マキペディア(発行人・牧野紀之)

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「天タマ」第11号

2018年12月01日 | タ行
「天タマ」第11号(1998年12月7日発行)

          浜松市立看護専門学校 哲学の教科通信

 「悪い生徒を直すのは教師の仕事か」について、「天タマ」第10号で問題提起しておいたことを考えてもらいました。それの準備として、「学校のスリム化」について、少年院の実情について、生徒「やり放題」の実情について、正しい知識を持つために、新聞記事を読みました。テーマとしては「授業の記録」にあるものを設定しました。改めて考えると、必ずしもはっきりしない点も多く、「今日はすごく考えさせられるテーマだった。早く『天タマ』を見て、みんなの意見を知りたい」と思った人も少なくないでしょう。

   未成年者の教育における家庭と学校と地域社会の役割分担
     (更生施設の役割も)

 ★ Bさんに一般論を代表してもらいましょう。

──子供のしつけなどはやはり家庭の役割だと思う。親の接し方でどういう子に育つかが決まると思う。学校は勉強を教えることと、家庭では学ぶことのできない集団生活を教えることも大切だと思った。同年代の大勢の仲間と遊んだり、接していくことは、学校に行くからこそできることだと思う。
 私は学校が勉強だけを学ぶところだったらつまらないと思う。基本は勉強だが、人との接し方や社会生活について学ぶことができると思う。地域では同年代の人だけでなく、違う世代の人との交流を深められる場であると思う。

 ★ 更生施設の役割については、次の意見を聞いてみましょう。

──更生施設の役割は、世間一般では悪い子を更生させる所だと思われている。私は、この3者(家庭と学校と地域社会)が救えなかった子を最終的に支える役割があるのではないかと思うようになった。
 傷害や暴走行為などは悪いことだけれど、子供の最後のSOSなのだと思う。更生施設では、何故最後のSOSを使う所までSOSを出せなかったのか(親が気づかなかったか)を明らかにして、子供達を助けていって欲しいと思う。

 ★ 今の学校に「悪い子を直す」役割をそっくり任せるのでもなく、かといって直ちに更生施設に送るのでもなく、その中間みたいなものとして、学校にカウンセラーを置くという提案をしている人もいます。

──生徒は家庭・地域社会・学校と関わっているのだから、学校だけに責任を持たすことはできない。それでも学校に頼むというならば、専門の人を置いてはどうだろうか。少しのことでも更生施設へ送ると、今度は更生施設に責任が行ってしまうので、学校にカウンセラーを置くのである。
 病院では疾患別に病棟が違うのだから、出来ないことはないと思う。教師とは別の人間を置くことで、家族にも教師にも言えない悩みを話し合う機会もできるだろう。教師も悩んだらそこに行くのもいいかもしれない。

 ★ 実際、兵庫県などでは学校カウンセラーが既にかなり沢山置れているといって、先日もTVで紹介されていました。今日、このVTRを見る予定です。
 全体として皆さんのレポートには「地域社会」の教育的機能についての具体的記述がほとんどありませんでした。この事が日本では未成年者の教育において地域社会が小さな役割しか果たしていないということの何よりの証拠だと思います。Eさんはこう言っています。

──家庭と学校が責任の押しつけ合いをするばかりで、地域は今の日本では関係していないのでは。人と人との関わりが少なくて、地域が何かの役割をしてくれるということはほとんどないと思う。小学校までは子供会もあり、多少関わるものの、それ以上ではなかなか。学校の役割というものをまず出してみて、それ以外の事は地域と家庭で補うようにすればよいと思う。

