えくぼ

ごいっしょにおしゃべりしましょう。

松平盟子の悩み

2015-05-07 09:13:08 | 歌う

             ・・・ 松平盟子の悩み ・・・

 「短歌5月号」の巻頭の連作は松平盟子の 「弓手」。 ゆんで と読み左の手のこと。角川賞を受賞したとき松平は23歳だったか。某女優に似ていると騒がれ、たちまち歌壇の大スターになってしまった。歌誌 「プチ✩モンド」の代表として現在もキラキラ。その彼女にも悩みがあるのだ。

 ✿ 棄てられぬモノのすべてが粘着し絡まって母はそのまま老いし

 これは松平盟子が実家を訪れたときの歌である。私ははっとする。捨てられないモノに絡まってどうしようもないのは私も同様だ。もし娘がいたら重荷になるだろうなあ私は。

 ✿ 冷蔵庫三台にモノをあふれさせ小食の母なにを憂うる

 ✿ モノとモノの間を縫ってモノ運ぶ母の日常に分け入ってわれは

 老人が買いだめするのは、体調を崩したときや雨風の強い日のために、常に冷蔵庫に餌をキープするからだろう。私も絶えず5日分の備蓄。あの3・11のときスーパーから食品が消えてしまって。冷凍庫はつねに隙間がないほど買いだめしてしまう。もし夏に停電になったらなどとおもうこともあるが、餌があること、雑貨などの備蓄があることは心強い。

 ✿ 吐息つき母はようよう諦める山なすモノからひとつ棄てるを

 オシャレ老女A子は戸建てからマンションの2DKに引っ越した。そのときに服を捨てるのがスゴク辛かったと言う。いまはブランドもの以外はとても安いが、半世紀も前はブラウス1枚買うために親の機嫌を、夫の機嫌を取らなければならなかったのだ。イヤな思い出のある服だってたやすく捨てられない、一首を作るために言葉を捨てることに明け暮れているのに。

 ✿ 庭中にあらゆる草木はびこりて母は隙間になお花植える

 まるで私のことを詠まれているような1首だ。自分の代わりに花が咲いて欲しいのだ。咲いた花が散っても次々に咲いて欲しいのだ。落葉しても新しく芽吹く木々、でも人間は老いたら枯れてしまう。次々に花を植えるのは生命への執着ではないか。31首もの連作から5首だけとりあげながら、松平盟子の母君が羨ましくなった。高齢でもお元気のようだ。それなのにしっかりした娘にサポートされている。私は私自身がサポートしなければならない。

         今日は君とケンカしたとき着ていたあのTシャツを捨てよう。

                        5月7日   松井多絵子