見る限り、水族館で何か画期的な事件が起きているとすれば、それは無脊椎動物の水槽においてである。
 あの、館内順路の終わりのほうにある、薄暗い廊下に小さな水槽が並んだ驚異のゾーン。世界の秘密はそこにある。
 クラゲのたゆまぬ無心な動きや、イカの突然の色の変化、ヒトデのどこか思索的な姿に、ウミウシの美しい色合い、そしてイソギンチャクの不気味なゆらめき。そういった得体の知れない生きものたちの真の生きざまこそが、水族館でもっとも見るべきものだ。
 彼らに関して詳しいことは知らない。その生態を深く知ろうとも思わない。それよりただじっと見ていたい。ただ見て、その変なカタチと動きに呆れ、驚き、そしてときどき、こうつぶやくのである。
 わけがわからん。
 現実とはわけがわからないもの。それで当然なのだ。わけのわかる現実など、なにほどの魅力があろうか。
 水族館へ行って、無脊椎動物を見る。
 そしてふーっと肩の力を抜く。
 理由なんてどうでもいい。何であれ、ほっとすることが大切である。
 いろんなことは、そのうちなんとかなるだろう。」

 ここで取り上げられている水族館は、葛西臨海水族園、新江ノ島水族館、マリンピア日本海、寺泊水族博物館、アクアマリンふくしま、横浜・八景島シーパラダイス、鳥羽水族館、海響館、うみたまご、須磨海浜水族園、越前松島水族館、名古屋港水族館、加茂水族館、アクアワールド大洗、海遊館、京都大学白浜水族館、エビとカニの水族館、串本海中公園、いおワールドかごしま水族館です。

 最後に、本文からいくつか引用させていただくと、

・フジツボという生きものは、フジツボ一択かと思っていたら、世界に四百種類以上いるという。無駄に多様化している気がしてならない。
 まだある。フジツボは、貝ではなく、エビやカニの仲間なのだという。もはやさっぱり得体が知れない。もっといえば、フジツボのペニスは、自分体長の八倍もの長さがあり、八倍は動物界で最大なのだそうだ。
 全方位的に意味不明であるが、そもそもフジツボにペニスがあること自体想定外である。サンゴみたいに水中に精子を放出し、それがメスが放出した卵子と混ざって、適宜受精するわけじゃないのだ。あの穴の中から八倍のペニスを伸ばし、近くにいる別のフジツボに突っ込むのである。
 なんという無頼派な生きものであろう。北方健三の小説に出てきそうだ。
 そもそもエビ、カニの仲間なら、八倍も伸ばしてないで歩いたらどうなのか。

(明日へ続きます……)

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