マキペディア(発行人・牧野紀之)

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地方小出版流通センター通信 No.511

2019年03月17日 | タ行
     地方小出版流通センター通信 No.511
               2019/3/15

 関東地方では春一番が吹いたと報じられています。今年は桜の開花も早いようです。2018年度もあと半月を残すのみとなりました。後期の出荷の扱い減少は続いています。教科書のシーズンが始っていますが、今年は動きが遅いようです。

 アメリカはいま、鉄道車両の生産能力は破棄し、中国などから輸入せざるを得なくなっているそうです。かなりの部分の重工業がボーダレスに海外移転し、自国に存在しない先進国が広がっています。日本ももうすぐそうなりそうです。中国や東南アジアの国々に依存する生産や消費が急速に広がり、そこから抜け出られなくなっている現実をヒシヒシ感じます。

 日本が急激に衰退してきているように感じます。AIやコンピューターが普及すれば良い方向に行くとは思えず、ますます生きがいや働きがいをなくしつつあるようです。先進国の仲間入りした70年代から90年代までが花で、それ以降社会が劣化しています。それは、産業はもとより知的側面、学問・教育・研究も同じようで元気がありません。これを乗り越えないとこのまま沈んでしまいそうで不安です。その一翼を担う出版の世界がなんとか生き返れないかと愚考する毎日です。

 文化庁が「著作権侵害のダウンロード全面違法化」の著作権法の改正案を国会に提出しようとしています。この包括的ダウンロード違法化に、日本マンガ学会長の竹宮恵子氏はじめ疑問の声が上がっています。出版業界は違法化に賛成のようですが、「網をかければ、必ず萎縮が伴う。網のかけ方にはデリカシイが必要で、違法の範囲を慎重に絞って欲しい」と主張しています。「日本の漫画はスピンオフ作品に代表される二次創作のコミュニティによって育まれてきました。摘発されずに黙認されてきたからこそ発展してきた側面もあると思う」と。これは漫画以外の表現・著作物・研究などの多くにも言えることではないでしょうか。

 日本の大手取次2社の日販とトーハンが協業化の方向を公正取引委員会に打診している昨今の日本の状況ですが、日本の出版流通が今後目指すモデルのひとつとしているドイツの出版業界で、二番手のKNVという取次が破産したそうです。年商600億冊程度の取次店ですが、「新設した物流センターがうまく稼働せず、従来の施設とダブルコストがかかり、ふくれあがった借り入れの返済が出来なくなった」ことが原因とのこと
罫線です。

 九州では最古参の出版社と思いますが、福岡の創言社の村上一朗さんが、心筋梗塞で亡くなりました。享年81歳。キルケゴール著作全集や滝沢克己さんの著作等、宗教、哲学・思想関係書を中心に200点を超える出版物を地方の福岡から発行してきました。また、山口・九州地区の大学出版である九州大学出版会の設立・運営にも尽力されました。

感想・このセンターについては、ウィキペディアに以下の説明があります。
━━1970年代までの日本の書籍流通業界では、大手の取次会社は効率面の問題から地方出版社や小規模出版社の刊行物をほとんど取り扱っておらず、こうした出版社が全国規模で出版物を流通させることは困難だった。一方、都市部では、書店や図書館によって地方出版物の企画展示や即売会が行われる機会も増え、地方から都市部への人口の流入もあって、地方出版物のニーズが高まっていた。
こうした状況を受けて、1976年3月、元書店勤務の川上賢一らが呼びかけ人となり、地方出版社社長や書店主など有志40人による出資を得て、資本金450万円(当時)で地方・小出版流通センターが設立された。初年度から180社、約5000点の書籍を扱い、その後も地方出版物のブームに乗って、1990年代半ばまでは順調に業績を伸ばした。
1976年に神田小川町にアンテナショップ「書肆アクセス」を開店。1981年には神田神保町のすずらん通りに移転し、様々なジャンルの地方出版物を手軽に入手することができる神保町の名物書店として多くの利用客を集めた。
しかし1990年代後半より、若者の活字離れなどによるいわゆる出版不況や、ネット販売の拡大などの影響を受け、業績が伸び悩んだ[6][7]。「書肆アクセス」も利用客の減少から、1998年に4700万円あった売り上げが2006年には2800万円に落ち込むなど経営難に陥り、2007年に閉店した[4]。
書肆アクセスの閉店に伴い、本社を2007年11月に神田神保町より新宿区南町に移転した。 (引用終わり)

 我が鶏鳴出版ももちろんここのお世話になりました。中心人物の川上さんとは、彼が新宿の模索舎で働いていた時からの知り合いでした。基金に出資した日を領収書で見ますと、「昭和51年5月10日」となっています。今でも形の上では切れていませんが、新刊を出しておらず、在庫はゼロなので、取引がゼロなだけです。
 この1976年(昭和51年)とはどういう年だったかといいますと、7月27日に田中角栄がロッキード事件で逮捕された年です。地方小の設立もロッキード事件に次ぐ「第2の重要事件」のように扱われたものです。
 毎月、この「通信」は送られてきますので、読みます。社長の川上さんももういい歳で、一時は入院していたと聞きましたが、彼の発する情報は貴重です。しかし、それもいつまで続くのでしょうか。
 見れば、本号は「511」となっています。いつも思うのですが、これまでのものを全部まとめれば、日本史の一面の貴重な記録になるのではないでしょうか。
 それにしても、本号はあまりにも希望のない内容です。この現実に対して、私に何ができるでしょうか。非力を恥じるばかりです。

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