第60回江戸川乱歩賞受賞作。主人公が69歳の全盲の視覚障碍者というかなり珍しい設定で、テーマも中国残留孤児という重いもの。
主人公の村上和久は、腎臓病を患い人工透析を続けている孫娘のために、実家の岩手で母親と暮らす兄、竜彦に生体腎移植を依頼するが、ドナー検査さえにべもなく拒否されてしまう。それをきっかけに兄が偽装中国残留孤児ではないかと疑い始めた村上は、戦中に満州開拓団で一緒だった人たちを訪ねて回る。
一方、不法に密入国した徐浩然という中国人が村上に接触し、「自分が本当の兄だ」と言う。果たして竜彦は本当の兄なのか、そして徐浩然の狙いは。。。
視覚障碍者の世界、というのが斬新で自分が普通に行っていることが、目が見えないことでどれだけ大変になるのか、リアリティがひしひしと迫ってきました。登場人物の年齢が高めなのは、中国残留孤児というテーマと紐づけるとギリギリこのくらいの年齢になってしまうのでしょう。その割に密航してきたりして年を感じさせずずいぶんと元気だなあ、と思う部分はありますが。
なんとこの作者は乱歩賞の最終選考に残ったのが5回目とのこと。それだけ落ちても応募し続ける執念もすごいですね。ミステリー小説と言うと、殺人事件から始まると思ってしまいますが、この作品では殺人事件は起きません。それでもハラハラドキドキ、上質のミステリーでした。
11/23
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます