朝日新聞で推薦されていた、内田樹さんの'08年作品「街場の教育論」を読みました。'07年度の神戸女学院大学大学院「比較文化・文学」での講義録を編集したものです。
語られているのは、教育制度の特性、ビジネスとしての教育、キャンパスの重要性、学位工場とアクレディテーションの問題、教養過程の重要性、教師の役割、古典教育、いじめ、キャリア教育、国語教育、宗教教育についてです。教育の特性では、教育は結果の検証に大変時間がかかること、したがって動きの鈍い教育に対してついつい極端な言動が飛び交いがちになること、教育は中断させることができないので「迅速でかつ根本的な改革」は不可能であること、公的な問題であるので誰も自分で解決しようとは思わないこと、しかし結局私たち一人一人が解決に乗り出すしかないこと、具体的には現在の教員にオーバーパフォーマンスしてもらえるような環境を作り出す必要があることが語られます。それ以降も、PTAのような保護者による教育支援(あるいは監視)をする組織は日本とアメリカにしか存在しないこと、教育は本来「こことは違う場所、こことは違う時間の流れ、ここにいるのとは違う人たち」との回路を穿つためにあること、「学ぶ」ということは自分の位置を高みから見られるようになること(次元が一つ上がること)、アメリカには日本の文科省に当たるものがないこと、教育における競争は相手の足を引っ張ることによる能力低下を引き起こすこと、'60年代から'70年代に教師になった人々の多くが学生運動の中枢にいた人たちだったこと、レヴィ=ストロースは男の子の成長に関与するのは、母、父、母方の叔父の三人で、父と叔父からは対照的なものを教わること、教師は自分が学ぶ姿を見せることによってしか子供に学ぶことを教えられないこと、いじめは「集団になじまない個体」と「集団になじみすぎている個体」両方を標的にすること、消費拡大のためグローバリゼーションは家族の解体と個での消費を奨励し、その結果関係不全の若者世代を作り出してしまっていること、大阪の縄文時代の海岸線上に現在あるものは神社仏閣と病院、墓地、大学そしてラブホテルで、みな異界との境界という点で共通点があることなど、興味深い記述が多くありました。こうした記述の根底にあるのは、やはり関係=コミュニケーションの重要さと、問題の責任を潔く受け入れることの重要さでした。
現在の教育問題をありのままに見た時、何が見えてくるかを分かりやすく示してくれた本だと思います。教育に関心がない方にもオススメです。
語られているのは、教育制度の特性、ビジネスとしての教育、キャンパスの重要性、学位工場とアクレディテーションの問題、教養過程の重要性、教師の役割、古典教育、いじめ、キャリア教育、国語教育、宗教教育についてです。教育の特性では、教育は結果の検証に大変時間がかかること、したがって動きの鈍い教育に対してついつい極端な言動が飛び交いがちになること、教育は中断させることができないので「迅速でかつ根本的な改革」は不可能であること、公的な問題であるので誰も自分で解決しようとは思わないこと、しかし結局私たち一人一人が解決に乗り出すしかないこと、具体的には現在の教員にオーバーパフォーマンスしてもらえるような環境を作り出す必要があることが語られます。それ以降も、PTAのような保護者による教育支援(あるいは監視)をする組織は日本とアメリカにしか存在しないこと、教育は本来「こことは違う場所、こことは違う時間の流れ、ここにいるのとは違う人たち」との回路を穿つためにあること、「学ぶ」ということは自分の位置を高みから見られるようになること(次元が一つ上がること)、アメリカには日本の文科省に当たるものがないこと、教育における競争は相手の足を引っ張ることによる能力低下を引き起こすこと、'60年代から'70年代に教師になった人々の多くが学生運動の中枢にいた人たちだったこと、レヴィ=ストロースは男の子の成長に関与するのは、母、父、母方の叔父の三人で、父と叔父からは対照的なものを教わること、教師は自分が学ぶ姿を見せることによってしか子供に学ぶことを教えられないこと、いじめは「集団になじまない個体」と「集団になじみすぎている個体」両方を標的にすること、消費拡大のためグローバリゼーションは家族の解体と個での消費を奨励し、その結果関係不全の若者世代を作り出してしまっていること、大阪の縄文時代の海岸線上に現在あるものは神社仏閣と病院、墓地、大学そしてラブホテルで、みな異界との境界という点で共通点があることなど、興味深い記述が多くありました。こうした記述の根底にあるのは、やはり関係=コミュニケーションの重要さと、問題の責任を潔く受け入れることの重要さでした。
現在の教育問題をありのままに見た時、何が見えてくるかを分かりやすく示してくれた本だと思います。教育に関心がない方にもオススメです。