まてぃの徒然映画+雑記

中華系アジア映画が好きで、映画の感想メインです。
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息もできない(試写会)

2010-01-29 00:00:00 | 韓国映画(あ~な行)
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韓国に俊英が、またひとり現れた。これまでは俳優だったヤン・イクチュンが製作・監督・脚本・編集・主演を務めた長編初監督作で世界中の映画祭でたくさんの賞を受賞している。日本でも、昨年の東京フィルメックスで上映された。

ストーリーはタイトルどおり、息もできないほど痛くて悲しくて、愛が感じられる家族の物語。

冒頭から、ハンディカメラで男がホステスらしい女性を殴っているところにサンフン(ヤン・イクチュン)が絡んでいき、男をボコボコにするシーンで、暴力を印象づける。

サンフンは幼馴染と一緒にヤクザをしていて、学生のデモ隊を追い払ったり、借金の取立てを仕事としている。給料はパチンコに使い、余った金は甥っ子のヒョンイン家族に渡す日々。ヒョンインは母子家庭で、母親(ソンフンの姉)は日中仕事のため、サンフンはヒョンインの遊び相手になろうとしていた。
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ソンフンがヒョンインとひとしきり遊んだ帰り道、唾をはいたところ女子高生のヨニ(キム・コッピ)にかかり、二人は関わりを持つ。負けん気の強いヨニは、ヤクザのサンフンにも臆せず向かい合い、二人は奇妙な関係となる。

ヨニの家は父親が朝鮮戦争に出征した元軍人で、今は少し精神に異常をきたしている。母親はかつて屋台をやっていたが、ヤクザに屋台を潰されて、そのときに揉めて死んでしまった。弟ヨンジェはヨニに金をせびる毎日、ヨニが家事から父親の世話まですべてする、そんな閉塞感漂う日々。

一方子供の頃のサンフンの事情も悲惨だ。父親は母親にいつも暴力をふるっていて、サンフンと妹は隠れて「殴るのはやめて」と懇願するばかり。ある日ついに包丁まで持ち出したので、サンフンの妹が止めに入るが、父親は勢いで妹を刺してしまう。急いで病院に連れて行ったものの既に妹は事切れていた。一方母親も病院に駆けつけようとするが、路地から出たところで交通事故にあって即死。父親は15年間の刑務所収容となる。ヒョンインの母親との関係は明確ではない。姉と呼んでいるものの、『母親の顔を知らないくせに』と言っているところから、父親の愛人の子供か、先に生まれて養子にでも出されたか。いずれにせよ、父親が同じってこと。

そんな境遇だったから、サンフンは人とのコミュニケーションをうまく取ることができず、口汚い言葉や暴力でコミュニケーションをすることになる。ヤクザを一緒に始めた幼馴染のマンシクは孤児のため、出所したサンフンの父親をなにかと気遣ってサンフンにも父親のための金を渡したりするが、サンフンは父親と会うたびについつい手が出て殴ってしまう。
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サンフンとヨニの奇妙な交流は続いていて、いつしかヒョンインを連れて一緒に街に出るまでになる。そんなある日、サンフンが父親の家に行くと、父親が手首を切って倒れていた。病院まで背負って『死ぬな』と叫びながら走るサンフン。このときに初めて父親に死んでもらいたくない、という自分の心に気づいたのか、父親が入院した深夜にヨニを漢江に呼び出す。
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その夜ヨニは、ヨンジェがヤクザ(なんとマンシクのところで、サンフンの手下として働いていたのだが、ヨニはそんなこと知る由もない)になって家を出ていき、父親は包丁を自分に向けてくる、そんな絶望的な状況にいた。孤独な魂は惹かれあい、決して見せない涙を二人だけで流す。

ヒョンインと姉、父親が楽しくプレステをやっているのを覗き見したり、ヒョンインから『おじいちゃんを殴らないで』と頼まれたサンフンは、次第に家族のことを考えてヤクザから足を洗うことにする。その最後の仕事で、ヨンジェと一緒に借金の回収に向かったのだが。。。
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家族の再生への希望と、そして絶望が交錯するラストに頭が混乱する。ヒリヒリと痛い感覚が全編を通して伝わってきて、家族の関係について考えさせられる。暴力描写は過剰なまでにあるが、それすらも徐々に慣れてきて、普通ののことととして捕らえてしまう。サンフンにとって、殴ることは話すことと同義なのだ。

韓国では結構あるのだろうか、夫から妻への暴力が頻繁に登場する。サンフンの姉も夫から暴力を受けて別れたようだ。しかし監督は、父親の家庭内暴力は社会からの抑圧が厳しいからだ、と述べていた。韓国はきっと日本のように緩い社会ではなく、まだまだ社会規範のようなものがきっちりとしているのだろう。徴兵制もあるし。

映像の演出も、ハンディカメラでのぶれまくりで臨場感溢れる映像から、台詞が一切なく流れるように穏やかに市場や町の人々、そしてサンフンやヨニを写すシーン、相前後する時間軸での回想など、さまざまな技術が駆使されている。

上映後は監督のティーチイン付き。カメラをもって行くのを忘れてしまったのが心残り。監督は、役柄とは全然違って人のよさそうな優しげな兄さんだった。質問ではキャスティングや初めての監督のこと、自分で監督と主演を務めること、暴力について、などいろいろなものが出たが、一つひとつ丁寧に、長く答えていた姿が印象に残る。

キャスティングは、ヨニ役とヨンジェ役を除いてほとんど身の回りの人たちで、自分が監督で主演だから、自分よりもほかの俳優にいかに演技をしてもらうかに気をつけていた、と言っていたなあ。暴力については、サンフンは暴力によってしかコミュニケーションができないのだけれど、私たちにはそうではない、という希望がある、皆さんもそういう希望を持っていますよね、と語っていた。

監督自身、家族とはうまくいっていなかったようで、この映画は観客に向けてのメッセージなどではなく、あくまで自分自身のために作ったそうで、実際この映画を作ったことで家族との関係が以前よりは修復されたといっていた。そういう意味では私小説に近いのかな。確かに感情は痛いほど伝わってきたけど、メッセージ性というか、監督はこの映画で何を伝えたいのだろう、みたいなものは分かりづらかったからなあ。しかし監督自身のこの映画にこめた気持ちが、やはり圧倒的なパワーとなって伝わってくるのだろう。

この映画の製作に4年程度かかりっきりだったそうで、しばらく監督業は休業と冗談なのかそうでないのか言っていましたが、次回作が楽しみです。

会場のハンマダンホールは初めてだったけど、椅子が映画館なみのもので足元も余裕があり、まるで映画会社の試写室のよう。途中フィルムアクシデントで5分ほど中断したけれど、それも試写会なのでよしとしよう。

公式サイトはこちら

1/28 韓国文化院ハンマダンホール
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3月下旬から渋谷シネマライズで公開!

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