山本周五郎賞という文学賞の名前にもなっている山本周五郎の代表作のひとつ。江戸時代の三大お家騒動のひとつ、伊達騒動の内幕を、原田甲斐を悪役としてきた従来の解釈に真っ向から反対する義の人として描く。
仙台62万石の家督を継いだ伊達綱宗は、放蕩を理由に幕府から謹慎を命ぜられる。その夜、綱宗の近習4名が「上意討ち」を口実に襲われ、仙台藩は大騒動となった。綱宗謹慎の陰には、老中酒井雅樂頭と綱宗の叔父、一ノ関藩主伊達兵部少輔宗勝との間で、仙台62万石分断の密約があった。仙台藩宿老の原田甲斐は、綱宗謹慎にあたり嫡子亀千代の家督相続に尽力するが、その過程で宗勝と酒井の密約、さらには酒井雅樂頭の仙台62万石改易の遠大な狙いまで見通し、伊達安芸、茂庭周防と3人で仙台藩を守る孤高の戦いを始める。。。
まず最初は同一人物が複数の名前で呼ばれることに面食らいました。主人公の原田甲斐も、領地の名前から船岡様と呼ばれたり、伊達兵部少輔宗勝が一ノ関殿と呼ばれたり兵部殿と呼ばれたり、伊達安芸も涌谷様と呼ばれたり、基本的に領地の名前か官職名ですが、慣れるまで戸惑いました。
そして野性的な一面のある甲斐の姿は、隆慶一郎の描くかぶき者ともだぶって見えます。自然とともに生きるというか、野生児的な鋭利な香りがぞくぞくとします。その他、伊東七十郎や里見十左衛門といった武士らしい人物ががっつり描かれますが、一方で湯島に住まわせているくみだったり、武士を捨てて芸で身を立てる新八だったりその新八と夫婦になるおみやといった、武士ではない者たちの生き様も一本筋の通った覚悟が感じられます。
62万石を狙う兵部の暗躍により、幼君亀千代の毒殺未遂や席次問題に始まる伊東家一族の処分、そして涌谷と登米の伊達式部の領地争いなど、事件が次々と起きますが、原田甲斐は茂庭周防と伊達安芸と3名で交わした「仙台藩改易阻止」のために耐え忍んで、ひたすらお家が大事と今際の際まで仙台藩が科を受けないように振る舞う様は、心が痛くなります。
60年前の作品だというのに全く古さを感じさせないのは、歴史小説という体裁と題材のおかげでしょうか。
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