また昨日の続きです。
この前なんか、女をいたぶって清々したい、それこそが、おれの命の洗濯になるんだが、どうしたら良いってんだ、と訴えるお客様がありましてね。そのお客様……仮にS男氏としておきますが、その方と来たら、あろうことかSMクラブまで連行……いや御案内していた私の妻に目をつけやがったのです。私の妻が、これまた出来た女でして、スローガンは夫唱婦随、あなたとどこまでも歩いていきます、と言ってはばからない、まさに恋女房。その日から妻はS男氏の専属になりました。男性客の場合は、まだ良いのです。風俗店に通うという手もあります。問題なのは女です。その際は、やはり男性客の方々と同じくカウンセリングに時間をかけて、しかるべき絶倫男などを紹介するのですが、これが昨今の風潮から人材不足でして……草食男子とか言うんですか? 捨て身のセックスのためにひと肌脱ごうという勇士、激減! だからでしょうか、あんな事件が起きてしまったのは。店番を息子にまかせて出張サービスに出かけた私が馬鹿でした。店での御予約のお客様が、命の洗濯のためにセックスを所望なさっていたとはつゆほども気付かず……。潔とお客様は戻って来た私に気付かず、店先で交わっていました。「おれ、美人のお客さんの御要望には、基本全部応じる主義だから」馬鹿も休み休み言え! もし、お客様に、あんたを殺して、すっきりしたいの。ねえ、命、洗濯させてえ、などと言われたら、どうなるというんでしょう。その方が絶世の美女であったりしたら。そんなことになったら商売繁盛どころの話ではなくなります。命の洗濯……屋、一代限りにすべきでしょうか。
『蛍雪時代』
正月に実家に帰った際の、のんびりした昼下がりのひとときのことである。元旦の清々しい心持に満ちた空気も少しずつ緩み、家族は炬燵を囲んで思い思いにくつろいでいた。その一員である蛍子も、上掛けにもぐり込み座布団を枕にして、うつらうつらしていた。「あれー、まだ『蛍雪時代』なんて雑誌あるんだ」半身を起こして見ると、母が弟の開いた雑誌を覗き込んでいる。普通の中に普通。それが野崎蛍子という女。と、たったひとりを除いたすべての人々に思われているだろうが、それは、実はまやかしなのである。蛍子は、人生の大部分をまやかしのパートに割いてきた。ところが、ある男によって、少しずつ少しずつ、まやかしの皮は剥がれて、本性があらわになって行ったのである。男は、蛍子の勤める会社に出入りする取り引き先の営業担当で、西条といった。偶然、外で会って食事に誘われた時は面食らった。二十五になったばかりの自分より、ずい分年上だし、その洒脱な雰囲気からして、共通の話題がありそうには思えず一度は断ったものの、再び声をかけられた時には承諾してしまった。何故なら、彼がこう言ったからだ。「野崎さんね、あなたには才能がありますよ。でも、それは、まだ埋もれている。僕に、それを引き出すお手伝いをさせてもらえませんか」「私に埋もれている才能って、どういうものなんですか?」今度は打って変わって狡猾な様子で唇を歪める西条に気付いて、しまったと蛍子が思った時には、もう肩を抱かれていた。そして、促されるままに歩いて数時間後、彼女は、一度素っ裸にされた全身を、次にはタイツ状のもので覆われ、ホテルの床に転がされていたのである。混乱している内に、腕をつかまれ引き寄せられた。そして、そのまま抱擁されてみて、西条も同じ全身タイツに身を包んでいるのが解る。手付きで示された通りに両手を移動すると、張り切った繊維の裏側から溜息が洩れ、少しずつ湿り気を帯びて、やがて濡れる。とてつもなく変! それなのに、促されてこする男の性器は、どんどん固さを増して行き、とどまるところを知らない。突然「怒張」という言葉を思い出した。途端にたまらなくなってしまい、必死に笑いをこらえた。それなのに、西条は押し殺した声で言った。「もっと、スリスリせよ」たまらず噴き出した。蛍子の笑い声があたりに響いた瞬間、西条は体を離した。そして、そのまま気配を消してしまったのだった。どうしたのか、と頭の後ろにあるジッパーを降ろして両目を出すと、離れた所で、西条は膝を抱えてうなだれているのだった。世にも憐れな存在のように、彼女の目には映った。彼女は、咄嗟に、一度は剥き出しにした自分の頭半分を、再びタイツにくるんで後ろのジッパーを上げた。そうして大急ぎで西条の許に這って行ったのであった。初めて親しく口を利いた男と突拍子もない時間を共有している。西条が最初に蛍子に手ほどきしたのは、全身タイツプレイと呼ばれるものである。熱烈なマニアは世界中に存在する。(また明日へ続きます……)
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
この前なんか、女をいたぶって清々したい、それこそが、おれの命の洗濯になるんだが、どうしたら良いってんだ、と訴えるお客様がありましてね。そのお客様……仮にS男氏としておきますが、その方と来たら、あろうことかSMクラブまで連行……いや御案内していた私の妻に目をつけやがったのです。私の妻が、これまた出来た女でして、スローガンは夫唱婦随、あなたとどこまでも歩いていきます、と言ってはばからない、まさに恋女房。その日から妻はS男氏の専属になりました。男性客の場合は、まだ良いのです。風俗店に通うという手もあります。問題なのは女です。その際は、やはり男性客の方々と同じくカウンセリングに時間をかけて、しかるべき絶倫男などを紹介するのですが、これが昨今の風潮から人材不足でして……草食男子とか言うんですか? 捨て身のセックスのためにひと肌脱ごうという勇士、激減! だからでしょうか、あんな事件が起きてしまったのは。店番を息子にまかせて出張サービスに出かけた私が馬鹿でした。店での御予約のお客様が、命の洗濯のためにセックスを所望なさっていたとはつゆほども気付かず……。潔とお客様は戻って来た私に気付かず、店先で交わっていました。「おれ、美人のお客さんの御要望には、基本全部応じる主義だから」馬鹿も休み休み言え! もし、お客様に、あんたを殺して、すっきりしたいの。ねえ、命、洗濯させてえ、などと言われたら、どうなるというんでしょう。その方が絶世の美女であったりしたら。そんなことになったら商売繁盛どころの話ではなくなります。命の洗濯……屋、一代限りにすべきでしょうか。
『蛍雪時代』
正月に実家に帰った際の、のんびりした昼下がりのひとときのことである。元旦の清々しい心持に満ちた空気も少しずつ緩み、家族は炬燵を囲んで思い思いにくつろいでいた。その一員である蛍子も、上掛けにもぐり込み座布団を枕にして、うつらうつらしていた。「あれー、まだ『蛍雪時代』なんて雑誌あるんだ」半身を起こして見ると、母が弟の開いた雑誌を覗き込んでいる。普通の中に普通。それが野崎蛍子という女。と、たったひとりを除いたすべての人々に思われているだろうが、それは、実はまやかしなのである。蛍子は、人生の大部分をまやかしのパートに割いてきた。ところが、ある男によって、少しずつ少しずつ、まやかしの皮は剥がれて、本性があらわになって行ったのである。男は、蛍子の勤める会社に出入りする取り引き先の営業担当で、西条といった。偶然、外で会って食事に誘われた時は面食らった。二十五になったばかりの自分より、ずい分年上だし、その洒脱な雰囲気からして、共通の話題がありそうには思えず一度は断ったものの、再び声をかけられた時には承諾してしまった。何故なら、彼がこう言ったからだ。「野崎さんね、あなたには才能がありますよ。でも、それは、まだ埋もれている。僕に、それを引き出すお手伝いをさせてもらえませんか」「私に埋もれている才能って、どういうものなんですか?」今度は打って変わって狡猾な様子で唇を歪める西条に気付いて、しまったと蛍子が思った時には、もう肩を抱かれていた。そして、促されるままに歩いて数時間後、彼女は、一度素っ裸にされた全身を、次にはタイツ状のもので覆われ、ホテルの床に転がされていたのである。混乱している内に、腕をつかまれ引き寄せられた。そして、そのまま抱擁されてみて、西条も同じ全身タイツに身を包んでいるのが解る。手付きで示された通りに両手を移動すると、張り切った繊維の裏側から溜息が洩れ、少しずつ湿り気を帯びて、やがて濡れる。とてつもなく変! それなのに、促されてこする男の性器は、どんどん固さを増して行き、とどまるところを知らない。突然「怒張」という言葉を思い出した。途端にたまらなくなってしまい、必死に笑いをこらえた。それなのに、西条は押し殺した声で言った。「もっと、スリスリせよ」たまらず噴き出した。蛍子の笑い声があたりに響いた瞬間、西条は体を離した。そして、そのまま気配を消してしまったのだった。どうしたのか、と頭の後ろにあるジッパーを降ろして両目を出すと、離れた所で、西条は膝を抱えてうなだれているのだった。世にも憐れな存在のように、彼女の目には映った。彼女は、咄嗟に、一度は剥き出しにした自分の頭半分を、再びタイツにくるんで後ろのジッパーを上げた。そうして大急ぎで西条の許に這って行ったのであった。初めて親しく口を利いた男と突拍子もない時間を共有している。西条が最初に蛍子に手ほどきしたのは、全身タイツプレイと呼ばれるものである。熱烈なマニアは世界中に存在する。(また明日へ続きます……)
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)