 ★ 参考までにドイツの子供たちの生活を私の知っている範囲で紹介します。

 幼稚園に入るまでは日本とほとんど同じだと思います。幼稚園も似たようなものですが、日本の幼稚園には勉強を教える所も結構あるようです。ドイツの幼稚園ではそういうのは少ないと思います。
 それに、ドイツの幼稚園は都会のそれであっても、広い公園の一角とか、環境の好い所にあるようです。そして、遊びも本格的というか、私の見た例では、準専門家の指導を受けながら、幼稚園の壁に一人一人が絵を書いたタイルを張るといった本格的な「仕事」もあったりします。
 ドイツの小学校は4年(10歳)までです。その後、進路によって大きく3つに分かれます。しかし、途中で進路を変えることも出来ます。いずれにせよ、ドイツの学校は8時ころ始まって午後1時でお終いです。休み時間は10時頃に20分間の大休憩があるだけです。それ以外は教室の移動だけです。学校にいる時間が短いのです。
 1時になると、皆お腹かが空いていますからさーっと帰宅します。部活は学校の仕事ではありません。クラブは地域社会の仕事なのです。学校の先生が学校の施設を使ってクラブをすることもありますが、それは地域の一員としてするだけです。
 次に、ドイツでは生徒は学校にいる間は必ず誰か先生に見られているということです。教室には先生がいます。大休憩の時は教室から出て外の空気を吸わなければなりません(教室には鍵が掛けられます)。その時、校庭が全部見えるように、3か所くらいに先生が立っています。これを「監視」と言います。監視の当番表が職員室に張ってあります。
 職員室と言えば、ドイツの生徒は職員室には絶対に入ってはいけません。ドイツでは18歳未満は子供で、大人の言うことを聞かなければならないとされています。逆に、18歳になると、大人は一切指図しなくなります。その代わり自分で一切の責任を負わなければな
りません。
 14歳前後には異性との交際の練習を始めます。家で公認された特定の異性と付き合うのです。これは一緒にダンス学校に通うためでもあります。そこで礼儀なども学ぶのです。結婚にまで発展する人がどのくらいいるかは知りません。
 大人の年休が沢山ありますので、夏休みなどには一家でどこかの旅行先に2~4週間滞在して、家族でキャンプ生活をするという事も多いようです。

 ★ 自分の子供が「やり放題」のような子供になったら、誰の責任と考えるか?

──本人と親の責任だと思う。よく「子供は親の背中をみて育つ」と言うように、親が一番子供といる時間が長いのです。やり放題になった子供を注意して直せるようであれば、子供が親を親として見ているということだし、そのような力のない親は、親としての威厳がないと思う。子供が親を尊敬していないということだと思います。

──親の責任だと思う。育児は簡単なものではなく、難しい。親は子供を育てるのに一生懸命だと思う。時には失敗する親もいるが、全ての責任を親に押しつけるのも可哀相である。しかし、自分が親だったならば、やっぱり責任を感じると思う。

 ★ 私は、親、本人、学校(教師集団)の順で責任があると思います。しかし、その「責任」の種類も違うと思います。いずれにせよ、こういう問題を冷静に話し合う場がないというのが一番困った事だと思います。その場を作る人として、私は「学校オンブズパーソン」を考えています。

         その他

──先日、新聞を見ていたら「オンブズマン」の記事が目に入ってきた。授業で知ったばかりということもあって、興味深く読んでみた。学校のオンブズマンと地域行政のオンブズマンの記事だった。
 私はまず福祉オンブズマン以外にオンブズマンがいることに驚いた。学校オンブズマンは、学校に対して利害関係のない人達が学校に行き、調査するというものだった。日本で初めての事らしい。仕事は福祉オンブズマンと同じようなものであった。
 この記事を読んで、学校・福祉・行政以外にももっと「オンブズマン」が必要な場所があるのではないだろうか、と思った。「オンブズマン」という仕事はこれからも増えていくと思う。

──初めて鑑別所を見た。どういう事をしているのかも知らなかった。悪い事をよくする人は、何も反省していないのかと思ったけど、家庭のことですごく悩んでいるんだなと思った。親子関係って本当に大切なんだなと思った。

──鑑別所のビデオを見て思った事は「私も一歩間違えばあの中にいたかもしれない」ということでした。私には問題を起こすほどの勇気もなく今に至っていますが、あのビデオの中の話には私の現在の状態とそっくりなのもありました。私には話を聞いてくれる友人がいたので、何とか今まできました。改めて友人を大切に感じました。

 ★(個人の暦)

 カレンダーはどの日も区別無く平等に配列している。しかし、一年 365日のすべての日は歴史や生活と結びついている。それを「暦」と呼ぶことにする。 NHKラジオで毎日、「今日は何の日」というのを放送している。これは社会全体にとっての暦と言うことができる。それに対して「個人の暦」というものを考えることができると思う。人にはそれぞれ、自分にとって忘れられない日が一年に何日かあるはずだからである。
 私にとっては1年は60年安保闘争と結びついている。20歳代にその渦中にあって経験したあの日々は私に消えることのない刻印を押した。1959年の11月27日、この日は「全学連の国会突入事件」のあった日である。指名手配された指導者が東大の駒場寮に逃げ込んだ。警察は大学も治外法権ではないといい、教授は大学に官憲を入れないために、出るように主張した。結局12月10日のデモに出た所を逮捕された。

 6月15日は樺美智子さん(東大文学部4年生)が殺された日である。6月18日の「自然成立」の日は国会の周りに座り込んで一夜を過ごした。その後、何もかも分からなくなった。それを一つ一つ考える中で自分の哲学を作ってきた。

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